7話 二組の恋バナ
火薬の匂いを体に纏ってあの静かな心地よい時間を思い出しながら風呂場で名残惜しい気持ちを抑えて洗い流した。
「ふぅ~、上がったよー」
「おけーりぃー、ちょっとデッキにでもでないか。湊」
「いいよ。夜風に少し当たりたいし」
蒼太と二人で月明りとカーテンから漏れる暖かな光だけで照らされるデッキに出た。
「ん~~、涼しい。風呂上りにはいいなあ」
「風は引くなよ、上着きとけよ」
「ん、ありがと」
「なあ、湊」
「なに、そんな真剣な顔して」
どうしたんだろう、蒼太らしくない顔して。
「ちゃんと湊には言わなきゃなって、思ってさ」
「…うん」
「俺さ、琴葉のこと……」
それ以上、聞きたくない。
でも、いいじゃないか?俺は琴葉を幸せにできない。絶対泣かせることになる。思い上がりもいいことを口にしてるけど、泣かせる。そうなる。なら蒼太なら?安心して任せられるじゃないか。優しくて、かっこいい俺の親友なら。
「好きなんだ。告ってもいい?湊」
「ああ、そう…なんだ。へぇ」
声が震えてる、ばかっ。今任せられるって言ったじゃないか。
「…」
「いいんじゃないか、蒼太なら絶対成功するだろ。優しいし、かっこいいし、よく二人でちょっとばかやったりもしてて仲いいしさ。誰がどう見たってお似合いだろ?てかなんで俺にそんなこと言うんだよ。聞く必要ないだろ。」
「……」
「なんだよ、なんか言えよ」
「お前は。湊は、どうなんだ」
「お、俺?俺は別に、ただの幼馴染としか思ってないよ。ばかじゃねえの」
「琴葉の隣に知らないやつが居てもお前は何にも思わねえのかってことを聞いてんだよ。そうなったら今までみたいに、四人で、二人でももう遊べないかもしれねえんだぞ」
「…っ。それは……大丈夫だろ。蒼太が告るんだろ?何の心配もいらねえじゃんかよ、お前なら安心して琴葉を…任せられる」
「……………」
なんだよ、急に黙り込んで。それになんでそこまで俺に言ってくるんだよ。自分が告るって言ってる割には、それを俺に決めさせようとしているような。何がしたいんだよ。
「おい、なんか…言えよ」
「はぁ~~~~、クソッ…。なんなんだよ、ここまでして」
え、こいつクソっていった?なんなんだよって何?意味わかんねえ。それはこっちのセリフだっての。
「なあ湊。お前はついてんのか!」
「…は!?」
「ああ〜疲れた。嘘だよ、嘘、琴葉のこと好きってのは嘘だよ」
「は!?なんだよそれ。あんな真剣な顔しといて、嘘って」
「だって、お前ら二人見てるとな。……むっずむずして嫌なんだよ!マジでなんなの?いっつもあんなにイチャイチャしといて付き合ってないって?え?おかしいだろ!?だから今、鎌かけて告るようにしてんのに。なのにお前は、蒼太なら安心して任せられる。だ!ふざけんな」
「か、鎌かけた…」
「そうだよ、マジで見てて腹立つ。好きだって自分で分かってるんだろ、なのになんで言わないんだよ」
「それは……」
「なんか理由があんのか。親友の俺でも話せないことなのか。無理に聞く気はない。湊が話したい時で良い。いつでも聞いてやるから。な?親友」
優しいなあ…。でも、
「ごめん。言えない、いや言いたくない。親友には特に。今まで通りで居てほしいから」
「…分かった。よし、ごめんな。ちょっと冷えたな、あったかいのでも飲んで寝ようぜ」
「うん。ごめんな………いつかちゃんと言うから」
いつかちゃんと言うから、か…。
上着の袖を強く握りしめて自分の情けなさに弱さに、腹を立てた。
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私は桜井琴葉です。
今日は仲のいい四人でしおちゃんの別荘にお邪魔してみんなでバーベキューをして、映画見て、花火して、とっても楽しい一日でした。
そして今は、しおちゃんと二人でふかふかなお布団の中で寝る準備をしています。友達とのお泊りはやっぱり楽しい!そしてお泊りといえばお決まりの話題がある。
そう、恋バナ!
