待ち
森の中から一人の男が姿を現した。
背の高い茶髪の男。黒いシャツの上に革の鎧をまとい、黒いズボン、強化革のブーツを履き、腰には剣を下げている。
彼はそのままメイロナへ歩み寄り、口を開いた。
「たった一人であの盗賊どもを全滅させたのか。……面白い。いや、実に興味深いな、お嬢さん。」
メイロナの表情が鋭くなる。
「あなたは誰? 何の用? どうして私たちの行く手を塞ぐの?」
その男はしばらく沈黙し、やがて答えた。
「俺は聖騎士だ。名はフィーク。お前の力はさっき見た……エルフ族の姫よ。」
メイロナは腕を組み、彼を嘲るような鋭い視線で見つめた。
その背後ではグエダが魔法の準備を始めていたが、メイロナは手を上げて制した。
「大丈夫よ、グエダ。私がやる。」
メイロナはフィークをまっすぐ見据える。
「そういうことね。盗賊たちを操っていた黒幕……あなたでしょ、聖騎士さん?」
フィークは薄く笑い、剣の柄に手をかけた。
「察しがいいな。だが……それでも、お前を殺して全部奪わせてもらう。」
彼は剣を抜き、一気に突進する。
メイロナは巨大な炎の魔法を放つが、フィークはその炎を一刀両断し、驚異的な速さで距離を詰めた。
振り下ろされた剣を前に、メイロナは瞬時に防御結界を展開する。
刃は彼女を包む球状の結界に叩きつけられ、フィークは跳び退いて体勢を立て直す。
続けて空気を圧縮した斬撃を飛ばすが、結界には傷一つつかない。
動揺したフィークが叫ぶ。
「なに!? 俺の《エアスラッシュ》を防いだだと? ありえん! 俺はランク4の聖騎士だぞ!」
メイロナは無傷のまま微動だにしない。
「その程度? 一つ忠告しておくわ。逃げられるうちに逃げなさい。まだ本気じゃないんだから。」
苛立ったフィークは彼女の周囲を駆け回る。
「俺を侮るな、小娘がぁ!!」
殺意を込めた渾身の一撃で仕留めようと飛びかかる――
だが突如として見えない力が彼を弾き飛ばし、地面に叩きつけた。
地を削る勢いで剣を突き立ててようやく止まり、口から血を吐き、全身に裂傷が広がる。
かすむ視界でメイロナを見つめる。
ようやく彼はそれを“見た”。
彼女を包む、圧倒的な魔力の奔流――
そして意識を失い、地面へ倒れ込んだ。
メイロナは御者とグエダの方へ振り返る。
「行きましょう。目的地はセマの街よ。」
二人が馬車に乗り込み、馬が走り出す。
グエダは胸の中で密かに思った。
(どうかもう盗賊なんか出ませんように……)
◆ セマ到着 ◆
馬車はセマに到着した。
眩いほど清潔で白を基調とした街並み。
日光を受けて輝く優美な建物、人々で賑わう活気ある通り。
屋台や店が並び、活気ある雰囲気に満ちている。
メイロナとグエダは冒険者ギルドへ向かった。
ギルドの前でメイロナは立ち止まり、顎に手を当てながら建物を見つめる。
「私、この街に滞在するわ、グエダ。」
グエダは驚きに目を瞬かせる。
「なぜですか、お嬢様? ご自分の王国を離れてまで、どうしてここに?」
メイロナは真剣な表情で答えた。
「彼らを待つの。あの二人はここに来る。どれだけ時間がかかっても、絶対に。」
「どなたですか? 私がお嬢様に仕えてからずっと見ていますが……お友達なんておられませんでしたよ?」
「いるわ。二人。生きているかどうかもわからないけれど……ここで待つ。」
グエダは胸に手を当て、もう一方の手を大きく広げて大げさに叫ぶ。
「お嬢様! 存在するかどうかもわからぬ方々を待つおつもりで!?」
メイロナは柔らかく微笑む。
「死んでないわ。まだどこかにいる。だから待つの。どれだけ時間がかかっても。」
グエダはため息をつきつつも落ち着きを取り戻す。
「……わかりました、お嬢様。私も協力します。」
メイロナはグエダの手を取り、感謝の笑みを向ける。
「ありがとう、グエダ。」
◆ 二十年後 ◆
メイロナは今日も冒険者ギルドの前に座っていた。
毎日、小さな城から出てきては、同じ椅子に座り、日が沈むまで待ち続ける。
年を重ねるごとに彼女の表情は寂しげになっていったが、その瞳にはかすかに希望が残っていた。
グエダは主の苦しむ姿を見守りながらも、捜索を続けた。
彼女は冒険者たちに金貨二枚を払って捜索隊を組織し、二人を探させた。
だが、それらしい情報は一つも見つからなかった。
その日もメイロナはいつもの席で、俯いたまま呟いた。
「二人は今、何をしてるんだろう……まさか転生して全部忘れたなんて……そんなの嫌。私、一人ぼっちなんて……」
苦い表情が浮かぶ。
「今日も何もなし……もう二十年よ。どうして来ないの……? 私のこと忘れたの? こんなに目立つ場所で待ってるのに――」
言い終える前に、隣へそっと誰かが腰を下ろした。
その男の手には、水の入ったボトルと……巨大な焼き肉が握られていた。




