四季折々の、若葉たち
続きです、お楽しみくださいませ!
第1話 夏風 夜月
「来てくれたんだ。私が勧誘した人って、私を恐れてなのか…何人も勧誘したのに、来てくれたことなかったから。嬉しい」
そう、優しさに包まれた笑みを浮かべながら話しかけるのが、僕をこの部活に勧誘した張本人だ。
柔らかな金髪のミディアムヘアー、その煌びやかになびく髪相応に似合う子どものような…それでいて宝石のように綺麗な顔と肌。イスに座っていてもわかる背の小ささは、それこそ綺麗な妖精を連想させるほどに小さく、それでいて美しかった。
きっと…僕はその時、その様子に惹かれ、そして引きつけられていたのだろう。
でも僕は…彼女の名前を知らなかった。
彼女とは、僕が怪我をして保健室に行った時にたまたま出会い、たまたま話し、たまたま勧誘されたから興味を持ちここに来たというだけで、それ以外に全く接点がない。
呆然と立ち尽くしていることしかできなかった僕に、彼女は
「あ、ごめんね。初めて来たんだし、何をしたらいいのかわからないよね。とりあえずこっちに来て座って、自己紹介から始めましょう」
と、また優しく微笑みかけて来た。
だがこれが、まだ自分を、そして他人を騙すためのポーカーフェイスで…これが偽りの彼女なのだということを、僕はまだ知る由もなかったのだが…。
僕は彼女の向かいに用意されていたイスに腰掛ける。
それと同時に、彼女も、用意されていたのだろうか。暖かな紅茶を2つ持ってきて、片方を僕の目の前に。もう片方を、自分の目の前に置いた。
「さて…自己紹介がまだだったよね。私の名前は、夏風 夜月。びっくりしたでしょ?こんな真っ金金に染まった髪の毛。大体みんなから言われることだから、気にしないで。びっくりするのも、無理はないことだから」
彼女は、少し頭をうつむけながら、そう言った。
それに続いて僕も
「僕の名前は、佐倉 蓮。よくみんなからは、桜か蓮って呼ばれてる。四月生まれだし、名字がサクラだからね、それに…」
触れるつもりはなかった、でもきっと、彼女は自分の髪にコンプレックスを抱えているんだろう。それくらいは見ていればわかった。だから僕はきっと…そのコンプレックスを治してあげることはできない。整形してあげることもできない。だから伝えなきゃならないと思い、勢いで
「その髪、僕は宝石みたいに綺麗だと思う。僕は好きだ」
と言ってしまった。
調子に乗った、こんなこと普通の男子なら絶対言わないのに…。
恐る恐る彼女の顔を見てみると…そこには、笑み…でもなく、はたまた喜びでもなく…。
ただただ唖然と、驚いた様子で呆然としていた。
僕が彼女を見ていることに気づいたのか、彼女は
「な、何言ってんのよ!そんなこと言われたの私、初めてだから嬉しい…じゃなくて!えっと…とにかくうるさい!もう絶対そんなこと言わないで!」
と叫び交じりに言った。
ちょっと待ってよ、ここ保健室だよ?ダメでしょその声の音量…。
驚きながらも、僕は
「ご、ごめん。もう二度と言わない…」
とボソボソと言った。
すると夜月はまた、
「二度と言わないって何よ。その……この髪、褒められたの、親以外だと初めてだから、びっくりしちゃって、ごめんなさい…」
と顔を赤くしながらも言った。
ああ…なんだろう…すごく可愛い小さな子どもを扱ってる気分だ…。
そんなことを考えていると、
「えっと、とにかく…次は、この部活がどんなことをするのか、それを説明するね」
そう言うと夜月は、一枚の紙切れを取り出した。
それを見ながら夜月は
「この部活は、お悩み相談部。縮めて相談部って言って…主に、この学校の生徒の悩みや相談を親身に聞き入れ、対談し、場合によってはアドバイスをしたり、解決策を模索してあげたり。そうして、抱えている悩みなどを楽にしてあげる部活。それが、相談部の役割なの。」
お悩み相談部…なるほど、つまりスクールカウンセラーのようなものを、カウンセラーさんの代わりに引き受けて見ないかと言うことか…。そう思っていると、それに続いて
