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「これは、一体……?」

「アルトゥール! おかえりなさい!」


宿屋一階、食堂スペース。

テーブルの上には果物や野菜の飾り切りが所狭しと並んでいた。


周りには見物客が集まっており、時折買い取っていく人や、飾り切りの過程そのものを面白がって投げ銭をする人などもいる。


そんなプチイベント会場を作り出した犯人は、私だ。


というのも、昼食を終えた私は暇を持て余していたのだ。昼過ぎからやれることも思い浮かばなかったので、ならば久しぶりに遊ぼう! となったのだが――




「誤発注!? あんた、またやったのかい!? それも果物なんて……!」

「すみません! すみませんっ!」


見知らぬ家庭料理、おいしい! おいしい! しあわせ! ハッピー気分だった私の耳に飛び込んできたのは、爆音――もとい、トラブルっぽい会話。


フロンは平均気温が高く、湿度が低い地域で、いわゆる乾燥帯に位置する街だ。物を冷やす魔導具は普及してないし、冷暗所の確保も難しく、果物の長期保管は難しい。ナッツ類やデーツなら平気だろうけど……それらをわざわざ「果物」と呼ぶだろうか?


気になって覗いてみると、緑と黒の縞模様をした球体が、山積みされていた。


どこからどう見てもスイカだ!


「あの……! あまってるなら、かいとりたいですっ」


私の声に、二人が振り向く。


「え? ……あっ! さっきのひと!」

「こら! あんた失礼だよ! ……ウチの子がすまないね。で、何を買い取りたいって?」


看板娘さんは、まるで救世主でも現れたかのように瞳を輝かせていた。一方、女将さんは胡乱げだ。


「そのくだもの、かいとりたいです」

「廃棄予定のこれをかい? ……いくらなんでも、売れないよ」

「五つ……三つでもいいので! おねがいします!」


両手を組んで祈りのポーズ。こういう時こそ子どもっぽい見た目を活かすのだ。


女将さんは右を見て、左を見て、私を見て、看板娘さんを見てから、大きく息を吐いた。


「わかった。だけど、売るなら正規の値段だ。負けないよ」

「では、かえるだけ、ください」




――そんなこんなで、こんなことになっている。


私の説明を受けたアルトゥールはまだ納得していない。そこからどうしてそうなったのだ、と言いたげな表情をしている。


なんてことはない。使い道のない果物に使い道を示しただけだ。


アルトゥールは私のことを、料理ができないメシマズ系女子だと思っているみたいだけど、私が苦手なのは味付けであって、料理そのものではない。……たぶん。


それに、切るという行為は料理だろうと魔物だろうと素材だろうと変わらない。切れば切れるのだ。なら、ちょっと面白く切ってあげれば、付加価値が作れる。


私は買い取ったスイカたちを流水で冷やしたあとに、食堂の真ん中で飾り切りを始めた。

元々、過程そのものをショーにする気はなかったのだけど、いつの間にか見物客が増えて、かと思えば、買い取りたいという人が現れたのだ。


そして、その様子を見ていた女将さんが、スイカ以外の果物や野菜も提供してくれたため、テーブルを埋め尽くすことになったわけである。


「なるほど……リクエストは可能だろうか」

「きくだけききます」

「……これと同じものを」


アルトゥールが指したのは、人参で作ったドラゴンだ。人参嫌いの男の子に、なんとか食べさせたいというお母さんがいたので、作ってみたやつ。


アルトゥールもこういうの好きなんだ?


それなら、一緒に食べるためにと残していたスイカを使って作ろう。


出来が良すぎてもったいないとか、魔法で保管したいとか言い出したアルトゥールを説得するのに、ちょっと時間がかかったのは、また別のお話。


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