第十一話 赤い悪魔と暗殺者
トンネル内で燃え盛るバイクの残骸。その炎を背に、岡田以蔵はゆっくりと立ち上がった。血に染まった顔には冷徹な笑みが浮かんでいる。彼は、散乱したバイクのマフラーを片手で掴み、棍棒のように上下に振った。
「まぁ、ちと刀とは勝手が違うが、振れないわけじゃないな……」
無骨な金属が鈍く光る。手に馴染ませるように試し振りをすると、金属同士が擦れる鋭い音がトンネルに響いた。
一方、後藤田は地面に這いつくばりながら、必死に生き残る方法を考えていた。
「ま、待て……俺が悪かった! 降参だ……! 何が欲しいんだ? 金か? 金が欲しいんだろ?」
「欲しいのはお前の命だ。天誅である。」
岡田は静かに言い放った。その声には一切の迷いがない。
「地獄の閻魔がな、永遠の業火に焼かれる地獄でお前を待ってるぜ。」
後藤田の顔が歪む。
「何言ってるんだお前……狂人か? 令和の時代に天誅なんて、頭おかしい狂人め!」
岡田は口の端をつり上げ、嗤った。
「これよりは人殺しの狂人同士の戦いだな。お前の最後を考えてみたんだが……」
後藤田は冷や汗を流しながら、じりじりと後退する。彼の背中にはランボルギーニがある。指先がボディに触れるや否や、一気に運転席へと駆け込んだ。
「お互い狂人だからな……お前の考えていることは、すべてわかるぜ。」
岡田は嘲るように言った。
「いいぜ、その車で俺を轢き殺すつもりなんだろ? やってみな!」
後藤田は震える指でエンジンをかけた。
ヴォォォォォン!!
けたたましいエンジン音がトンネル内にこだまする。後藤田はシフトをバックに入れ、全力で後退し始めた。そして1速2速3速4速とギアを段々とあげる。牛のエンブレムのついた赤いランボルギーニ。まるで巨大な赤い悪魔の牛が岡田以蔵めがけて猛スピードで突進した。
「フルスロットルだ……! 俺はできる男だああああ!!!」
しかし、その瞬間――
暗殺武術奥義! 下転馬脚斬り!!
岡田の足が閃光のように走った。
そして低空の逆袈裟斬りをしながら体を回転させる。
ゴロゴロゴロゴロ
ズバァッ!!!
ランボルギーニの左前輪が一瞬で切り裂かれた。
「な……に……っ!?」
車体が傾いた次の瞬間、
ガシャァァァン!!!!
ランボルギーニはコントロールを失い、トンネルの壁に激突した。
後部エンジンから炎が噴き上がる。
「うわあああああああ!!!」
後藤田の絶叫が響く。車内に閉じ込められた彼は、ドアを開けようと必死にもがいた。しかし、衝撃でドアは歪み、ビクとも動かない。
「助けてくれ……! 熱い! 熱い!! 焼け死ぬ!!!」
しかし、岡田は無言で車のそばに立つと、マフラーを持ち上げ
ドゴォォン!!
ランボルギーニのドア部分に、斜め上からマフラーを突き刺した。
「できそこないのお前に相応しい死に方だぜ……」
バゴォォォォンッ!!!
火の手がさらに強くなる。燃え盛る業火が車内へと広がっていく。
「やめろ……! た、助け……!」
後藤田の声は、業火の咆哮にかき消されていった。
岡田は炎に包まれる赤い悪魔を見下ろし、静かに呟いた。
「自慢の愛車の中で焼け死にな!」
ゴォォォォォ……!
トンネルの中、紅蓮の炎が、すべてを包み込み爆発炎上した。
遠くから複数の赤いサイレンがトンネルの出口より見えてきた。
そしてけたたましい消防車と救急車のサイレン音がトンネル内にこだまする。
業火の赤い悪魔は、岡田以蔵の【暗殺武術奥義 下転馬脚斬り】により天に代わり討伐をされた。




