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汝ウサギなれど鷹が如く  作者: ふーろう/風楼


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 翌日。


 朝食を終えて、アリスを学校に送り出して……そうして暇を持て余してしまった俺は、特に行く宛もなくふらふらとそこらを散歩していた。


 町中を巡り、島を巡り……何か趣味でも見つける必要がありそうだなぁと真剣に悩み、悩んだまま脚を進めて、全くの無意識で遺跡へと足を向ける。


「そう言えばここにもいつの間にか来なくなってたなぁ……。

 ちょっと前は休日となったら真っ先にここに来ていたんだがなぁ……」


 ここに来るのが生きがいだった、ここに来てタバコを吸うのが趣味だった。

 あの時の俺は正しかったんだと、そう思いながら吸うタバコ……俺はいつのまにか、その味をすっかりと忘れてしまっていた。


「それもこれもアリスのおかげだな。

 ……アリスとここで出会って、あの飛行艇を見つけて……ある意味ではこの遺跡のおかげとも言えるか?」


 なんてことを考えながら石造りの遺跡の中をふらふらとうろつく。


 国の調査が入ったとあって、遺跡は以前のそれとは少し違った姿を見せていた。

 埃やら土砂やら、遺跡の表面を覆っていた汚れ全てが綺麗に取り払われて、その形や模様がはっきり見えるというか、くっきり分かるというか、そんな状況となっている。


 石壁や石床の隙間まで何かないものかと探ったのだろう、隙間に詰まっていた土埃も綺麗に取り払われていて……よくもまぁ、そんな所まで調べ上げたもんだ。


 ……しかしそんだけ調べてもあの飛行艇がどうしてあそこにあったのか、誰があそこに運び込んだのか……そもそも一体誰か作ったものなのか、何も分からないままってのもなんとも不思議な話だな。


 あれだけのデカブツを運び込んだとなれば、何らかの痕跡くらいはあってもおかしくないだろうに……。

 国の専門家が調べても何も分からないなんて、そんなことありえるのだろうか?


 ……海から運び込んだなら、そういうこともあり……えるのか?


 分からないと言えばアリスの身元も、実際の所はどうなんだろうなぁ。

 本人が気にしていないからそこまで問題になっていないが、いざアリスが両親と会いたいなんて言い出したら……一体全体どうしたら良いのか、どう探したら良いのか手段が全く思い浮かばない。


 警察や国でさえも正体を掴めない謎の少女と飛行艇……か。


 ……まぁ、発見時のアリスの状態を思うと、仮に両親が何処の誰か分かったとしても、あのアザをつけたのが一体誰だったのか、そこら辺のことがはっきりしないことには会わせる訳にはいかないがなぁ……。


 ……と、そんなことを考えていたその時。


 何かの音というか、何らかの振動が足を伝わって響いてくる。


「……なんだ?」


 思わずそう声を上げて、周囲を見渡すが……周囲に、遺跡に特に変わったような様子は見受けられない。


 だが確実に、確かな振動が足を伝わってきていて、俺は……、


「下か?」


 と、更に独り言を続けて、例の階段へと……アリスの見つけたあの階段へと足を進める。

 

 そうして階段の奥を……真っ暗な階段の奥を、じぃっと見やった俺は、何も見えないならばせめて……と、長い耳を立てて音を探る。


 すると階段の奥からは風が吹き抜ける音だけが響いてきていて……それ以外の音や振動はこれといって特には伝わってこない。


「気のせいだったか……?」


 尚もそんな独り言を口にした俺は……階段の奥には進まず、踵を返す。


 前回来た時はランタンがあったが、今回は手ぶら……手ぶらでこの暗闇を進むのは、どう考えても危険過ぎる。


 折角生活が上手くいっているというのに、そんなことで怪我をしてもしょうもないと考えた俺は、そのまま遺跡を立ち去ろうとする。


 ……と、その時、靴のつま先が何かを蹴飛ばす。


 それなりに硬い何か、結構重い何か……。


 石でも蹴飛ばしたかと視線を下げると、そこにあったのは一冊の本だった。


「……は?」


 何故本? 誰かが落としたものか?

 いや、仮に誰かが落としたものだとして、どうして俺は今の今までこれに気付かなかったんだ?


 変な音というか振動がして、周囲に視線を巡らせて、原因を探る中で見つけても良かっただろうに……階段へと進む中で見つけても良かっただろうに……。


 手のひらよりも大きい、この黒い表紙の本を、どうして俺は今まで見逃すことが出来ていたんだ?


 そんなことを考えながら混乱した俺は……なんとも言えない不穏な気配に喉を鳴らし……意を決してその本を拾い上げる。


 ……まぁ、普通の本だよな。

 どこにでもある普通の本だよな。


 裏も表も表紙が真っ暗なのと、タイトルが何処にも書かれていないのが気になるが……まぁ、誰かのメモ帳とか、日記帳ならそういうこともあるだろう。


 そんなことを考えながらゆっくりと本を開き……真っ白なページを数枚めくり、そうして目に飛び込んできた文字は……、


「何だこりゃぁ? これは文字なのか?」


 と、思わずそんなことを言いたくなるような代物だった。


 少なくとも俺が知っている文字ではない……何らかの暗号とも思えない複雑な図柄が並んでいるようにしか見えない文字列。


 確か本土の更に向こう……東の果てや、北の果てに別の国があるとは聞いたことがあるが……それらの国でもこの国とほぼ同じ言語と文字が使われているはずだ。


 大昔は種族ごとに……獣人ごとに全く別種の言語と文字が使われていたそうだが、そんなものはとっくに廃止されて、今の言語と文字に統一されて……。


 統一されて……? ああ、なるほど……。


「ってことはこれは大昔に使われていた……どっかの獣人の言語の本なのか。

 ここにあったことからすると……考古学の参考書か何かか……?

 そう言えば遺跡の内部にも、色々と変な模様とかがあったような……?

 それらを解読するために誰かが持ち込んで、ここに置き忘れたって訳か……」


 俺がこの本に気付かなかったのは、置かれていた場所がたまたま死角になっていたか、あるいは柱の上だとか、屋根の上だとかに置き忘れたものがたまたま落下してきたとか……きっとそんな理由なのだろう。


 そうして色々と腑に落ちた俺は……その本のページをパラパラとめくってなんとなしに眺めながら、屋敷へと足を向けるのだった。


お読み頂きありがとうございました。


遺跡に関する謎が全て明らかになるのは、当分先のことになる予定です。

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