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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第一章

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21話 ラックスさんの付与術教室

 

 付与術とは正統魔術と祖を同じとする、いわゆる派生魔術である。

 かつて筆記魔術と呼ばれた技術が独立し、独自性を高めた結果たどり着いたのが現在の付与術だと言われている。


 付与には二つの方法がある。『筆記付与』『刻印付与』だ。


 筆記付与は速度特化の付与である。

 持続時間は短く、刻印付与と比べると効果も小さい。

 その代わり非常にお手軽であり、いつでもどこでも付与を施すことができるのが最大のメリットである。


 刻印付与はその名の通り、元となる魔術文字を直接刻み付与を施す技術である。

 文字が消えない限り永続し効果も非常に大きい。

 デメリットは非常に手間と時間がかかる点である。戦闘向きではなく一般的に武器や武具などに施す付与として用いられる。


「――というのが付与術の基本知識だ。正統魔術で使用する”口頭魔術”と違い、付与は文字を書いて付与を施す。だから筆の速さは付与の速さに直結する。もちろんただ速いってだけじゃだめだ。速く正確に文字を描く必要がある」


 ホームのダイニングで、俺は黒板に説明を書く。


 テーブルを囲み傾聴する三人は、弟子依頼を頼んできた新人ちゃん達である。

 内二人はただの付き添いみたいだが、この先付与士と全く関わらないとも限らない、前提の知識は身につけておいて損はないだろう。


 今だけ弟子のシーフちゃんは、話を聞きながら手元でメモを取っているようであった。

 相変わらず無表情だけど熱意は伝わってくる。


 シーフちゃんが挙手する。


「正確に魔術文字を書くと、何か良いことがある?」

「魔術文字は世界の深層から力を引き出す”形”だ。形それぞれに性質があり、現在もなお最も効率よく引き出せる形を魔術師や付与士達が模索している。で、話を戻すが、文字を正確に描くメリットは、安定した効果を引き出せる点に尽きる。先ほども言ったが魔術文字は形状によって効果や効率が変化する。不要な跳ねやのびは効果が下がる場合もあるし上がる場合もある、結果が上下する付与なんて不安で使えないよな。だから常に一定の効果を得られるよう基準を定めているんだ」

「それが正確な魔術文字?」


 その通り。万人が真似できるようブロック体で定めた魔術文字こそ基本。

 ただし、ここで勘違いしてはいけないのは、あくまで初級中級向けの基本だってことだ。

 効率の良い魔術文字は筆記体であり、文字の美しさがそのまま効果に影響を及ぼす。美しい文字であればあるほど効果は上昇する。故に腕の良い付与士の書く文字は芸術的で素人には難解だ。


 これが付与士が専門性が高いと言われるゆえんである。


 そして、その文字をいかなる状況でも書き切らなくてはならない。

 たとえ目の前で仲間が死にそうな状況でもひたすら文字を描く、それが付与士になった瞬間から課せられる責務。ガラスのハートでは務まらない。


 そういう意味では、シーフちゃんは適性はあるのかもしれない。


 感情の波が小さいのは付与士に向いている。

 彼女はいつも無表情でリアクションも薄い。おまけにシーフは隠れるのに向いた戦闘職だ。器用で他の職と比べると移動速度も速めだ。


 もしかして割と有望株なのか?


「今日は素人でも使える付与を一つ授けてやる。戦闘だけでなく日常でも役立つ付与だ。これを使いこなせれば上のランクに手が届くようになるかな」

「ほんとう!? あたし達Dに上がれるの!?」

「使いこなせればな。光栄に思えよ。俺のような超一流付与士に直接教わる機会なんて普通ないんだからな」


 シーフちゃんはこくりと頷き「私達は、運が良い」と呟く。

 授業を続ける俺は、一人一人に紙を配った。


「そこにこの魔術文字を死ぬほど書け。分かってると思うが雑に書くなよ? 一回一回丁寧に正確に書くんだ。目を閉じてても書けるくらいになれ」


 俺は黒板に三文字の魔術文字を書く。


「これは『肉体保護(フィジカルガード)』の付与だ。受けるダメージを軽減させ治癒能力も上昇させる。スタミナも少しずつ回復するからかなりお勧めだ。文字数も少なく初心者でも使いやすい」

