20本目
「仕様とは?」
多々木探偵が聞いた。
「TPメールによって過去が改変される。3日前にこのメールを受け取ったワシは、ハワイ行きを断念し、結果いまこの事務所におる。わかるな?」
「ええ」と探偵。「われわれにとっては、あなたが瞬間移動したようにしか見えませんが」
「だいぶチートじゃが、それはまあよい。じゃがな、このTPメールは同一世界線上にしか送れん。青木が受け取ったTPメールは【世界線1】から【世界線2】へ送られている……解せぬ」
言って占い師吉田は首を振った。
「でも、かりに【世界線1】のボクがTPメールを送るとしたら、やはり吉田さんの力を借りざるをえないでしょう」
「まあ鉄板じゃな。すると、こういう仮説が立つ。【世界線1】は上位世界線ではないか、と」
「なんですか、それ」
「読んで字のごとく、上位に位置する世界線じゃ。その世界に居るワシは、もっと美しく、より強大な力を有しているのかもしれん」
「いや、あっちの世界の吉田さんは、もっと年季の入ったお婆さんでした」
オレが言うと占い師は攣った笑いを見せた。
「ありがとうよ。こっちの(世界の)ワシのほうがキレイじゃと、そう言ってくれるのじゃな」
「マジで、こっちの吉田さんのほうが10歳くらい若く見えます」
「ふん。年季が入ったぶん、あちらでは力が増したか。……まあ、おぬしが会ったというその老婆がワシであればの話じゃが」
「たしかに、ヘンだな」多々木さんが言った。「その老婆は【世界線1】において、水戸さんがきみを訪ねると予言した。だが結果として、きみたちはエライ目に遭った。老婆に悪意があり、かつそれが吉田さんだったとしたら、TPメールをつかってきみを助けるのは矛盾しているといいますか……」
「探偵の言うとおりじゃ」
「う、」オレは困った。「そう言われると、すこぶる自信がなくなってきました。数か月前にいちど会っただけだし……。老婆がローブを着ていたのは、まちがいないんですが」
「とりあえず、青木さんが助かってよかったです」
芽衣さんがいきなり発言したのでオレはびびった。
「この表を見ると、青木さんは危険な【世界線1】からわたしたちのいる【世界線3】に移った、てことですよね。もう安心です」
「……だといいんですが」
言ってオレは占い師のほうを見た。
「予断をゆるさない状況じゃな。陰で青木を殺そう、殺そうとしている輩もおるようじゃし……」
「そんなあ」芽衣さんが眉をひそめる。
「どうする、青木くん」探偵が聞いた。「ここで調査をヤメるという手もある。この世界がきみにとって平和であると信じ、これ以上、この件に干渉しないのもひとつの考え方だよ」
「いいえ」オレは即答した。「契約どおり、5月2日まで調査をお願いします」
「……わかった、そうしよう」
「それじゃ皆の衆、ワシは帰るが、万が一のときはまた連絡するがよい。できればTPメールはあまり使いたくないのでな」
「ありがとうございました、吉田さん」
オレがお礼を言うと、
「ありがとうございます」「ありがとう、おばあちゃん」
探偵と芽衣さんがそれにつづいた。占い師・めんそーれ吉田は手を振って事務所を出て行った。




