35話
「ほう、『鑑定』か……」
口の端を吊り上げたデルモンドに対し、ユウタは慌てて言葉を挟んだ。
「ですが、まだ決めつけてはいません。もしそうだとすると、あまりにもおかしな点がありまして」
「と言うと?」
「『鑑定』のスキルを持つ人間はたまにいますが、そういう人たちはかなり慎重に力を使いますよね?」
「もちろんだ。己の実力を超える高ランクの魔武器を安易に鑑定すれば、反動で身を滅ぼしかねない。手順に従い、それがどの程度のランクの品なのか確認作業を挟むのが鉄則だからね」
「それなのにアーサーさんは、目に入った魔武器に対して一切の迷いもなくスキルをぶつけていたんです。……思い出してもゾッとしますよ。突然魔力の波動を感じて焦りました。彼には『スキルを使うのが怖い』という当然の感覚が欠落しているように見えました」
「……あるいは、己の能力に絶対的な自信があるのか」
「ですが普通、最低限の安全確認くらいはしたくなるものでは?それで亡くなっている人はいくらでもいるわけですから」
「もちろんそうだ。……となると、もう一つ疑問が浮かぶな。それほど絶対的な自信があるのなら、なぜ私が五百万の融資を申し出た際、一度は拒否したのだ? そこまでの自信があるなら、断る理由などなさそうなものだが」
「……話が上手すぎると警戒したのでは?」
「だとすれば、彼は『契約』というものの恐ろしさを熟知していることになる。……となると、人里離れた山奥で育ったという説が怪しくなってくるな。山奥に契約書など存在するはずもなく、その罠や恐ろしさを学ぶ機会などないはずだからね」
「なるほど……言われてみれば」
しばらくの沈黙の後、デルモンドが再び口を開いた。
「ところで、風呂屋での彼の様子はどうだったかね?」
「あ、はい。実はそこが一番の懸念でした。アーサーさんを無事にお風呂に入れられるか不安だったのですが……彼は看板を見た瞬間、小躍りせんばかりに喜んでいまして。こちらが無理に勧めるまでもありませんでした」
「ふむ……ますます山奥育ちの可能性は低くなったな。彼は明確に『風呂』というものを知っており、以前にも入った経験があるということだ」
「そうなりますね……」
「すまない、話を折ってしまった。続きを聞かせてくれ」
「はい。背中を流しながらしっかりと観察しましたが……アーサーさんの髪は根元から真っ黒でした。染粉などを使ったわけではなく、純粋な『黒髪』です」
「そうか! それは極めて重要な情報だ。かつてこの世界に現れたという、伝説の勇者と同じ『黒髪』か……」
デルモンドは喉を鳴らし、くつくつと不気味に笑い出した。
「やはり、あの少年には『何か』がある……」
歓喜に瞳を濡らしたデルモンドは、獰猛な笑みとともに口元から垂れかけた涎を優雅に拭ったのだった。
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