しおちゃんのそう言った話を全然耳にしないから今日はとことん聞こうと思っている。
「ねえねえしおちゃん!」
「ん、なあにことちゃん」
「やっぱお泊りといえば、恋バナじゃん!しおちゃんの恋愛事情知りたいなあ」
「恋バナ…ふふっ。そうですねぇ、全くもってありませんね」
「え、しおちゃんこんなに可愛いのに、一個もないの?話しかけられたりもないの?」
「そうですねえ、まあ話しかけられることはちょくちょくありますが初対面から『今度どこか遊びに行かないか』とか、『連絡先教えて』なんて言う馴れ馴れしい人ばっかりなので丁重にしっかりとお断りしてますね」
なんだそのナンパじみたセリフたちは、なんて愚かな男たちだろう。しおちゃんにそれで振り向いてもらおうだなんて同情することもできないや。
「なにそのナンパ!失礼すぎるでしょ!しおちゃんのこと絶対軽く見てんじゃん!ちょっとムカついてきた」
「まあそんなことより、自分から恋バナ振ったからには根掘り葉掘り聞かれる覚悟があるってことだよね?」
「へ…わたしも!?」
「当たり前でしょ、湊と今どんな感じなのかたくさん聞きますからね」
「み、湊!?なんで湊って分かるの!?って、あっ、ち、違くて、いや違くなくってぇ…」
「ふふっ、誰がどう見ても分かりますよ。ことちゃんは分かりやすいですからね」
バレてた上に分かりやすいの!?私ってそんなに分かりやすく好き好きオーラ出てたの!?めっちゃ恥ずかしいんだけど!
「それで私的には結構いい感じだと思ってるんですけど、ことちゃんはいつ告白するんですか?あっ、それともされたい派ですか?」
「ええ!?そんないい感じなのかな…。それに告白ってぇ、んん~それは特に気にしないけど」
いい感じに見えてるのかな?ただの幼馴染って思われてるような気がしてならないんだけど…。でもこの前、かわいいって言ってくれたし案外しおちゃんの言う通りいい感じではあるのかな。
「気にしてないならことちゃんから告白しちゃったらどうです?湊、絶対自分からは言わないですよ。大事なことはよく濁しますから」
「ん~~確かに湊大事なこととか言ってくれないとこは確かにあるかも…でもまだ早いよ絶対、幼馴染としかまだ思ってくれてないよぉ」
「そうですかねえ、でもまあ確かにそうかもしれませんね………。まあそれは置いといて、ことちゃんは湊のどこを好きになったんですか?気になります」
「す、好きなところ!?それは、えっとまあ、うん…。しおちゃんにならいいかな」
私にとってこれは悲しい辛い話、でも暖かい思い出でもあるそんな話。
「私のお母さんのことはしおちゃん知ってるでしょ。事故で亡くなっちゃったこと」
「ええ、知っているわ」
「湊とちゃんと関わりだしたのはお母さんのお葬式からなんだ。親同士が知り合いってのは知ってたんだけど、特別仲良かったわけじゃ、それまでなかったんだ」
「……」
「私、とっても悲しくて後悔してて、事故の日お母さんと喧嘩しちゃってそのままで、ごめんなさいって仲直りできない…まま……。それで式場の端っこでうずくまってたの」
あの時の私は自分が許せなくって、そんな自分が大嫌いで暗くなっていたと思う。
「その時にね、湊が隣に、何も言わずに座ってきて頭撫でてくれたんだ。…最初は何こいつ、うざい、邪魔だって思って鬱陶しくて仕方なかったんだけど、『大丈夫、ひとりじゃないから』『俺がそばにいるから、目一杯泣いていいよ』って言ってくれたんだ」
「大丈夫じゃないし、私のことなんて何にも知らないくせにって思った。でもその時はその言葉が、手の温かさが嬉しくって、優しくて、そしたらぶわって抑え込んでたものが全部出てきちゃって、ごめんなさいって何度も何度も言いながらたくさん泣いちゃったんだ」
小学校低学年で言えることなんて限られていて、でもだからこそその時言ってくれた湊の言葉が本当に、黒く暗くなっていた私の心を溶かしてくれたんだと思う。表裏なんてない、うわべじゃない、声をかけてきた大人たちの大丈夫なんかとは比べ物にならなくって、とっても心を温めてくれたことを今でも鮮明に覚えている。
「その頃からかな…。お葬式の後もね、湊は家まで来て部屋に籠ってた私を外に連れ出したり、友達のところに混ぜてくれたり、話し相手になってくれたりしてね、気づいたら好きになってた。目で追ってたと思う」
「………そっか。ありがと、話してくれて。湊いいとこあるわね」
「うん…」
私は後悔したくない。
お母さんにごめんなさい出来なかったことのように、人はいつ居なくなってしまうか分からないんだから…。