「今は部員は私しかいなくて…ほんとは、私が一年生の時三年生の部長がいたんだけど、もうその人も卒業しちゃって。それを引き継ぐ形で、私が部長になったの。でもぜんっぜん部員が集まらなくてさあ…相談受ける側がすごく悩んじゃってたってわけ。で、そこにあなたが現れた!少し話してわかった、ああこの人は人の話を一身に聞くことのできる、根っからの相談相手気質なんだって!だからあなたを勧誘した。この部活なら、あなたもきっと、素晴らしい学校生活が送れる。それを、約束できる。だからお願い!相談部に入って!」
と迫られた。断る理由もない、別に入部すること自体は構わない。でもその前に、1つだけ聞きたいことがあった。
少し冷め始めていた紅茶を一口飲む。あまり紅茶のことはよく知らないのだが、それでもわかる。鼻から抜ける、冷めてるはずなのに暖かく心地よい香りは、僕の心を落ち着けてくれた。カップを机に置くと、僕は
「わかったよ。元々僕はこの部に入部するためにここに来たんだ。今までの堕落した生活も変えたかったし…なにより、君ってすごく面白そうだし興味があったんだ。でも、その前に聞きたいことがある」
と言った。
すると彼女は不思議そうな顔で
「なぁに?答えられることならなんだって答えるわ!」とハキハキと言った。
「なぜ、相談部だったんだ?この学校にはちゃんとスクールカウンセラーの先生もいるし…相談があるなら、資格も何もない生徒の集まりより、プロのカウンセラーの方にみんな流れていくはずだ。
相談したいだけならスクールカウンセラーでいい。あまり使う人もいないそうだし…何より、予約制なんだから登録だって楽だ」
これは、僕の純粋な疑問だ。
もし、この相談部という存在を、入学から僕が何かの経緯で知ったとして。そして、誰かに相談したい悩みがあったとして。
それを、資格も持ってないただの素人で、一、生徒である人に相談しようと思うだろうか?
答えはNO。絶対に相談しない。
そう思っていると、彼女は少し考えた様子で顔を上げ、
「それについては正当な答えがある。その答えっていうのは…自分よりいくつも歳上の大人、には理解できない高校生特有の悩みが、私たちにはあるからよ。高校生が一クラスに、例えば三十人集まれば、必ず1人は、心に闇と呼べる大きな何かを抱えてるものよ。私がその証拠で…大人には打ち明けられない、特殊な闇を抱えてる。あなたにも…もしかしたら存在しているものかもしれない。
私はそんな人を理解したい。理解して、相談させることで楽にさせ…そして、いつか救いだしたい。その闇からね。それをできるのは…私たちしかいないの。だから私はこの部を引き継いで、形にしたい」
それは、思ってもみなかった答えだった。
軽い気持ちで聞いたつもりだった。僕が予想してた答えは
「そんなこと考えたこともなかった〜テヘペロ☆」か
「何も考えず引き継いだだけなんだよね〜…」か、そのくらいかと思っていた。
でも彼女は、それをはるかに上回る…立派すぎるほどの大義を持っていた。言葉で、相談することで楽にして、あわよくば救いだしたい…そんな大義、掲げたことも考えたこともなかった。
もしそれについていくことで、何か僕も道が切り開けたら…。
と考えていると彼女が口を開いた。
「これが私の本音。この部を引き継いだ理由。
あなたの…佐倉蓮くん、君の答えを聞かせて欲しい。
この部に入るのか、入らないのかを」
少し、間を持たせたかった。考えたかったからだ。答えは決まっていたけど、ほんとに正しいのか理解したかった。もう、机の上で湯気も出さず冷めきった紅茶を、少しずつ飲んで、飲みほして…カップを机に戻した。それから僕は口を開いた。
「わかったよ。君のその大義に、僕も協力させて欲しい。君の言った通り、僕も、大人には言えない闇を抱えている。その闇の重さと苦しみは特にわかるから…その辺では役に立てるよ。でも…君のことは、会ったばかりでよく知らない。だから、これから君という人物を、よく知っていけたらと思う。これから、よろしく、夏風さん」
そう言って一応、無愛想ながら笑顔を作ると、彼女は感じのいい笑顔で
「私のことは夜月でいいわ。私からも、これからよろしくね、蓮くん」
と言った。
これが僕と夜月の出会い。そして、僕と、相談部の出会いだ。




