寮を目指して
放課後、水瀬たちは校舎から少し離れた学生寮に向かっていた。
学生寮は校舎のように一階しかない平屋建てで寮母さんが管理している。
現在の入居者は緒方、加藤、山田、そして昨日から橘も住んでいる。
「誰の部屋でやるの?」
水瀬が誰にともなく訊く。
「山田くんの部屋だよ。私の部屋は散らかってるし、加藤くんは人を入れるの好きじゃないから」
「加藤くんは分かるけど緒方さんは部屋を片せば良いんじゃないかしら」
「図星を指さないでよ、朝比奈さん。私だって少しずーつ片してるんだから!」
「ほとんど掃除してるのは俺だけどな」
ドヤ顔の緒方の隣で加藤が嘆息する。
『加藤くんが居なかったら緒方は生きていけないな』
「もう! 人をダメ人間みたいに言わないでよ!」
『実際そうだろ?』
「そうだけどさ~」
山田にまで指摘されて緒方はしょんぼりと肩を落とす。
「寮の人たちは仲が良いですね。あの輪に入っていけるかな」
少し不安げな橘。
彼女も寮住まいになるが、緒方とは対称的で大人しい性格だからだろう。
「大丈夫ですよ。皆さん何だかんだでお人好しですから」
水瀬に車椅子を押してもらっている須藤がクスリと微笑む。
「た、橘さん。私、ちゃんと誘導出来てるかな!?」
橘に腕を貸してあげている相原。
勇気を出して橘に声をかけたは良いが、初めての誘導に完全にあがっている。
「木村くん、天野さん、ついてきてる?」
緒方が振り返ると最後尾に不機嫌そうな木村と欠伸をする天野が来ていた。
「何で俺まで……」
「嫌なら来なければ良い」
「お前、いちいち癪に障る言い方するよな」
「あなたはいちいち言い訳する」
「あんだと?」
すぐに言葉が荒くなる木村とクールというより排他的な天野は反りが合わないらしい。
『まあまあ二人とも。落ち着いて』
耳が聴こえていなくても察したのだろう。
西島が二人を止める。
「あ? 邪魔すんなよ」
「耳が聴こえないんだから何言っても無駄」
『そのスケッチブックにはどんな絵を描いてるの?』
天野の皮肉は通じず、西島が興味を示したのは自分と同じように持ち運んでいる天野のスケッチブック。
「ただの絵。黒しかない、ね。そっちこそ何描いてるの? 文字だけ?」
『そうだね。手話だと皆が困るから僕はこれでお話しするんだ』
「ふーん。めんどくさ」
それだけ言い残すと天野は先に行ってしまう。
「嫌な奴だな」
『朝比奈さんみたいだね。そのうち慣れるよ』
「朝比奈先輩とアイツが二人きりになったら恐ろしいですね」
『以外と仲良くなるかもよ?』
「それはないでしょ」
呑気な西島の言葉に木村は苦笑した。




