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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第二章

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77話 付与士に必要な物は剣ではない

 

 サイクロプス――巨獣系に分類される一つ目の巨人。その身長は五メートル前後と非常に大きい。耐久力が高く、その巨体から繰り出される攻撃は大木を容易にへし折る。

 ヘカトケイルはその中で、異例といえるほど小型に生まれた個体であった。


 その姿。その声。かつてを思い出し右手が震えた。

 頭の奥で響く剣戟、死闘の断片。直後に吐き気をもよおし口を押さえた。


「うっぷ」


 なんとか飲み込み事なきを得る。

 剣ほどではないが、やはり魔王も軽くトラウマになっているようだ。戦えないほどじゃないが、長時間相手するのはきつそうだ。俺の反応に気が付いた将軍が、心配し手を伸ばそうとする。俺はその手を腕で払った。


「問題ない。で、魔王で間違いないのか。あんた、直接戦ったことがあるんだよな?」

「燃えるような赤い体毛と圧死させるような空気感。忘れるはずがない。しかし、明確な意思を感じない。あれではまるで人形だ。かつて戦った魔王とは似て非なる存在。大神官、貴様一体何を作った」


 大神官と呼ばれた男は、鼻の下にある髭を撫でながらご機嫌な様子だ。

 それ故か、問いかけに鷹揚に応じた。


「魔王の肉片から再生させたのだ。すばらしきは魔王の生命力。時間はずいぶんかかったが、こうして我らが神としてご復活なされた。見よ、この威容を」


 そこで俺は妙な引っかかりを覚える。

 肉片……? なんで魔王の肉片をあんな奴が手に入れられた?

 魔王の死体は戦場にあったはずだ。その後の処理も軍が手早く行っているはず。少なくともあの場にいなければ無理だ。


「あの戦争でどれほどの犠牲を出したのか、知らないわけではあるまい。それを貴様は、再び繰り返そうとしているのか。度し難い。魔王を始末した後、貴様には当然の報いがあるだろう」


 将軍に大神官は気圧される。

 だが、奴は食い下がり語る。


「力と身分を持った貴様のような者には理解できぬだろう。持たざる者の苦痛が。世界は腐りきっている。富を持つ者だけが勝者となり持たざる者は奪われ続ける。この権力構造を終わらせるには、人を超える力が必要だ。人が人を支配するからこそ争いや不平等が生まれる。我々は人を超える存在に等しく支配されるべきなのだ。そこにこそ真の平和がある」


 等しく支配、真の平和ね。

 ぽりぽりと頭を掻く。


「さてはあんた、魔王に味方した連中の一人だな?」

「ぬぐっ」

「戦時中はずいぶん儲けたそうじゃないか」


 図星みたいだな。

 俺の隣にやってきたフェリスが、納得した様子で俺の話を継続させる。


「私も耳にしたことがあります。利益の為に、魔王に味方し王国を裏切った者達がいたと。まさか魔王を蘇らせた本当の理由はそれですか?」

「バレては仕方が無い。かつて私は商人として魔王に味方をした。今でもあれが忘れられないのだよ。あの圧倒的な力による破壊、そして転がり込んでくる莫大な財。あの興奮をもう一度味わいたいのだ」


 ヘカトケイルは、人語を解し戦略を理解した魔王だった。


 ただ殺すのではなく利用する知能を備えていた。そこに眼をつけたのが、一部のめざとい商人達であった。彼らは、魔王に交渉を持ちかけ裏で取り引きを行った。魔王は奪った金や貴金属を代価として支払い、商人達は魔物へ大量の物資を横流しした。後に魔王が倒され商人共は捕縛され処刑されたが、手を逃れた少数の者達は顔を変え名を変え、あるいは身を潜め生きながらえた。


「邪魔な銀の剣聖はいない。抗うだけ無駄なこと。今度こそ王国は魔王の手に落ちるのだ。そして、私が新たな支配者となる」

「黙れ」


 距離を詰めようとした将軍が、大神官に向けて剣を一閃する。だが、即座に間に割って入ったヘカトケイルが斬撃を交差した腕で防いだ。


「やはり硬い。切り落とすには至らないとはな」

「私が!」


 胴体めがけてフェリスが斬りつける。

 が、刃は斬るどころかはじき返されてしまった。


「なんて硬さ!? これが魔王!?」

「退くんだ。ミルディアの姫騎士」

「くくく、軽く遊んでやれヘカトケイル!」


 飛び退いたフェリスに瞬時に追いつき、ヘカトケイルは豪腕で拳を打つ。反射的に剣の腹でガードしたフェリスだったが、踏みとどまることはできず壁へと直撃する。直後にすさまじい衝撃音が鳴り響き洞窟内が揺れた。


「がはっ!?」

「フェリちん! よくもあーしの仲間を!」


 追撃に動こうとしたヘカトケイルの前に、グランノーツが立ち塞がる。斬るような蹴りを躱し、グランノーツは相手の腹へ斧を叩きつけた。だが、硬すぎて斧刃が通らない。


「ま!? 鬼硬でしょ!? どわっ!?」


 両肩を掴まれるグランノーツ。そのまま真上に持ち上げられると、床に勢いよくたたきつけられてしまった。その間、俺とザインは注意が逸れているのをいいことに、倒れている騎士を一箇所に集めていた。


