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チェックメイトの一手先  作者: 八海宵一
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 二日目の工場見学は、順調だった。

 工場長のウルは相変わらず憤然(ふんぜん)としたようすでトリアを(にら)みつけていたが、案内や説明に関しては手を抜くことがなかった。それだけ父親の偉業(いぎょう)に自信があり、(ほこ)りに思っているのだろう。トリアはその熱意と敵意のある説明に、満足していた。

 ヴィスはこの日も、事務所から出ることが許されず不満だった。訪れる先でコーヒーと焼き菓子を出され、ヴィスはすでに八杯目のコーヒーに手を伸ばしている。工場見学も四ヶ所目になると、さすがに焼き菓子には手が伸びなくなった。基本的に、どこの工場も造りが同じなので、事務所内のようすも目新しいものがない。ヴィスは退屈だった。灰色の簡素な部屋の中で、パイプイスに座っているだけというのは彼の(しょう)にあわない。

 メリルとの世間話は面白かったが、王宮のことになると、すぐ口を閉じてしまうので、結局、たいした情報は得られなかった。それにメリルは仕事が()まっているらしく、持ちこんだ書類に一生懸命、目を通し、手帳に書きこみをしていたので、なかなか話しかけるきっかけがなかった。誰かのせいで、かなりスケジュールを無理しているらしい。一体、誰が彼女を苦しませているというのだろう……。

 ヴィスは八杯目のコーヒーを飲み干すと、メリルにいった。

「あの、聞いていいかな?」

「はい?」

 少し警戒したようなそぶりで、メリルが首をかしげた。さっきから、王宮に関する質問が多かったので自然と身構えているようだった。ヴィスはそのようすに気づき、茶化すようにいった。

「トイレってどこにあるの?」

 メリルの冷たい視線が返ってきた。

「いや、そんな目でみられても……本当に行きたいんだ。朝から、コーヒーを飲み過ぎたみたいで」

「でしたら、事務所を出て、階段を下りたところにあります。ここに来るときに見られたと思いますが」

 メリルは咳払いをして、いった。

「ご案内しましょうか?」

 あきらかに(いそが)しそうなメリルの姿に、ヴィスは大きく首をふった。

「いや、大丈夫。一人で行けるから」

「では、すいませんが、そうして下さい」

 メリルの視線は、すでに手帳のほうに戻っていた。

 よほど、仕事が溜まっているらしい。

 ヴィスは刺激しないように、そっと席を立ち、事務所を出た。

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