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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
9/32

8本目

「ちなみに、その新聞広告はいつごろご覧になったのですか」

「1年くらい前だったかねえ」

 どくん、と心臓が波打った。そりゃ、ありえないぜ、おばあちゃんよ。

 新聞広告は今年の3月にはじめて出した……はず。だから去年手に入るわけがないのだ。きっと老婆の勘違いだろう。

 多々木はそう思い、紙面を見直すと、【2016年3月14日】の奥付けが目に入った。去年だったーっ!


「ちょっと、失礼」

 中年探偵の心臓(ハート)が早鐘を打っていた。ヘルプだ、芽衣。お客である老婆にお茶を出すためシンクに立っていた彼女のもとへ駆けつける。

「若林くん、ちょっと聞きたいんだが。うちの事務所の広告って、去年の3月にも出したっけ」

「もちろん」芽衣はそっけなく答えた。「わたしがここへきてから毎年、3月に出してますよ?」

「そ、そうだったな」

「広告がどうかしたんですか」

「……いや、なんでもない」


 老婆のところへ戻るまえに多々木は洗面所で顔を洗った。

 やっべー……佐須刑事にウソを言っちゃった。いや、今年の3月に広告を出したのは紛れもない事実。だが、まさか毎年だったとは。

 芽衣がこの事務所へきてからというと、すくなくとも3回(年)以上は出していることになる。

 たしかに事務関係は彼女に任せきりだったので、広告のことなど気にもしていなかった。そのお鉢がいま回ってきたわけだ。


 よっしゃ。顔をぴしゃりと叩き、中年探偵は気を引き締めた。

 転禍為福(わざわいてんじてふくとなす)じゃないけど、老婆がここを訪れたのはある意味チャンスかもしれない。

 青木岳人という男の失踪につながる何かを得られるかもしない。チャンス、チャンスと心で唱えながら多々木は、ふたたび老婆と対面した。


「お待たせしました。それで今日は、どういうご用件でここへいらしたんですか」

「孫を捜してほしいんで。1年前からいなくなっとる」

「1年前? ……警察にはもう、届けたんですか」

「はい、1年前から捜してもらっとる。でも音沙汰なしで」

 なるほど、と探偵は腕を組んだ。こちらも失踪か。警察に捜索願いを出しても見つからず探偵を頼るというのは、あるあるだ。


「お孫さんというのは、どういった方ですか」

「孫娘で。歳は……30になったかならんか、くらいだったかねえ」

 言って老婆は数枚の写真を多々木に見せた。レオタードを着た美しい女性の写真だった。てゆうか、なんでレオタード?

「順番にお聞きします……」


 そして探偵は老婆もとい依頼人の名前、失踪中の孫の名前、その家族構成などを聴取した。両親じゃなく祖母が依頼をしているというのも、気になるところだ。

 それらの情報を携えて、多々木はふたたび佐須刑事と面会することにした。

 孫の失踪については警察にデータベースがあるだろうし、それに広告の件では刑事に詫びねばならない。

 とりあえず、追って連絡しますとことわって依頼人には帰ってもらった。

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