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列車が大きく揺れ、眠っていたヴィスは目を覚ました。
この揺れからすると、どうやらケーナバルト駅に近づいたらしい。
ヴィスは堅い座席から身を起こし、大きなあくびをしながら、窓の外をみた。
そして、息を呑みこんだ。
何千、何百もの電灯がひしめき、ケーナバルトの夕刻は、まばゆい光に包まれていた。ヴィスは見たこともないネオンの看板や、点滅してアピールする電飾に唖然とした。
「すごい! まるで、法螺話だ」
ヴィスはひとりつぶやいた。
いままでの常識が覆され、頭の中がくらくらする。ユエラの夕刻は、もっと薄暗く、もっと静かな時間だった。こんな活動的な時間ではなかった。
ケーナバルトのうわさ話は数多く耳にしていたが、まさかこれほどだとは思わなかった。このようすだと、動く床や自動馬車もきっとあるにちがいない。
ヴィスは興奮し、胸躍らせた。
見たことのない生活の匂いを嗅ぎ取り、旅人の血が騒いだ。ヴィスはまだ停車していない列車のなかで身支度を終えると、地団太のような足踏みをし、部屋の中を行ったり、来たりした。