19
中央政務室から連絡がはいったのは、翌朝、遅い時間になってからだった。
あたたかな陽光が差しこむホテル内のカフェで、遅めの朝食を見学していたトリアのもとに、ボーイが銀のトレイにメモを乗せて運んできた。
「なんて書いてあるんだ?」
ローストビーフのサンドイッチをほおばっていたヴィスが、訊ねた。
「工場見学の日時が決まったようです。どうやら、二日に分けて見学するようですね」
トリアは瞬時に読み終えると、ヴィスにも見えるようにテーブルの真ん中にメモを置いた。のぞきこむと、そこにはいくつかの地名が挙げられていて、その横に日付と時間が書きこまれていた。メモによると、今日は迎えの馬車が昼過ぎにホテルまでやって来るらしい。じつにゆったりとした日程だ。
「今日の昼から二ヵ所、明日は朝から回って四ヵ所か……どうなんだ?」
口をモゴモゴ動かしながら、ヴィスが訊ねた。
「どうなんだ? とは、どういう意味ですか?」
「だから――、昨日いってた、不正はわかりそうか?」
あたりを気にしながら、声をひそめるヴィスに、トリアは肩をすくめた。
「見に行く前に結論が出せるのなら、見に行く必要はありません。確かに推測では、不正が疑われますが、今のところは決定的な証拠がありません。すべては見学をしてからです。ただ……」
「ただ?」
「ケーナバルトの国立電池工場は、大小合わせて八四一ヵ所存在します。そのなかの六ヵ所だけでは、わからないかもしれません」
「は、八四一!?」
驚きで声が裏返ったヴィスに、トリアは静かにうなずいた。
「世界規模で物を売るのですから、そのくらいの数にはなりますよ」
「それを、全部見学するのか、お前?」
「場合によっては、するかもしれません。まあ、現実的ではありませんが……中央政務室も許可しないでしょうし。技術の改善を名目にしている以上、全ての工場を見学する必要はありませんからね」
「じゃあ、この六ヵ所の工場でなんとか証拠を見つけたいんだな」
「ええ……まあ、ここに書かれている工場は、すべて主要な大型工場ばかりですから、私の推測が正しければ、なにかわかるとは思いますよ」
「ふうん」
ヴィスは、トリアの確信を持った笑顔に少し疑問だったが、それ以上は追及せずに湯気の立っているコーヒーに口をつけた。どうせはぐらかされるに決まってる。
「ところで、今朝はなにを占ったのですか?」
唐突な質問に、ヴィスはむせた。
「な、なんだ? 突然」
「毎朝、占っているのでしょう? 今朝はなにを占ったんですか?」
「どうして、そんなこと聞くんだよ?」
「興味があるからです。あなたの骨占いはおもしろい。よければ、今朝の占いの内容を聞かせてくれませんか?」
「おもしろいって……、そんなおもしろがってもらっても困るんだが、まあ、いいだろう。今日は、そんな大事になるようなことは占ってないからな」
「なにを占ったのですか?」
顔を輝かせながら訊ねるトリアに、ヴィスはコーヒーをもう一度すすり、もったいをつけながら言った。
「今日の天気だ」
「天気ですか? 今日の?」
トリアがキョトンとした顔をした。明らかに拍子抜けしていた。ヴィスはかまわずに話を続けた。
「そう、今日のケーナバルトは終日、晴れだ」
「なるほど」
トリアはもっともらしく、うなずいた。
「それは当たっていると思います」
「やけに自信のある言い方だな」
ヴィスは、トリアの確信を持った笑顔に首をかしげた。さっきと一緒だ。静かに微笑んでいるのだけど、その内面には強い意志を感じた。
そして、その自信の塊は、こういった。
「今朝、“衛星”から気象データを受信した結果、周囲地域の雲の動きに雨の降る要因が見つかりませんでした。ですから、ケーナバルト北部の天気は、晴れでしょう」
「……ふうん」
ヴィスは、もう一度、コーヒーをすすった。気のせいだろうか、なんだか占いをバカにされたような気がする。それに、
“衛星”ってなんだ!?
気象データって?
いろいろ訊ねたいことはあったが、それを聞くと説明が長くなりそうな気がしたので、ヴィスは聞かずに、コーヒーを飲み干した。




