【それから】
完結、その後のお話です。
遼太郎視点です。
それから――。
それから、数ヶ月経った。
俺たちは改めて彼氏彼女になった。
芹菜は「友達から」なんて言っていたが、そんなもの初めから関係無く、俺の気持ちは以前と変わらない。
「彼女になりたいな」と言われた時は、本気で嬉しかった。
まさに、毎日がバラ色とはこの事――だけど…。
ただ一つ、あの女――早川祥子さえ居なければの話。
初めは、何も言って来なかったくせに、芹菜ときちんと付き合うようになってから、俺たち二人の邪魔はエスカレートしてくる。
そして、今日は邪魔者の早川を撒いて、芹菜と一緒に下校する。
「ねぇ、遼太郎。きっと、祥子ちゃん、怒ってるよ」
「…べ、別に、いいだろう」
「えー!知らないよー!祥子ちゃん怒ると怖いよー!」
「………」
怒ると怖いって、そんな半端なものじゃない。
早川の場合、まるで特撮映画に出てくる怪獣と同じだ。
だからと言って、逃げて引っ込む訳にはいかない。
気持ちは、地球防衛。宇宙平和の為、日々頑張っている。
やっと手に入れた可愛い芹菜。簡単に諦められるもんじゃない。
「…――てる?」
「ん?何か言った?」
「えー?聞いてなかったの?」
「あ、悪い。ごめん」
もうっ!と言って、口を尖らせて少し不満な顔をする芹菜。
そんな表情も、やっぱり可愛いと思うのは惚れた弱みなのかもしれない。
「明日の約束、ダメになったの」
「は?」
「だから、最初にダメになるかもって言ったじゃない」
「え?でも…」
「何よ!もともと強引に約束させたのは、遼太郎の方でしょう!!」
「………」
思い返せば、確かにそうかもしれないけど…。
でも、明日は俺の誕生日。
そして、大失敗に終わった生まれて初めての遊園地デートのやり直しがしたかったのに。
――ガッカリ。
「ごめんねー!そんなに落ち込まないでよ」
「もしかして、早川と…?」
「うーん、まぁ、そんな感じかな」
「………」
やっと、付き合うようになったのに、芹菜の中じゃ【俺<早川】なんだ。
「でも、午後からなら――って、聞いてる?」
「…――早川って、何で、いつもあんな感じなんだ?」
「え?祥子ちゃん?――だって、ほら、それは…私、そそっかしい所あるから」
「………」
そそっかしい――否定は出来ないけど…。
横を歩く芹菜に視線を送ると、すぐに気付いてくれる。
少し首を傾げてニコっと笑いかけてくれる。
可愛すぎる!
「祥子ちゃんって、心配性なお父さんって感じだよね」
「………」
父親だと言うなら、娘の幸せ考えろ!!
結局、明日のデートはドタキャンされ、気持ちもどん底。
そんな俺と対照的に、俺の母さんはテンション高い。
家に帰るなり「お帰りーー!」と、声も無駄にうるさい。
「あら?遼太郎、元気無いわね。まさか、芹菜ちゃんと喧嘩なんてしてないわよね?」
「………」
さすがに、デートとドタキャンされたなんて言える筈もない。
――♪♪♪
どうやら、母さんのメールの着信音のようで、手にしていた携帯を見ている。
「これで、送信っと」と、独り言を言っている。
制服から私服に着替えて2階の自室から階下に降りて行くと――。
――♪♪♪
「あら、さすが、今時の子はメール早いわ〜」と言って、母さんは「返信!」と携帯を操作している。
「さっきから、誰とメールしてんの?」
と言って、画面を覗き込もうとしたら、サっと携帯を胸に押し当てて隠されてしまう。
「コラ!盗み見るなんて!嫌われるわよ!!」
「…っ!!!!」
嫌われる――俺が、今、一番聞きたくない言葉。
「全く…、あんたが学校から帰って来てから、元気無いから、どうせ芹菜ちゃん絡みだろうと思って、何かあったのかメールしてみただけよ」
「芹菜と?」
「言ってなかった?私と芹菜ちゃんはメル友なのよ」
「なっ?!」
ちょっと、待て!!
確かに俺だって、芹菜の番号もメアドも知ってる!!勿論、交換もした!!
なのに、どうして、電話も俺からばっかりかけてるし、メールの返事だって――あんなに早くないぞ!!
有り得ねぇ…!!!!
