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22話 訊いてくださいシスター

 

 ステンドグラスより差し込む陽光は大地の女神像を明るく照らす。

 クラリッサは両手を組んで祈りを捧げていた。


 願うのは孤児院の子供達の安寧と幸せ。


 もちろんシスターとして人々の幸福も祈っている。それでもやはりあの子達は特別なのだと、クラリッサは像に向ける頭をさらに深く下げる。


(パドリックさんのおかげで孤児院はもっているようなもの。あの方がいなかったら私もあの子達も。どうかあの方にも幸福を)


 彼女は恩人の幸福を祈りながらふと思い至った。


(パドリックさんってご結婚されているのかしら。結婚指輪はなかったから独身だと思うのだけれど。だとしたら私にもワンチャンあるでは? いえいえ、いけませんクラリッサ。神聖な祈りの途中でこのようなことを考えるなんて)


 クラリッサは気を引き締めた。


(あの温和な雰囲気と紳士らしく常識をわきまえた大人な振る舞い。髭もよく似合ってて控えめに言っても好きだわ。好み。子供達にも好かれてて我が儘も怒らず受け入れてくれる。やっぱり好き。もしお付き合いすることになったら子供達は怒らないかしら。ああ、もう交際のことを考えているなんて。でも想像するだけで涎が)


 涎をハンカチで拭った彼女はふぅとため息を吐く。

 その時、教会にベルの音が響いた。


「罪の告白ですね。参りましょう」


 立ち上がった彼女は静謐に満たされる女神像の前から静かに下がる。

 その足で懺悔室の方へと向かっていると話し声が聞こえた。


(すでに対応してくださっているのね。だけどまた防音の魔道具のスイッチを入れ忘れてる。神父様には困ったものね。あら、この声……)


 彼女は懺悔室の前で足を止めドアに耳を押し当てた。聞き覚えのある声。どうやら神父が対応している相手は例の最強パーティーのリーダーのようであった。


「では仲間の顔と素性を知りたいと?」

「ええ、そうなんです。なんかこう素性だけでも調べる方法とかないですかね」

「難しいご質問ですな。うーむ、ならば魔道具を使うというのはいかがですかな」

「詳しく」

「知り合いの魔術師に離れた場所の景色を映す魔道具を作るものがおりましてな。十センチほどの小さな箱を覗きたい場所に置いておくと、もう片方の魔道具で見られるという代物なのです。実は儂もクラリッサの寝室に置いておりまして毎日のちょっとした楽しみとして使っております」


 ……え?


 クラリッサは頭が真っ白になった。

 彼女は神父の胸ぐらを掴んでなんて言ったのか再確認したくなった。


「羨ましいですね。クラリッサさんでかいですもんね。俺も見たいなぁ」

「あれこそまさしく大地の女神の信徒。肥沃な大地で育ったメロンのように実にエロチックで豊満な実り。金貨一枚で一日だけ魔道具をお貸しできますよ」

「もしかしてそのお金は寄付に?」

「孤児院の経営に使わせていただきます。これなら後ろめたい気持ちもないかと」


 めきっ。懺悔室のドアに拳が生えた。

 腕は神父の胸ぐらを掴むと、ドアを破壊し外へと彼を引きずり出す。


「後ろめたい気持ちがないとはどういうことでしょうか。神父様」

「ク、クラリッサ!? 違うんだ。今の話はちょっとした冗談だよ。儂は決してそのようなことは」

「それにしてはずいぶんとじっくり眺めたような話しぶりでしたけれども」

「話にはリアリティが必要だろう!? それに孤児院の経営を助けるにも援助は必要だ! 儂だってあの子達を路頭に迷わせたくはない!」

「語るに落ちましたね神父様。それでは魔道具があると仰っているも同然ですよ」

「あ」


 神父の顔が一気に青ざめた。

 彼女は神父を掴み上げ腹を何度も殴る。

 気絶したところで神父に変わって懺悔室へと入った。


「先ほどの話はお忘れください」

「……はい」

「続きをいたしましょう。私がお伝えした周囲の評価を上げる作戦は上手くいきましたか?」

「それが、挑戦はしてみたのですが、向いていないのかなかなか上手くいかず。でも仲間の一人の顔と素性は判明しましたよ」

「フェリスさんですね。女性だったのですね。私も少々驚きました。おまけにミルディア領領主のご令嬢だったなんて。ミルディアを解放し大勢の人を救った。きっと貴方が人のために動いたからこそ生まれた結果だと思いますよ」

「報酬が良ければいくらでも社会貢献するんですけどね」

「一言多い」


 クラリッサは相変わらずの態度に眉間に皺を寄せた。

 彼らの打ち立てた功績は大きい。もはや諦められていたミルディア奪還を成し遂げたのだ。人々も戻りにわかに王国は活気づいている。舞い戻った美しき姫騎士の存在感は日に日に強まっており、所属する名称未定(アンノウン)は一段上の人気を獲得していた。


 彼女は男性でなかったことに残念を感じつつ、フェリスの凜とした佇まいと時折浮かべる可愛い笑顔に、あれはあれで百点だ。などと心の中で拳をぐっと握った。


「で、次は誰にするか決められているのですよね?」

「ザインとの距離を縮めようかなと。彼とはフェリスの次に付き合いが長いですし、他の二人と比べると距離も近めですし」

「なるほど。確かにあの方の素顔は私も気になりますね」

「でしょ? ベルトと布で覆われてますし、定期的に引きこもって部屋で何かしているみたいだし。正直フェリスは好奇心でしたけど、ザインは普通に心配で」

「というと?」

「なんか重い悩みを抱えてそうじゃないですか? 俺なんかに解決できるのかなってちょっとためらってて」


 クラリッサは下方にある小窓を開けて「手を出して」と指示をする。

 男は恐る恐る手を差し出した。


 彼女はその手の上に手を重ねる。


「悩んで立ち止まる前に挑戦してみましょう。もしかしたら貴方にしか解決できない悩みかも知れません。仲間を信じる前にまずは自分自身を信じてみましょう」

「シスター……」


 すごくいいことを言ったとクラリッサはにんまりする。

 だが、男はもう片方の手で彼女の手に重ねさわさわさわり出す。


「シスターの手ってすべすべしてて気持ちいいですね」

「ひぃ」


 彼女は慌てて手を引っ込めた。

 なんて男だ。こちらが親切にアドバイスしている最中にセクハラをしてきたのだ。やはり碌でもないそこそこのクズ。


「真面目に話をしているのですよ!」

「すみません。つい。衛兵は呼ばないでください」

「帰りなさい。そして、二度と来ないでください!」

「今日はありがとうございました。また来ます」

「来るなと言ってるだろうが!!」


 男は懺悔室を出た。



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