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雨のち異世界転生  作者: 松下 咲郎
第一章 始まりの家、終わってる村
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第三話 スタートライン

「あ!、そういえば、後一個だけ、付け加えておいて欲しいことがあって、、」

「はぁ、なんでしょうか、この期に及んで能力が欲しいとかいわないでくださいよ」

「いやーね。欲しいというか、、」

なんと言ったか、思い出そうとすると頭が悲鳴を上げる。でも、確かそのあとは、

「、、いや、まぁ私はいいですけど、本当に、本当に、いいんですか。」

「うん!やっちゃってくれ。」

「ーー、分かりました。ではせめて、必要になった時の合図だけはお教えしときますね。これも一応決まりですので。ーーまぁ私が決めただけだけど。」

「うぇー。いいのに、ってか今最後なんて言った?」

「、何も言ってません。とにかく。」

この時の女性の顔は柄にもなく感情が乗った、凛々しい顔だった。と思う。

「必要になった時はこう言ってください。ーーーと。」

ここの言葉がこの記憶の中では1番大切なはずなのだが、まだ頭の容量が小さいので、インストールし切っていない。

「今度こそ、これでいいですね。ーーはぁ、全く世話が焼ける。」

「うん!ありがとねー!って?最後なんて言った?」

そして確かたわいもない話をした気がする。


ーー小鳥が囀り、陽光が木々を照らす。その緑の中に二人の男女がいた。二人は疲弊を体と目尻に残し、しかし娘に向ける顔だけはと、笑い合いながら、暖かな温もりと日差しに語りかける。ーー

