第1話 世界がおかしくなっちゃった!
朝。
スマホのアラームを止めて、時間を見る。七時半。
そのまま通知欄を見て、目が止まった。
「え、何これ」
LINEの通知がとんでもない数になっている。ほとんどが、地元の友達四人で作っているグループLINEからだった。
すぐにLINEを開く。
『おい、誰か起きてる?』
『外出れないんだけど』
『俺も』
『玄関開かん』
『いや鍵じゃなくて、なんか出れん』
『ベランダも無理』
「え、なになになに? どういうこと?」
寝転んでいた身体を勢いよく起こして、LINEのトーク画面を上へスクロールする。
『朝起きたら家の中いたんだけど』
『昨日外いたやつも家戻ってるらしい』
『マジで意味わからん』
『これ日本だけ?』
「え、何これ。地球最後の日とかそういうやつ?」
口元が少し緩む。そのまま間を置かずTwitterを開いた。
トレンド欄を見た瞬間、完全に目が覚める。
『玄関マジで開かないんだけど何これ』
『昨日渋谷にいたはずなのに、起きたら自分の部屋なんだけど』
『ベランダには出れる。でもその先に手伸ばしたら止まる。見えない壁ある』
「うわ、マジじゃん!」
添付されていた動画を開く。
ベランダに立った男が、手すりの向こうへ腕を伸ばそうとしている。途中で手が止まり、何もない空間を何度も叩いていた。
『これどうなってんの? ガラスとかじゃない』
すぐ次の動画を開く。
今度は玄関だ。ドアノブは普通に下がっているのに、扉だけが一ミリも開かない。
「いや、規模デカすぎるだろ! これ絶対なんか始まるだろ!」
海外でも同じようなことが起きている。英語でも韓国語でも、似たような投稿や動画が次々に流れてくる。
画面を送る指が止まらない。
もうベッドで寝転んでいる気にはなれなかった。
スマホを掴んだまま立ち上がると、そのまま早足で玄関へ向かう。
「マジで開かないのか?」
鍵を開けて、ドアノブを下げる。そこまでは普通だった。
そのまま扉を押す。
「……あれ?」
もう一度押す。ドアノブは普通に動く。鍵も開いている。それなのに、扉だけがびくともしない。
「うわ、マジで開かねえ! 何これ!」
今度は両手で押す。肩まで使って体重をかけても、扉はまるで壁みたいに動かない。
「すげえ! どうなってんだこれ!」
すぐに玄関を離れて、今度はベランダへ向かう。窓を開け、そのまま外へ出た。
ベランダ自体には普通に出られる。
「ここまでは出れるんだ」
手すりの向こうへ手を伸ばそうとした瞬間、指先が何かにぶつかった。
「え、何これ」
目の前には何もない。
もう一度。今度は少し勢いをつけて手を伸ばす。
やっぱり途中で止まった。
「うわ、マジだ! 透明な壁みたいになってんのか!」
手のひらを当てて、そのまま横へ滑らせる。どこまで動かしても、見えない何かが続いている。
思わず身を乗り出す。
道路も、向かいの建物も、朝の空も、見た目だけならいつもと変わらない。
でも、人がいない。
「……いや、人いなくね?」
いつもなら通勤や通学で誰かしら歩いている時間なのに、道路には人影が一つもない。車も走っていない。
数秒、外を見回す。
「何これ。上位存在の侵略でも始まった?」
自分で言って、ちょっと笑う。
今ならそんな話でも普通に信じられそうなのが、さらに面白かった。
スマホを見ると、グループLINEがまた増えていた。
『マジで出れん』
『これ終わった?』
『大学どうすんの』
『大学どころじゃないだろ』
すぐ返信する。
『これヤバすぎる。なんか始まった感ない?』
既読がつく。
『お前なんでちょっと楽しそうなんだよ』
「いや、そりゃテンション上がるだろ! こんなん人生で一回あるかどうかだぞ!」
そのままTwitterへ戻る。
今度は政府の公式アカウントの投稿が目に入った。
『国内全域で、住宅から外へ出られない現象を確認しています。現在、原因を調査中です。国民の皆様は自宅内で待機してください』
続く投稿には、海外でも同様の現象が確認されていて、各国と情報を共有していると書かれていた。
「原因不明か。そりゃそうだよな」
こんなの、いきなり分かるわけがない。
それでも指は止まらない。
玄関が開かない動画。ベランダの見えない壁を叩く動画。昨夜まで外にいたはずなのに自宅で目を覚ましたという投稿。
見れば見るほど、世界そのものが一晩で変わったとしか思えなかった。
「いやもう、これ普通の一日には戻らんだろ!」
そのまま次の投稿を開こうとした時だった。
目の前に、突然青白い光が浮かぶ。
「え、何!?」
反射的に身体が前へ出る。
四角い半透明の板。ゲームで見るようなウィンドウが、何もない空中に現れていた。
「うわ、何これ!」
すぐに手を伸ばす。指はそのまますり抜けた。
「触れないのかよ! いや、でもこれ完全にゲームのやつじゃん!」
ウィンドウの中央に、文字が浮かび上がっていく。
さらに一歩近づく。
「マジで始まったじゃん!」
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