灰色
『灰色の空』
天野 碧は空を見上げる。
灰色の空。
曇り空でも心境を詩的に表現したわけでもない。
天野は青空を見たことがなかった。
「碧~。行くわよ~」
母に呼ばれて天野は視線を下ろす。
灰色の世界に映る白い校舎。
「つまらない景色」
天野は脇に挟んでいたスケッチブックを投げ捨てる。
いくら絵を描いても描いても満たされない。
たくさんの色鉛筆を買ってもらっても灰色にしかならない。
だから色鉛筆なんて全部折ってやった。
彼女の友達は真っ黒な鉛筆だけ。
勉強は嫌いだが、鉛筆だけは好きだった。
鉛筆だけが灰色な世界に生きる天野を肯定してくれていた。
「ちょっと! またスケッチブックを捨てて」
「だって、もう描くところないし」
絵を描くことは好きだ。
だけどページの埋まったスケッチブックは彼女に思い出や達成感など与えてくれない。
色が分からない彼女に現実を突きつけるだけだった。
「新しい学校か。薔薇色の青春なんてあるのかな」
「それは碧が決めるのよ」
母はスケッチブックを拾うと天野に握らせる。
「また新しいの買ってあげるから思い出を描きなさい。別に色がなくたって碧が学校を楽しめば、それは薔薇色の青春になるわよ」
母は天野の背中を押す。
「ほら、行ってきなさい。新しい友達が待ってるわ」




