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【歴史ランキング12位達成】令和の人斬り 《天誅》 生れ変った岡田以蔵  作者: 虫松
目覚める剣鬼

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第6話 暗殺武術奥義の復活

剣術道場の奥。


朝の光も届かぬ板張りの空間は、まるで時代から切り離されたかのように静まり返っていた。


挿絵(By みてみん)


畳の中央に、河上舟斎かわかみ・しゅうさいは正座していた。

身長は百五十に満たぬ小柄な老躯。

だが、背筋は一本の槍のように伸び、その眼光は鋭利だった。


(……来る)


気配だけで分かる。

足音ではない。

呼吸でもない。

剣を持つ者特有の“死線の匂い”。


障子が、音もなく開いた。


道着と袴。

若い男、岡崎洋介が、一礼して足を踏み入れる。


だが、舟斎の目に映っているのは高校生ではなかった。


(……岡田、以蔵)


この道場で、何度も語った“悪夢”。

人を斬る夢。

血の感触。

止められぬ衝動。


それを、否定も慰めもせず、理解だけを示した唯一の男。

それが河上舟斎だった。


「……今日は、岡崎として来たのではあるまい」


静かな声。

だが、逃げ場のない断定。


洋介は、わずかに口元を緩める。


「やはり……分かるか」


舟斎は、深く頭を下げた。


「孫から聞いた。岡田以蔵が命を救ったと」


そして、顔を上げる。


「二百年ぶりの帰還、歓迎しよう」


沈黙。

だが、それは言葉を探す間ではない。


剣を交える前の、最後の静寂だ。


舟斎は立ち上がり、壁に掛けられた一本の木刀を取る。

その動作に、無駄は一切ない。


「……見せよ」


低く、短く。


「人を斬るために極めた剣を」


洋介


否、


岡田以蔵は、静かに袴の裾を整え、木刀を取った。


二人が向かい合う。


間合い、二尺五寸。

近すぎる。

だが、殺すための距離だ。


空気が、張り詰める。


互いに構えはない。

ただ、立っているだけ。


だが、舟斎の重心はすでに前。

いつでも踏み込める。


以蔵の重心は低い。

地を這う獣のそれだ。


(……新選組すら恐れた剣)

(来る)


「……来い」


その瞬間だった。


舟斎の体が、消えた。



斬撃だけが先に来た。


逆袈裟。

右下から左上へ。

脇腹から喉を断つ、必殺剣。


新選組の隊士すら怖れた必殺の剣である。


並の剣士なら、気づいた時には終わっている。


だが――


「……遅い」


以蔵の膝が、沈む。


刃の軌道を“読む”のではない。

斬る意志そのものを読む。


体を半回転。

木刀が、髪をかすめる。


風が鳴いた。


同時に、以蔵の体は地を這う。


低い。

異様なほど低い。


(来る!)


舟斎が察した瞬間、すでに遅い。


「暗殺武術奥義」


低く、吐き捨てるような声。


「下転馬脚斬り」


以蔵の体が、回る。

地面すれすれで。


狙いは、膝。


馬を止める剣。

武士の剣ではない。

戦場と闇の剣。


シュッ――


木刀が、舟斎の膝元を切り裂く。


「……っ!」


舟斎は踏み込みを止め、後退する。

だが、その瞬間。


脇腹に、冷たい圧。


以蔵の木刀が、寸分違わず止まっていた。


心臓まで、あと指一本。


沈黙。


「……一本」


以蔵が、静かに引く。


舟斎は、しばらく動かなかった。

やがて、小さく笑う。


「……なるほどな」


深く、深く息を吐く。


「これはもう、儂の知る剣ではない」


以蔵が問う。


「完成した、ということか」


舟斎は、はっきりと頷いた。


「そうだ。

その剣は、二百年前に死んだ男のものでも、現代の剣道でもない」


目を閉じ、言う。


「お主だけの剣だ」


以蔵である岡崎洋介は、木刀を見つめた。


軽い。

だが、確かに“殺せる重さ”を持っている。


(……これが、俺の業か)


剣鬼の剣は、完全に甦った。


そして同時に。それを嗅ぎ取る者たちも、動き出している。


___________________


暗殺武術

【下転馬脚斬り《げてんばきゃくきり》】


下転馬脚斬りとは、走って突進してくる馬の脚を狙い、低空の逆袈裟斬りをしながら体を回転させる技である。この技は、突進する馬の速さと力を避けつつ、その脚を確実に斬るために開発された。


通常の逆袈裟斬りでは馬の突進を交わせず、その一撃で弾き飛ばされる可能性がある。しかし、下転馬脚斬りでは、技の発動と同時に体を低く沈め、馬の突進を引き寄せるようにしながら、逆袈裟斬りを斜め下に放つ。その動きと同時に、回転して自身の体を馬の進行方向から外れた位置に移動させ、無理なく馬の脚をかわす。この回転により、足元に隠れた相手の攻撃も無理なく避けられるとともに、反撃のタイミングも生まれる。


回転の勢いで馬の脚に切り込むため、命中した瞬間に素早くその場を離れ、すぐに次の一手を打つ準備を整える。この技は、非常に緻密で予測不可能な動きが求められるため、熟練の剣士にしか使いこなせない。

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