「ミルト・アルテミス。この子の名前、どうかな?」

「ミルト。いい響き」

「うぁー!う!」

咄嗟に赤ちゃんの真似をするのはやはり至難で、思った以上に反応してしまう。

「あら、この子もそれがいいみたいね。」

「我ながらいい名前を付けたと思うぜ。」

多分この2人は自分の父と母になる人たちで、私が今いるここはさっきまでいた白い空間から引き込まれた世界、つまり異世界なのだ。

「でもなんでミルトなの?」

「、ん?ーんとね。これは、!秘密だなぁ。」

「いや、どんなところ隠してるのよ。」

母の苦笑いも、父の口を歪める薄笑いも、異世界に転生した、確かな証。

そのことを改めて理解すると、蛇口を捻ったように身体の芯から込み上げてくるものがあり、それを豪快に吐露してしまいそうになる。

それをなんとか飲み込もうと、慌てて前につんのめりながら、しかし感情の昂りはそのままで

「うぉぶぁー!!」

咆哮を上げる。

「ミルトー唾を吐いちゃいけないですよー。女の子なんですから。」

「あぅ」

感情をコントロール出来ないのはこの体のせい。にしたいものだが、そうであってはくれない。

自分の情けない姿を親に見せるのはバツが悪く、今すぐにでもうつ伏せになりたいのだが、

赤子の体は思った以上に筋肉がない。

「そうだぞ。ミルト。いやみぃーちゃんかな?」

「ちがうわよねー、ミルちゃんがいいわよねー」

ジタバタと、体を動かす間にも時間は流れ、会話が流れてく。

父と母の、このたわいもない話も、前世では全く聞けなかったことで、じんわりと、まだ小さな胸と心臓が温かくなっていき、ゆるりと瞼が落ちていく。

「あら、でもよく考えてみたら赤ちゃんってこんなにおしゃべりさんだったかしら。」

「うぁ。」

落ちた瞼が叩き起こされる。

「なぁーに!うちの子が天才なだけだよ。」

「あら私としたことが、そんなことも気づけないなんて。」

「あーはっはっは!可愛いなぁ2人とも!」

あまりにも天然な二人の男女に、ミルトはこれからの人生の雲行きが怪しいことを察する。といゆか、

「みーちゃん。かわいいねーほら。おててもこんなに小さくてーね。」

「あなたが触っていいのはほっぺただけよ。女の子なの。考えなさい。」

「いや手とか足とかはいいでしょ!?」

大雪が降るだろう。

2人はある程度喋り切ったらしく、今度は私の体を弄り始めた。恐ろしいのは、これがなんとも絶妙なタッチ。まるで長年戦ってきた戦友のように息があって、、

「うぁーう、うぁーう」

気持ち良すぎて脳が溶けて行ってしまう。このままではせっかく異世界に転生したのにまた死ぬ。

そう危機察知したミルトは、

「うぅーあー!ー!うぁーー!!」

渾身の力を振り絞り、丁寧に、盛大に泣き喚く。

「あら、!ミルちゃん。大変ね。あ!そうそう。こう言う時は。なーかないーよー。ねんー、ねんよー、こんな感じかしら!」

「おぉー!すごいなリーフィル。何やってんのか全くわからなかった。」

「殴るわよ?」

なんとか怒涛の攻撃を掻い潜り、一息つこうとした時に鳴り響いたのは母の声。

今のは歌なのだろうか。それとも詠唱か何かなのか。本人しかわからない。わからないが歌であって欲しくいと願う。そう、苦く笑う最中に、


ふと、視線を感じた。

あまりにも小さく、生暖かい、

そして細い視線。

それに対して研ぎ澄まされた感覚が警鐘を鳴らす。

流れる空気が薄くなっていくようで、背筋の温度が下がる。それに危うさを感じたメルトはその視線の原因を見つけようと、目を走らせ、、、


母と目が合う。

「ぁ」

その穏やかな顔に走っていた目が動かなくなる。

母の目は、真珠をそのまま埋め込んだと言われても納得するほどの美しい薄い橙色の瞳だ。

それに魅せられた。だけだったのなら最初と変わらなかった。しかし、

動かされる母の片腕が、ずっと大事に抱えていた我が子を離れ、ひらりと舞う蝶のように自分の胸元に、そして娘の胸元へと止まっていく。

そこに言葉はない。

だが思いは手を通して心へと飛んで来た。

だからわかる。

大丈夫だ。この胸の中に、心に。家族がいる。

不安なんて入る余地もないほどに大きく。

故に気づけば、母の指をまだ小さな手が優しく握って、それに母もまた天使のように微笑み返していた。

「ね。大丈夫よ」

その一言を境に、薄れた空気は濃度を上げ、気づけば刺すような視線も消えていた。

ミルトは改めて母の偉大さと温かみを感じ、受け取った愛を自分の小さな手でもう一度確かめた。

もう大丈夫。その言葉通りにミルトは落ち着くと、思考は冷静になり、先はどの状況を思案し始めた。

いったい今のはなんだったのだろう。

しかし、その考えを止めるかのように。


ー突然フィヨルドが女二人を覆い隠す。ー


いきなりのことにミルトは目を見開き、リーフィルは

一瞬の驚きを顔に浮かべ、しかしそれを安堵が追い越し、目を瞑った。

「これから一緒に生きるんだ、みーちゃん。リーフィル。辛いこと、苦しいこと、楽しいこと、嬉しいこと多分色々あって、その度に心が浮いたり沈んだりする。けど、その全てが、僕たちの生きた証で、振り返ってみたら多分、嫌なことは全部『よくやった。ありがとう。』に変わる。だから、明日を、今を精一杯気が向くままに生きよう。な!」