「欲しい! あたし達が一番欲しかったバフだよ! あたしも覚えるから、ベルもリノアも使えるように頑張ろう!」

「確かに全員が使えれば何かと便利ですよね」

「二人は覚えなくて、いい。ラックスさんに教わるのは、リノアだけ」

「「なんで!?」」


 二人に問われたリノアはしばらく沈黙し、顔を少し赤らめ目をそらした。


 はっとした剣士ちゃんは「たはぁぁ、そういうことかぁ!」と額を押さえた。

 一報の魔術師ちゃんは訳が分からずきょとんとしている。

 まぁ俺も分かってないのだが。


「でもこの付与は全員で覚えた方が良い。リノアには後日に別の付与を教えて貰おうよ」

「そうだね。リノアちゃんもそれでかまわない?」

「次回があるなら、妥協もあり」


 おい、次回もあるなんて訊いてないぞ。

 こいつら依頼なら必ず引き受けて貰えると思ってないか。いつも暇なわけじゃないんだぞ。


 そうしている間に三人ともかりかり羽ペンで魔術文字を書いていた。

 静かに背後から手元を覗く。


 剣士ちゃんは性格通り字が歪んでいて雑だ。

 注意したのをもう忘れたのか、不要なところで跳ねていたり伸びていたりかなりひどい。


 魔術師ちゃんはさすが魔術師というべきか字は基本に忠実で綺麗だ。

 魔術学院の授業で習ったのだろう。

 しかし、筆記速度は遅い。正統魔術において魔術文字は速さよりも丁寧さが最重要とされている。速度については練習が必要だな。


 シーフちゃんは正確かつ速い。

 この中で誰よりも文字が美しく、その動くペンに迷いが見られない。書けば書くほどに無駄を省き速度を上げる。それでいて正確さは失われない。間違いなくセンスがある。


 弟子か。まいったな。弟子を取るつもりはさらさらなかったんだけど。

 この子、放置するには惜しいほど才能がある。

 定期的に教えるのもありかな。まぁ本人次第ではあるけど。





「もう無理っ、疲れた飽きた!」

「アカネちゃん早いよ。まだ紙の半分しか使ってないよ」

「だってつまんないんだもん。剣を振ってる方が楽しいし」


 真っ先にギブアップしたのは剣士ちゃんであった。

 予想通りというか本当に見た目通りの子なんだなと逆に感心してしまう。


 付与士の鍛錬はひどく地味でインドアだ。アグレッシブで飽き性な子には向かない。


 その点でいえば魔術師ちゃんは向いている。

 嬉々として文字を書き続けるその精神は魔術師や付与士向きだ。


「こんなに楽しいのに。アカネちゃんは損してるよ。はぁはぁ、文字を描くの楽しい。楽しいよぉおお!」


 違った。狂人だった。

 なんで冒険者しているのだろう。学院に残って研究者になるようなタイプじゃないか。


 シーフちゃんは黙々と書き続け、紙の裏もびっしりであった。

 もう間もなく紙が文字で埋め尽くされる。


「終わった。今なら、眼を閉じていても書ける」

「じゃあ試させて貰おうかな。短杖を貸すから空中に文字を描いてみて」

「ラックスさんの、杖……」


 杖を受け取ったシーフちゃんは目を閉じて集中する。

 頭の中でどう描くか繰り返しているのだ。


 先に言っておく。これは失敗が大前提の挑戦だ。

 確かに魔力の線は空中に軌跡として残る。だがしかし、紙の上とは違い空中は奥行きがあるのだ。僅かなズレが文字の形を変え効果に影響を及ぼす。付与術は繊細であり奥が深いのだ。


 すっ、短杖の先が空中に固定される。


 それだけで俺は目を大きく見開いた。

 ぶれさせないのは付与士として必須の技術。

 この子はすでにその技術を身につけている。


 短杖の先が魔術文字を描く。


 描き終わるとシーフちゃんに肉体保護(フィジカルガード)の付与がされた。

 付与されなくても分かる。完璧な付与だった。


「リノアだっけ? 次からは報酬なしで顔を出せ。お前が使えそうな付与を教えてやる」

「いいの?」

「俺はいい加減な奴だけど付与に関しては真面目だ。お前には才能がある。大成するかはお前次第だけど、習得できればきっとパーティーの助けになる。保証してやる」

「嬉しい。お世話になる、お師匠様」

「やめろ。そういうの苦手なんだよ」

「じゃあラックス先生」


 まだましだな。お師匠様って言葉にはトラウマがあるんだよ。

 俺の師匠を思い出すからさ。


 不意にドアが開けられフェリスが顔を出した。


「みなさんお疲れ様です。お風呂が沸いたのでどうぞ入ってください。夕食も作っていますからゆっくりしていってくださいね」



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