「あ、それから、明日、朝から出かけるからね。芹菜ちゃんと」
「はいっ??!!」
どん底よりも、下ってあるのか?もう、這い上がれねぇ…。
そうなのか?まさか、本当にそうなのか?芹菜の中じゃ【俺<母さん】なのかーー!!!
「俺、寝る」
そう言って、自室に向かう俺に「あっそ、おやすみー!」と軽く返される。
母親なら、具合悪いの?大丈夫?とか言えねぇのかよ。
もう、立ち直れないかも。
――翌日、正午。
はっきり言って、不貞寝。
昨日の夕方から、起きる気力も体力も削がれてしまっている。
俺の16の誕生日がまさかこんな風に迎えるとは、誰が予想出来た?
「ただいまー!」と玄関から母さんの声。
朝から芹菜と出掛けて、帰ってきたんだ。
「遼太郎!部屋に居るの?」
と俺の部屋のドアを開ける音が聞こえる。
いつまで寝てるの?このバカな息子は!っと言われて掛け布団をガバっと剥ぎ取られる。
どうせ、俺は、バカだよ…。
ベッドの中でうずくまる様に丸くなってる俺に、「具合でも悪いの?」と心配げな声が落ちてくる。
何だよ!さっきは俺の事、バカとか言ってたくせに…――って、声が違う!
「芹菜!!」
声だけで分かる!声だけで十分!
飛び起きた俺に少し吃驚した顔で、両手を胸に当て俺の事を見ている芹菜が母さんの横に並んで立っている。
「芹菜、どう…――」
言葉が続かなかった。
目の前の芹菜はいつもと違う。
淡い水色のワンピースに、髪はアップにしていて、ほんの少しだけ化粧もしてる?
「芹菜?」
「あ〜、やっぱり変?変だよね〜?」
と言って、母さんに向かって「折角ですけど、着替えてきます」と言う。
「え〜?どうして、可愛いのに!!」
「えっ?どうして、可愛いのに!!」
芹菜がキョトンっとした顔で俺と母さんを見て、吹き出した。
笑いを抑えようとしてるのに、どうしても止まらない芹菜は「ごめ〜ん」と繰り返しながら笑い続けてる。
「笑い過ぎだろ!芹菜!!」
「え〜?それより、出掛けない?今日は、遼太郎の誕生日でしょう!」
え?
それって…?!
「そうよ、母さんが遼太郎の誕生日にプレゼント用意したんだから」
「な、何を?」
「だから!とっても可愛い芹菜ちゃんを!!」
「!」
見る見る内に頬を赤く染めていく芹菜と体温が急上昇する俺。
そんな俺たち二人を見て母さんが――
「今からでも、遅くないでしょう?――さぁ、行ってらっしゃい!」
「内緒にしてて、ごめんね」
手を合わせて謝る芹菜。そっと片目を開けて俺の様子を伺ってくる。
「おばさんが、遼太郎にプレゼントしたいって言うから…」
と、今回の事の始まりを話してくれる。
「プレゼントを二人で選ぼうって、一緒に出掛けたのに、おばさん私にワンピース買ってくれるから…――」
恥ずかしいのか、だんだん声が小さくなっていく。
「私もビックリしたよ。まさか、こういうプレゼントなんて…」
そう言って、さっきより顔を真っ赤にする。
「芹菜…。ワンピース、似合ってる」
「ありがとう。ちなみに、ヘアメイクは祥子ちゃんなんだ〜」
照れ笑いをする芹菜。本気で可愛い。
「どこ行く?」
「どこでも、遼太郎の誕生日だもん。遼太郎の行きたい所」
――ぐ〜、きゅるるる〜。
そう言えば、昨日の夜から何も食ってない。
「取り合えず、ランチだね」
くすっと笑って、二人で何を食べようかっと相談しながら歩く。
そっと、手を繋ぎながら――。
16歳の誕生日。
最高の日になった。
――そして。
〜〜♪〜〜♪
「遼太郎、メール?」
「うん、まぁ…」
【5時までには、帰れ!!】
早川ー!5時って、小学生か!!有り得ないだろう!!
〜〜♪〜〜♪
「あれ?またメール?」
「………」
【芹菜ちゃんの写メ送って!】
母さん!何、考えてんだよ、全く!
まだまだ、芹菜を独り占め出来そうにないな……。
END
最後まで、読んで頂きありがとうございます。
これで、本編&おまけ合わせて完全完結となりました。
感想などございましたらお送り下さい。
宜しくお願いします。
相澤塔子