ただしいこたえ
おうじひさまのまえに、ようせいルンペルシュツルツキンがあらわれていいます。
ねがいをかなえたければ、ぜったいにティツィアーナに、わたしのなまえを、しられてはいけない。さもなければ、おまえのねがいは、なかったことになってしまう。
ねがいをかなえてくれるんじゃないの。
おうじひさまはようせいをせめますが、ようせいはどこふくかぜです。
かなえるさ。あなたがティツィアーナに、わたしのなまえをしられなければ。
いうだけいって、ようせいはきえます。
おうじひさまは、あわてておうじさまにそうだんしました。
おうじょうぎわのわるいおんなだ。
おうじさまは、はきすてたあとで、おうじひさまにようせいのなまえを、といました。
なまえ?なまえね。ええと……ながくて、わけがわからないなまえで、おぼえていないわ。
おうじひさまは、こまったかおで、こたえます。
そんなわけのわからないなまえなら、わかるはずがないな。
おうじさまは、そういって、わらいとばしました。
ティアは、まよったあと、だいじんにそうだんすることにしました。
ルーンが、てきであるいじょう、ティアがそうだんできるあいては、かれしかいなかったのです。
ルーンのこと、くすりのこと、おうじひのねがいと、つれさられないための、じょうけんのこと。
すべてせつめいして、なまえをさがす、てだすけをたのんだティアを、むつかしいかおでみたあと、だいじんはうなずきます。
わたしもさがしておくから、あなたはあなたでさがしなさい。
いわれてたちさったティアをみおくり、だいじんはつぶやきます。
「わたしは、まちがったのか」
「なにをかな」
とつぜんあらわれた、うつくしいせいねんに、しかし、だいじんはおどろきませんでした。
ただ、しせんをおとし、くいを、くちにします。
「ティツィアーナは、うつくしく、かしこく、やさしいむすめです。あのこはあまりに、やさしすぎる。おうひになんて、してはいけなかった」
ちいさなころからみていたティアはもう、だいじんにとっても、むすめのようなそんざいでした。
「わたしがおうひになんて、したせいで、ティツィアーナはあんなにも、くるしんでいる。だが、わたしはこのくにのだいじんとして、ティツィアーナをうしなうことは、できません」
やまいでやつれたてで、じぶんのかおをおおうすがたは、いっこくのだいじんとはおもえないほど、ちいさくみえました。
「けれどわたし、こじんとしては、もしだれか、ティツィアーナを、しあわせにしてくれるひとがいるのなら」
いっそつれさってほしいと、おもうんです。
ほとんどきこえないこえでおとされた、ことば。
それはまちがいなく、だいじんの、ティツィアーナにたいする、あいでした。
うつむかれたあたまをみつめ、せいねんはだいじんにいいます。
「わたしはルンペルシュツルツキン」
「それは、」
「わたしもまた、あのこが、いちばんしあわせになれるかたちを、さがしている」
あたえた、なを、どうするかは、あなたにまかせよう。
いいのこして、せいねんはきえました。
なまえをさがしながら、ティアはかんがえます。
そくひとしてかんがえるならば、ルーンのてをとるわけにはいかない。
けれどそれは、ほんとうにただしいこたえなのだろうか。
ティアがいないと、ほんとうに、くにはたちゆかないのか。
たちゆかないとして、それでいいのか。
「いい、わけが、ないわ」
はやりやまいがおきた、あのとき。
おとうさまとおかあさまは、しごくあっさりと、しんでしまった。
じぶんもおなじようにしなないと、どうしていえる?
ひとひとりをたよりにたっているくには、あやうい。
ならばじぶんなど、きえてしまうべきなのではないか。
「いいえ。でも」
それこそが、にげたいじぶんのつくりあげた、いいわけかもしれない。
にげたい。そうだ。わたくしは。
にげだしたい。
ほんとうは、もう、ずっと。
にげだしたかった。ルーンのてを、とりたかった。
なにもかもなげだして、ただのティツィとして、ルーンのとなりに。
それができたなら、どんなにしあわせだったろう。
ああ。
じぶんのこころを、むししてうごくこと、それは、ただしいことなのだろうか。
うつむいたティアの、ふくのすそを、ちいさなてが、つかみました。
そくひさま。
どこからはいってきたのでしょう。おしろにはにつかわしくない、すりきれ、うすよごれたふくをきた、ちいさなこどもが、ティアにすがりつきます。
おかあさんが、しんでしまう。
くすりをください。
こどもはこんがんしますが、ティアはおいしゃさまでも、くすしでも、かみでもけんじゃでもありません。みてもいないびょうにんのくすりなど、よういできはしないのです。
おいしゃさまを、てはいしましょう。
いますぐたすけて。いますぐくすりを。
いますぐは、できません。
こたえたティアをみかえすひとみには、しつぼうがありありとうかんでいました。
これが、ひとだ。
ティアのなかでなにかが、ぷつりときれました。
ひとはたにんに、さいげんなくもとめつづけ、かってにきたいし、かってにしつぼうする。
かってなきたいにこたえつづけても、そこにおわりはない。
ならば。
ティアがひとつ、じぶんのわがままをとおすことの、なにがただしくないというのだろう。
ティアは、ルーンは、もうじゅうぶん、このくにに、りえきをあたえた。ならば、もう、このくにに、せをむけても、いいのではないだろうか。
だいしょうだ。
ティアは、こどものまえに、ひざをつきました。
くすりは、ばんのうではありません。まちがったくすりをあたえれば、しんでしまうことだって、ありえるのです。あなたはおかあさまを、ころしてしまいたいの?
こどもは、ぶんぶんと、よこにくびをふりました。
まちがったくすりを、あたえないためには、おいしゃさまにおかあさまを、みてもらはなくては、なりません。あなたはおかあさまのところまで、おいしゃさまを、あんないできますか?
こくりとうなずいたこどもの、あたまをなで、ティアはたちあがります。
おいしゃさまをよんできますから、ここですこし、まっていてください。
ティアはいいおいて、そのばをたちさりました。
ひとをよび、おいしゃさまをむかわせます。ひようは、じぶんがだすといって。
まだ、ふつかある。
ティアはなまえさがしのてをとめ、べつのことをしはじめました。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
続きも読んで頂けると嬉しいです