5話 解放
一日……二日……三日……。
一週間……二週間……。
もう、何日経ったのかも分からなくなった。
森をさまよい続ける日々。
私は、干からびたシュブェルンの肉をかじりながら、黙々と歩を進めた。
歯を立てると、筋の張った肉が軋み、口の中に広がるのは、血の味の抜けたただの獣臭い繊維質。
噛み締めても、もはや味らしい味など残っていない。
それでも、他に食料がない以上、これで飢えを凌ぐしかない。
この森に、シュブェルン以上の脅威はいなかった。
最初は身を潜め、音を殺し、足音さえ警戒しながら進んでいたが、気づけばその必要もなくなった。
慎重さは薄れ、狩りも作業と化す。
シュブェルンの狩りにも、いい加減、飽きてきた。
もう何匹仕留めたかすら覚えていない。
初めて倒した時の興奮も、今はもうない。
最近では、狩りの方法すら単純化していた。
周囲に紐を投げ込む。
枝や葉に絡みつく動き、そのわずかな歪みで、シュブェルンの位置を特定する。
それができれば、技を使うまでもなく、短剣一本で十分だった。
獲物を追い詰め、仕留める。
死体を運び、肉を削ぎ、焼くか干すかして保存する。
この繰り返し。
目的もなく、出口も見えないまま、ただ生きるために続ける狩り。
私は、一体何をしているんだ?
ここに来た理由は、何だった?
何のために、私はこの森に入った?
シュブェルンを狩るために来たわけじゃない。
けれど、気づけばこの生活に染まりつつある。
まるで、この森に囚われたみたいに。
私は、ふと足を止めた。
空を見上げる。
木々の隙間から覗く空は、相変わらず青かった。
このまま、私はどこへ向かうのだろう。
そんな思考に沈みかけたその時――。
風が吹いた。
突風。
突然の、強い風。
髪を揺らし、肌を撫で、背中を押し出すような風。
森の匂いが、一瞬で消える。
何かが変わる気がした。
ふと、前を見た。
――視界の先、木々が途切れていた。
息を呑む。
思わず足が動いた。
小走りから駆け足へ、そして全力で駆け出す。
胸が高鳴る。
鼓動が速くなる。
風が、森の匂いを削ぎ落としていく。
そして――。
森を抜けた。
視界が、一気に開ける。
目の前に広がるのは――
大草原。
緑と金が混じる草が、どこまでもどこまでも、地平線まで続いていた。
風が吹くたび、穂が揺れ、まるで海の波のようにさざめく。
森の中では聞こえなかった音が、そこにあった。
風の音。
草のざわめき。
鳥の鳴き声。
森の閉塞感とは正反対の、解き放たれたような空間。
私は、立ち尽くした。
青空が、広い。
どこまでも。
無限に広がる空間が、信じられなかった。
風が吹き抜ける。
草の匂いが鼻をくすぐる。
そして、視線の遥か先。
草原の果てに、かすかに見えた。
――街だ。
低い丘の向こうに、大きな高い壁がそびえていた。
その内側に、幾つもの建物が並ぶ。
想像していたより、ずっと大きい。
うっすらと霞む城の輪郭。
壁の側面の門へと続く道。
そこには――人がいた。
馬車が行き交い、荷を積んだ車が並び、人々が言葉を交わしながら歩いている。
森の中では考えられなかった、人の賑わい。
私は、ついにここまで来たのだ。
森を抜け、未知の世界に立った。
ここまで、半年。
この瞬間のために、歩いてきた。
私は息を吸い、そして――
駆け出した。
森を抜け、草原へと飛び込む。
太陽が眩しい。
風が、肌を撫でる。
森を出た興奮と、高鳴る鼓動のままに向かう。
どこまでも広がる草原を駆け抜ける。
遠くに見える街へ、一直線に。
街へ向かう道は、どこだ?
私は目を凝らしながら、地面を探す。
草原の中に、踏み固められた一本の道が続いていた。
それは、人と荷車が行き交ったであろう、土が剥き出しになった道。
私はその道へと向かい、さらに速度を上げた。
少しずつ、街が近づいてくる。
壁の輪郭が、はっきりと見え始める。
門の位置が分かった。
そして――。
門へと続く、大通りに合流した。