その言葉には、フィヨルドの弱さと決意が込められていて、揺れながらも確かに発したその声は、ミルトの心にまた新たな愛を刻み込んだ。

それを待ってから、と言えるようなタイミングで、フィヨルドは少し強引に覆い被せた腕を解き、今度は満足そうに二人の顔を撫でる。

そしてミルトの脳内には少し前の、前世でのことが

一瞬。本当に一瞬蘇る。地獄での、本当の意味で血反吐を吐くような努力が、生きてる意味を見出せなかったあの薄暗く二人だけの前世の命が淡々と。

しかしそれら全てが二人によって、肯定されたような気がして、、

「ーー。」

今の体関係なしに、雫が垂れるところだった。だが、大丈夫。そう言った後にまた泣き出すのもリーフィルに悪い。その感情と最後のフィヨルドの言葉が後押しで、

「うぅー!!!」

ミルトの雫は言葉に変わってフィヨルドの言葉に魂から応えた。

「あれ。今ものちょっと返事っぽくなかった?」

「そうかしら、気のせいじゃない?」

「うぉう、うぉう、きぶぉべい、きぼべい。」

「「ん?」」

そう。答えてしまった。

ーあ、やばいかもー

完全に気を抜いていた。そう気づく頃にはもう遅く、

エルフとヒトの耳がピクつき、ミルトは気が急いた。だがその身構える体と気持ちを置いてくほど早く勇ましく、フィヨルド・アルテミスは高らかに我が子を持ち上げ、宣言する。

「ごほん!。どうであれ、この子が自由に、健康に、大きく育ってくれることを祈って!」

「うーん。そうね、変なことは気にせず、祈って!」

胸を撫で下ろしたのも束の間、周囲の雰囲気がまた変化する。

「「愛共祝【メルト】」」

静寂の山は、穏やかな朝を迎え、凍てつき、そして今。夜の蛍が舞うようにほのかな光に包まれる。

鳥も魚も虫も、命が共鳴し、今はただ祝福の祭りを催す。比喩ではなく、魂が紡がれていく。そしてー。

ーミルトはまだこの世界に慣れていなかったー

「さて!オムツ!変えようかしらね!」

「パパが変えてもいいんだぞぉー!」

「ミルトは女の子なの!まだ早い!」

「逆に後になった方がまずくない!?」

紐が緩み魂の絡まりが解ける。

魂と魂を繋げて思いを共鳴させる術。『愛共祝』はこの世界においての魔術そのもので、

「ぅあわ、ぅ。」

お漏らしの圧倒的な不快感と共に

ミルトが初めて知る、魔法なのであった。



「んーん!と。魔法全然できなーあーーい!」

「そうねー、ミルちゃんかなり練習してるはずなのにねーどうしてかしら。」

衝撃的な魔法を肌で感じたミルトは勿論魔法に魅せられ、6歳の天才神童魔術師として名を轟かせる筈だった。

「なのになんでぇー、魔力が1なのぉー」

「うーん。私の鑑定は間違って無さそうなのよね、」

「お母さん成長すれば魔力つくっていったじゃあん。」

「そ、そうなのよ?普通はそのはずで、年を追うごとに世界とのつながりが強くなって、大気中にあるテトを上手く自分のものにしていけるはずなんだけど。」

「テトどこにあんのよぉーー」

「この調子ものね。」

どうやらこの世界の魔法は大気中にある『テト』という魔力の根源を使える量が増えれば増えるほど、魔力量が増える。と言うことになるらしい。

ちなみに我が母は、ほぼ際限無しに魔法を使える。

なので最高の先生が近くにいる。と思った5歳の時。

「お母さん魔法ってどうやって使うのぉー?」

「んー?ミルちゃん。魔法が使いたいのね。わかったわ。この大魔術師のリーフィルが教えてあげるわ!」

「うん!!」

「テトよー集まれー!そしてキュルキュルってなれー!さらにポヨポヨになれー!最後にギュギュってなるのよー!!」

「、、」

「って言う感じで、魔法は使うのよ」

「わかったよ。母さん。本見て頑張ってみるね。」

「えー。なんでよぉー。」

母の歌声を聞いた時から薄々感じていたが、母は色んな意味で音痴であって、感覚派であった。

なので、あの時の絶望は、今でも思い出すと愛想笑いしかできないのである。

ーミルト9歳ー

「だぁー、疲れたぁ。私もうむりぃー」

「おいおい、みーちゃん。こんなんじゃ剣士どころか、包丁を使うのすら無理かもだぞぉー?」

この男。本当に私の父親じゃなかったら一発どついてやったのに、私の父親だからあまりにも強くて、手が届かない。なので、

「うわー。本当にないわー。だからパパ、ママにいつも白い目で見られるんでしょうが」

「ぐは、最近冷たいからけっこうくるぜ。トホホ。」

言葉の暴力で弱らせる。

「空きあり!」

拍子抜けな声とともに繰り出される剣技は、流れる川のようでフィヨルドは一瞬息を呑む。しかしまだ荒い動きの先を読み、落雷とほぼ同じ速度に達した木刀がミルトに迫る、が空を切る。

