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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
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20本目

「仕様とは?」

 多々木探偵が聞いた。

「TPメールによって過去が改変される。3日前にこのメールを受け取ったワシは、ハワイ行きを断念し、結果いまこの事務所におる。わかるな?」

「ええ」と探偵。「われわれにとっては、あなたが瞬間移動したようにしか見えませんが」

「だいぶチートじゃが、それはまあよい。じゃがな、このTPメールは同一世界線上にしか送れん。青木が受け取ったTPメールは【世界線1】から【世界線2】へ送られている……()せぬ」

 言って占い師吉田は首を振った。


「でも、かりに【世界線1】のボクがTPメールを送るとしたら、やはり吉田さんの力を借りざるをえないでしょう」

「まあ鉄板じゃな。すると、こういう仮説が立つ。【世界線1】は上位世界線ではないか、と」

「なんですか、それ」

「読んで字のごとく、上位に位置する世界線じゃ。その世界に()るワシは、もっと美しく、より強大な(パウワー)を有しているのかもしれん」


「いや、あっちの世界の吉田さんは、もっと年季の入ったお婆さんでした」

 オレが言うと占い師は(ひきつ)った笑いを見せた。

「ありがとうよ。こっちの(世界の)ワシのほうがキレイじゃと、そう言ってくれるのじゃな」

「マジで、こっちの吉田さんのほうが10歳くらい若く見えます」

「ふん。年季が入ったぶん、あちらでは力が増したか。……まあ、おぬしが会ったというその老婆がワシであればの話じゃが」


「たしかに、ヘンだな」多々木さんが言った。「その老婆は【世界線1】において、水戸さんがきみを訪ねると予言した。だが結果として、きみたちはエライ目に遭った。老婆に悪意があり、かつそれが吉田さんだったとしたら、TPメールをつかってきみを助けるのは矛盾しているといいますか……」

「探偵の言うとおりじゃ」

「う、」オレは困った。「そう言われると、すこぶる自信がなくなってきました。数か月前にいちど会っただけだし……。老婆がローブを着ていたのは、まちがいないんですが」


「とりあえず、青木さんが助かってよかったです」

 芽衣さんがいきなり発言したのでオレはびびった。

「この表を見ると、青木さんは危険な【世界線1】からわたしたちのいる【世界線3】に移った、てことですよね。もう安心です」

「……だといいんですが」

 言ってオレは占い師のほうを見た。


「予断をゆるさない状況じゃな。陰で青木を殺そう、殺そうとしている輩もおるようじゃし……」

「そんなあ」芽衣さんが眉をひそめる。

「どうする、青木くん」探偵が聞いた。「ここで調査をヤメるという手もある。この世界がきみにとって平和であると信じ、これ以上、この件に干渉しないのもひとつの考え方だよ」

「いいえ」オレは即答した。「契約どおり、5月2日まで調査をお願いします」


「……わかった、そうしよう」

「それじゃ皆の衆、ワシは帰るが、万が一のときはまた連絡するがよい。できればTPメールはあまり使いたくないのでな」

「ありがとうございました、吉田さん」

 オレがお礼を言うと、

「ありがとうございます」「ありがとう、おばあちゃん」

 探偵と芽衣さんがそれにつづいた。占い師・めんそーれ吉田は手を振って事務所を出て行った。

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