1
ヴィスは宿を出ると、すぐにユエラの大通りにむかった。
そして、朝市にむかう農夫の荷馬車に便乗させてもらい、大陸鉄道の通るウサシティまでトウモロコシと一緒に移動した。大陸間を高速で移動する大陸鉄道列車の駅はそう多くない。ユエラ国内では、大都市ウサシティのウサ駅が唯一の停車駅になっていた。
中央卸売市場で荷馬車をおりたヴィスは農夫に礼をいい、祝福の言葉を捧げると、すぐにウサ駅の切符売り場に飛びこんだ。
「ケーナバルトまで、一枚」
ヴィスが銅貨を取り出しながら告げると、怪訝そうな顔つきで係員が訊ねた。
「旦那、銅貨で払うつもりですか?」
「そうだよ、それがどうした?」
怪訝な顔つきは、ヴィスにも伝染した。
「だったら麻袋に目一杯詰めこんで、二袋用意してくださいな。でないと、お売りすることはできませんよ」
「なんだって!?」
ヴィスは目を白黒させながら驚いた。うわさには聞いていたが、大陸鉄道の切符がまさかそんなにするとは思いもしなかった。いつも乗り合い馬車か、単線鉄道で移動するヴィスは実際の値段を知らなかった。しかし、考えてみれば大陸の東から西までをつなぎ、もっとも速く移動する交通手段なのだから、当然といえば、当然なのかもしれない。
だが麻袋二袋で払えとは、ずいぶん乱暴なたとえだ。
「買うんですか? 買わないんですか?」
係員が面倒くさそうに訊ねる。ヴィスは唸りながらコートのポケットに手をつっこみ、なにか代わりになるようなものがないか、手探りでさがした。
計算尺に小型六分儀、骨の入った麻袋に、折りたたんだ羊皮紙、穴のあいた手袋に、ゴツゴツとした岩塩、何かの部品だったバネ、手帳、パスポートに錆びた真鍮の懐中時計、それから干からびたパンの欠片……。
ヴィスは、自身の貧乏に感心した。
なるほど、オレはなかなか貧乏だ。
自覚していたつもりだが、さらに思い知らされた。
「旦那、フリーマーケットならよそでやってくださいよ」
係員は、カウンターに広げられたガラクタを迷惑そうに眺めた。ヴィスは恥ずかしくなり、広げていたフリーマーケットを店じまいすると、覚悟を決め、内ポケットに入れていた小さな石の欠片を取り出した。
「これならいいだろう、水晶の欠片だ」
「旦那、ここは質屋じゃありませんよ」
「だけど、質屋に行けば、アンタが儲かるよ」
ヴィスは係員に水晶の欠片を手渡した。係員は欠片をつまみ上げ、室内灯に透かしながら鑑定士のように、じっくりと眺めた。
「二等客車だね、しかも相席になるが」
なにごともなかったかのように水晶を上着のポケットにおさめた係員は、客車の予約名簿を確認しながら、ヴィスに笑いかけた。絵に描いたような愛想笑いだ。
ヴィスは黙ってうなずいた。一等客車でないのは不満だったが、質屋の切符売りがそういうのだから、仕方がない。
係員は予約名簿にヴィスの名前を書き加え、それから、二等客車の切符を発行してから、こう付け加えた。
「そうそう、相席のお相手だがね、エレクトオートだよ」
「エレクトオート?」
聞きなれない言葉に、ヴィスは首をかしげた。
「なんだ旦那、知らないのかね」
「エレクトオートってなんだ?」
切符を受け取り聞き返すと、係員は笑いかけてくるだけでなにも言わなかった。
もちろん、絵に描いたような愛想笑いだった。