 フェリスもグランノーツもタフだ。

 心配していないわけではないが、それ以上に二人を信頼している。


「さすが魔王じゃん。グラちゃんを投げるなんて想定すらしてなかったしょ。出力上げてばちばちにやらないと鬼ヤバかもね」


 倒れたグランノーツに振り下ろされる拳。グランノーツは斧を一度手放し、右手で拳を受け止めた。さらに押し返しながら立ち上がる。

 直後にぶしゅーと、蒸気を噴出した。


「実は鬼むかついてたんだよね。ドワーフはあんた達の奴隷じゃない。みんな平凡に生きて満足しながら生を終えたいだけ。なのにあんたみたいなのが邪魔するからあーしらの居場所がなくなる」


 ノノンの怒りに呼応するようにグランノーツが拳を押し返し、突き放すように足でヘカトケイルを蹴り飛ばした。

 一方、回復が終わった騎士達は、続々と自らの力で立ち上がり、未だ意識のない同僚を担ぎ避難を始めていた。最後の一人を見送ったところで俺とザインは仲間を助けるべく戻る。


「流れ返し」


 将軍はヘカトケイルの攻撃を刃先で逸らしつつカウンターを決める。それでも硬すぎるせいか僅かに斬るのみ。まともにダメージを与えているのは、今のところ彼一人だ。さすがは次期剣聖と言われる将軍だ。


「じょ、じょぉかああああ! お前はぁ、浄化するぅうううう!」


 ザインの拳がヘカトケイルの顔面にめり込む。壁面に激突した敵を、彼女はさらに追撃とばかりに拳を何度もたたき込んだ。


 豪火が噴き出しザインの身を焼く。

 飛び下がったザインは、焦げ付いた肉体にキュアをかけて回復していた。


 のそりと立ち上がったヘカトケイルはほぼ無傷である。悪魔であるアビロスの力を取り込んだザインが傷すらつけられないなんて。強度だけなら確実に”あの時”以上。

 ダメージを負っていたフェリスも再び立ち上がり戦いに復帰を果たした。


「くはははっ、王国軍を苦しめたあの魔王だぞ! 貴様らに勝ち目など微塵も無いわ!」


 大神官が騒いでいるが、こっちはそれどころじゃない。

 必死に状態異常を付与しようと描き続けているが、さすがは魔王と言うべきか、耐性の範囲が広すぎて弱点にヒットしない。弱体化を優先したが、ここは仲間の強化に切り替えるべきだな。まずは受けるダメージを減らしつつ与えるダメージを増やす。


 くそっ、剣技が使えれば俺も魔王と。

 ちらりと腰の剣に視線を向ける。


 いや、こんな状況で試している場合はないか。しっかりしろ。


「一人づつ直書きでステータスを上げる。グランノーツは俺を守ってくれ」

「おけ。ばっちりラクっちを守護るから」


 駆けだした俺に気が付きヘカトケイルが反応する。だが、すかさず立ち塞がるのは、グランノーツに乗ったノノンだ。ヘカトケイルが火炎を吐く。グランノーツは火炎をその身で受け止めた。大きな背中が壁となって俺を守ってくれる。


「ラクっちって、あーしが必ず守るって信じてるよね。なんで?」

「なんだよいきなり」

「教えてよ」

「これまでの積み重ねなんかもあるけど、俺がグランノーツを信頼している理由は、言葉を軽んじないことだ。やると決めたことは成し遂げる。誰よりも前に立ち、真っ直ぐに突き進む。ノノン・グランハイデルンは俺の憧れなんだよ」

「ギャルに憧れるなんて。ウケる。でも、悪い気はしないじゃん」


 グランノーツは炎を耐え続ける。

 熱風が後ろにいる俺にまで届き、息をするのも苦しい。


「実はあーしさ、ラクっちの本当の顔知ってんだよね」

「!?」

「グラちゃんてさ、熱源とか色々見れたりするわけ。マスクの下に別の顔があるってこともなんとなく分かっちゃうというかさ。始めはなんでこんなことしてるんだろうって思ってた。本当に信用できるのかなって疑ったりもしたし」


 突然の吐露に戸惑いを隠せない。

 だが、俺は彼女の言葉を聞き続けた。


「ふと思ったんだ。ラクっちもあーしと同じで、顔を隠さないといけない事情があるんだって。そう思ったら腑に落ちてさ。それにラクっち頑張ってたよね。自分が一番戦いたいのに支援しててさ。まぁ、そこは皆気が付いてはいたけど。何が言いたいかっていうとさ、もっとあーしらを信じてくれてもいいよってことっしょ。最強の仲間じゃん」


 炎を遮りつつづけるグランノーツの背中を見つめる。


 ……自分が一番戦いたい、か。


 ああ、そうか俺はなんだかんだ言い訳しながら剣士に戻りたがっていたのか。中途半端に剣を装備して、失ったはずの剣技を取り戻せると密かに夢見ている。今だって抜けないかと期待している自分がいた。


「こんなものがあるから……決意が鈍るんだ。もっと早く気づくべきだった」


 腰にある剣を床に投げ捨て、俺は俺自身に短杖を奔らせる。

 剣技なんて必要ない。俺が、今の俺が、銀の剣聖よりも強い付与士になれば良いだけの話だ。仲間を信じ全力で支援することが、付与士である俺にたった一つできることだ。


 ――超位付与術(オーバーエンチャント)


 杖の先に目映い白光が宿る。


「とっとと倒してホームで宴会だ!」

「それいいじゃん! あーしらの鬼本気、見せちゃおう!」


 俺は超位状態によるバフを付与する。


 直後にグランノーツは斧の一振りで炎を吹き飛ばした。

 ぶしゅううう、蒸気が噴出する。



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