第十話 気絶からの復活
保健室のベッドで坂本龍太郎が目を覚ますと、そこには岡崎洋介と伊藤美香がいた。坂本龍太郎が極道の息子であるという話は高校中に知れ渡り、だれも坂本龍太郎には近づかないのだ。
「坂本君、大丈夫?」美香が心配そうに声をかける。
「おお、なんとかのぉ。ちっくと夢見が悪かったきに」
坂本は頭を軽く振りながら答えた。
美香は少し躊躇した後、意を決して言う。
「坂本君、実は……私、坂本君のことあまりよく知らないし、それに好きな人もいるから、付き合うのは待ってほしいんだけど……いいかな?」
坂本は軽く笑って首を横に振った。
「あー、別にかまわんぜよ。わしぁ、岡崎の本気を引き出すためにちっくと焚きつけただけじゃき。それに、わしにはもう四国に許嫁がおるき、おまんのことは好きじゃなかったがよ。ごめんな」
美香は驚いた顔をして、ぽつりとつぶやいた。
「……なんか、私フラれたんですけど」
そして少しムッとしながら保健室を出て行った。
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美香が出て行ったあと、岡崎は坂本を見下ろしながら言った。
「お前、俺に用があってこの高校に来たんだろ?」
坂本はニヤリと笑った。
「さすが岡崎、察しがええのぉ。実は沖田さんからの頼みがあってのぉ……おまんを地下格闘技場(非合法なヤクザの大会)に、坂本組として競技者のエントリーさせてほしいちゅうことじゃ」
岡崎は眉をひそめる。
「地下格闘技場? なんでまたそんな話に?」
「わし、ちっくと問題を起こしてしもうての。ごろつき三人ばぁ、しばいてしもうたがよ。そいつらがヤクザもんでの、沖田さんが組の間に入ってくれたがじゃけんど、そのかわりに岡崎のところへ行って頼んでこい言われたがよ。そして地下格闘場には、あの有名な元横綱の雷王丸もエントリーされちょる。沖田さんがお前の天誅の手助けといっちょった。」
(雷王丸、一般人を手にかけた非情な男。天誅を下さなければならない相手だ)
「なるほどな……まあ、地下格闘技場の話はともかく、俺からも頼みがある」
「ほう、なんじゃ?」
「雷王丸の模擬戦の相手をしてほしい。お前みたいに背の高いやつがいれば、雷王丸に試したい技が復活させられると思うんだ」
坂本はしばらく考えた後、口元に笑みを浮かべた。
「なんか、おもしろそうじゃのぉ。さっきの死合いに負けたばぁじゃ、わしの気がおさまらんし、ええぜよ」
岡崎も笑い、二人はしっかりと握手を交わした。同盟締結だ。
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道場を貸してもらう話をするために、岡崎と美香は再び顔を合わせた。
「美香、またおじいさんの道場を貸してもらえないかな?」
「また? うーん……でも、おじいちゃんも前みたいに『危ないことはするな』って言ってたし……」
「そこをなんとか頼む。ちゃんとルールを守ってやるし、道場を傷つけたりもしない。どうしても、そこでやりたいんだ」
美香は少し考え込んだ後、ため息をついた。
「……しょうがないなあ。でも、おじいちゃんにはちゃんと話を通しておいてね」
「ありがとう、美香!」
坂本はそんな二人のやり取りを見ながら、ふとニヤリと笑った。
「岡崎、おまん、もしさっきの突きでわしが死んじょったら、どうするつもりやったがぜ?」
岡崎は肩をすくめた。
「そりゃまあ……そうならないように加減はしてたけどな」
(いや、岡田以蔵は殺す気でやったがな)
「加減しちょったかどうかは知らんけんど、もしほんまにわしが死んじょったらな……うちのオヤジ、坂本忍が烈火のごとく怒り狂うて、おまんを地の果てまで追いかけて、ぶっ殺しに来とったぜよ」
岡崎は目を細めて坂本をじっと見た。
「お前のオヤジ……そんなに怖いのか?」
「怖いなんて言葉じゃ足りんぜよ。わしがガキの頃にちっくと悪さしたとき、オヤジは裏山の崖の上からわしをぶん投げる勢いで怒りよったきのぉ……おまんがわしを殺したとあらば、たぶん、寝ても覚めてもおまんを追いかけ続けるろう」
岡崎は苦笑いした。
「それは、たまらないな……まあ、俺としてもお前には死んでもらいたくないし、これからも加減はするよ」
坂本は「ほんまかいな」と笑いながら岡崎の肩を軽く叩いた。
美香はそんな二人を見ながら、あきれたように言った。
「ほんとにもう、男の子って、物騒な話ばっかりするんだから……」
歴史の闇に眠る、暗殺武術の技を復活させるために美香のおじいさん河上彦斎の元へ坂本と岡崎は集まることとなった。