「ーー!」

視界から消えミルトを探しつつ次の攻撃に備えたフィヨルドだったが、一瞬にして視界が反転する。

ミルトは体制を限りなく低く、地面と接触するほどの低さに体を構え、右手を軸に歯車のように回転し、フィヨルドの足を絡めとる。

この一連の流れで感慨に浸ったフィヨルドは、一人の剣士として娘を認める。

よってフィヨルドの思考は次の段階へと進む。

「みーちゃんも強くなったねー」

その言葉を言い終わるのと紙一重なタイミングでミルトは背後を取り、渾身の一撃を、完全に支配した空間に、

「もらったぁ!!!」

感情をこぼし、そして振り抜く。

「今の一連の流れ、すごい良かったよ。みーちゃん。」

しかし、捉えたと思った渾身は今度はこちらが空を切り、ミルトは目を見開く。そして次の行動を取ろうとしたミルトの頭上にはすでに木刀が迫り、神速。そう言わざるを得ないほど早い剣筋がミルトの脳天に叩き落とされる。

「ぐは、ぁ」その一言を最後に

ミルトはまた地面と体の境界を無くす。

「あ。みーちゃん!!大丈夫?や、やっべぇ!お母さんー!?」

気がつけば自分の娘の脳天をかち割る勢いで木刀を振っていたフィヨルドの顔から血が引く。

ミルトは口からカニのような泡を吹き、その場で慌てふためくしかない凡愚の男に激昂した鬼、もしくは妻が体重に見合わず、地面を揺らしながら迫り

「やりすぎるなっていつも言ってるでしょ!このバカ夫!!」

神速のフィヨルドですら避けられない一撃に当の本人は娘と同じく泡を吹く。しかし聖女に戻った女はそんなことはお構いなしにと。

「ミルト。大丈夫?かしら?今治すからね。回復『ヒール』」娘の傷を癒す。

瞬間、光がミルトの体を覆い隠し、周りに満開の花が現れる。それは被術者が一瞬天に召されたかと錯覚するほどの生命の息吹。通常この術にこれほどの力はないが、この女には当たり前なのである。

よって

「この感じ。朝ではなく、お母さんの治癒魔法だな。爽快すぎる。」

「ミルちゃん朝と間違えちゃうなんて、頭の大事な部分打っちゃったの!?それならもっと強い回復魔法を!」

「お母さん。もう大丈夫」

ミルトは感謝をしつつも、突き出す片腕で心配する母を宥め、立ち上がり歩き出す。

「お父さんも治してあげてね。次こそは私の力で今の状況にしてみせる!!から、さ」

「ー。わかったわ。応援してるわよ、いつでも。だからー!ほらあなたも、いつまで寝てるのよ!」

やはりお母さんの微笑みは天使のように美しい。

その天使が盛大にビンタを男にしながら治癒をするのであるから、

「っぷ、ははははは」

120点の笑顔でミルトは笑うしかなかった。


ぶつかり合う2つの木刀が奏でる音色が響き、時に爛々と光る山の中には、聖女のようなエルフと、すらりと伸びた高身長の愚直な男と1人のハーフエルフがいる。

その3人はゆったりとした、幸せに満ちた時間を笑い合いながら過ごすだけなのだ。


それだけでよかったのだった。


ーーしかし、楽しい時間はすり減るのみで、その時間が幸せだったと気づくのは、いつも、振り返った時だけで、、ーー

故に

世界に白い雪が吹き、

山を取り囲む業火と、火とは違う赤い色が、ミルトの目に飛び込んでくる頃には、

もう、幸せは

通り過ぎたあとなのだ。


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