1話
俺は、キミに好きとは言わない。
私は、彼に好きとは言っちゃいけない。
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今日も俺は、玄関前で小さく息を吐いて、
「 いってきます 」
と、声を張って外へ飛び出す。
くすぐったい春の風が頬を通り過ぎる。その心地よさに、自然と頬が緩む。
なんて気持ちのいい朝だろう。そんな気分だ。
そう、今日は高校の入学式なのだ。
俺は、今日から水凪市にある私立水瀬高等学校、通称みなこうの一年生になる。
高校までは徒歩で行く。徒歩20分ほど。その途中で俺は待ち合わせをしている。お互いの家のちょうど半分にあるお洒落ないかにもイソスタ映えしそうなカフェの交差点。
カフェまでは約5分。その道中想像してしまう。
『彼女は俺を見つけると、パァーッと目を輝かせ、両手をブンブン振って「みーなとー!」と声をあげてこちらへコツコツと駆け寄ってくる。』
...なんて。
口角をあげてしまう。
もちろん、彼女はまだ来ていない。
彼女が先に来ていることは滅多にないから、いつも俺は待たされる。だが、この時間が嫌いではない。
少し賭けをしよう。彼女が想像通りかそうじゃないか。まあ、こんなの賭けにもならないんだけれど。
なぜ、賭けにもならないかって?それはすぐわかる。
「みーなとー!」
目が奪われる。その姿は俺の想像と同じ、表情、言動、行動をしているのに、何故か想像通りではない。胸がきゅっと苦しくなる。
これは...。賭けとしては勝っているはずなのに、負けているっ。
「おはよー!湊」
「おはよー、琴葉」
「ごめん、待たせた?」
「ううん、楽しかった」
「なにそれ」
と、彼女はくすりとはにかんだ。
彼女とこうやって登校するのは小学生以来になるだろう。中学の時は、学区の境で違う中学校になってしまったから、一緒に登校するのが懐かしいようで、あの頃とは少し変わっている。
小学生の頃は、俺の後ろについてきて教室や、校庭の木の下で、本や他愛もない会話をよくしていた。ちんちくりんのはずだった。
中学は別だった。それでも土日になれば、毎週のように遊んでいた。よく一緒に家でゲームをしたり、本を読んだり、時にはお出かけしたり、毎週のようにしていたから、高校生になったからといって何か変わったわけではない。
はずなのに...。
ウルフカットのセミロング。毛先の軽い、ふわふわとした自然なダークブラウンの髪は、毛先にかけて少し落ち着いた色味をしている。ぱっちりとした焦げ茶色の優しい瞳。その瞳を見るだけで、昔から変わらない安心感と、高校生になった彼女への戸惑いを同時に感じてしまう。
中学の時とは違う。何か色気のような、大人っぽさを感じる女性みたいな...。
「わあ、見て見て!スミレだよ!」
「ん、本当だ」
「あ!テントウムシ!」
「あ!チョウチョー!」
.....。いや、勘違いだったようです。これはどう見ても、ちんちくりんである。
無邪気な笑顔を振りまく、誰もが目を引く女の子。
俺はそんなキミのことが、
ずっと、
「っ…。」
「ん、どうしたの」
「いや、はやくしないと遅刻するぞ」
「はーい、わかってまーす」
道中の桜並木と、川の心地よい音が、俺の心を静めてくれた。
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「いや~採寸の日以来にきたけど、相変わらずおっきな校舎だね」
「だな、圧倒されるよ」
「こりゃー高校最初の大イベント、クラス発表!!一緒のクラスになれるか心配だよ~みなとー」
「あーくっつくな、初日から変な噂立てられる」
「へぇ~、どんなウワサかなぁ、このこのっ」
「だーーもう、うるせぇ、ちゃっちゃと見に行こうぜ」
「もぉ、照れちゃってぇ、私のこと好きかよ~」
「…。」
「無言の拒絶!」
「私泣いちゃうよ、えーん、えーん」
「嘘泣きやめろ」
「いてっ」
昇降口には、先輩たちが装飾してくれたであろう、「入学おめでとう」の文字と、その下にクラス発表が貼り出されていた。琴葉と同じ気持ちだったことに少し安堵しながらも期待と不安を胸に、少し重い瞼を持ち上げようとした。
「あっ、あ、んっ、湊、みなとっ!」
俺の肩に手を置いて、上下に揺れながら指を指していた。
「なんだよ、そんなに慌てて」
指の指している視線の先に俺と、彼女の名前が載っていた。
「一緒だよ!一緒、湊!」
「ほ、ほんとだ」
「ひひっ、やっぱ一緒だったね」
「はぁ~」
「えぇ~、なになに、そんな心配だったの~、うりゃうりゃ」
「なっ、琴葉だってさっき心配だーなんて言ってたくせに」
「えぇ~なんのことだろうなー」
と、彼女は教室へ向かった。
「これから一年、またよろしくね、湊」
教室に向かう階段で振り返って、少し照れくさそうに笑った。
俺は、この新たな場所で、
この笑顔が、この小さな幸せの日常が崩れないようにーー。
俺は、心に誓った。




