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 そして、約束の土曜日。

 弥生は指定された駅まで向かうと、既にさくらは待っていた。


「さくらちゃん、おはよう。いつも早いね」

「おはよう、弥生ちゃん。時間に余裕を持ってないと落ち着かないんだよね」

「そっか、なんかさくらちゃんらしいねえ」

「え? それどういう意味?」

「そのままの意味だよ」


 弥生から見てさくらは真面目だと思う。だからこそ、きっちりしているさくらを見るとなぜだか安心するのだ。

 さくらと談笑しながら弥生はさくらの家へ向かう。


「ここだよ」


 そう言って辿り着いたのは、弥生の家よりも大きな家だった。庭には誰かの趣味なのか、花がたくさん植わっている。それがさくらの家だといわれると納得してしまう。


「わあ、大きい家だね」

「そうかな?」

「そうだよ、今度うちに来るようなことになっても驚かないでね?」

「そんなことしないよ」


 少女ふたりはくすくす笑い合いながら、家主のさくらに先導してもらい弥生は「お邪魔します」と言って上がらせてもらった。

 玄関は広く、やはり弥生の家より大きいのだと実感する。

 靴を揃えて段差に気をつけながら上がる。


「さくらちゃん、これ、お土産持って来たよ」


 弥生は駅前で買ったケーキを箱ごとさくらに渡した。


「わざわざいいのに」

「さくらちゃんの家に遊びに行くんだから手ぶらはだめだってお母さんに言われたの。あ、もちろんお土産はお母さんに言われなくても買う予定だったからね!?」

「気にするところそこ? ふふ、やっぱり弥生ちゃんは面白いね」


 玄関先で会話に花を咲かせるふたりに声をかけたのはさくらの母だった。


「さくら、いつまで玄関にいるの? 弥生ちゃんを部屋に案内してあげなさい」

「はーい。お母さん、これ、弥生ちゃんがお土産に持ってきてくれたの」


 さくらが母にケーキの箱を渡すと、さくらの母は「気をつかわなくていいのに。でも、ありがとうね」とさくらに似た笑顔を浮かべたので、親子だと謎に感心してしまったのは秘密だ。


「はじめまして、さくらちゃんの友人の高橋弥生です」

「あら、ご丁寧にどうも。さくらの母です」


 さくらの母は、さくらと同様にとても美人だ。いや、さくらが母に似て美人なのだろう。親子仲もよさそうで何よりだ。

 さくらの部屋は二階にあるようで、スリッパを借りて二階へと階段を上る。扉には『さくら』と書かれた桜の花があしらわれたネームプレートが飾られていた。

 そして、ドアノブを捻るとふわっとさくらと同じ香りがした。


「どうぞ、入って?」

「ありがとう」


 弥生は綺麗に整頓された桃色が基調となったさくららしい部屋を見て、改めてさくらは可愛い女の子だなと思った。

 それでいて、さくらの部屋には無駄なものがないのだ。趣味と豪語する本棚にはずらりと並んである本達が綺麗に並んでいた。

 人の部屋をじろじろ見るのは失礼だと気づいた弥生は見渡すのをやめた。


「さくらちゃんの部屋、片付いてるから綺麗だね」


 当たり障りのないことを言って、じろじろ見ていたことを誤魔化した。


「実は昨日掃除したんだ」

「ええっ、そうなの? なんか気をつかわせてごめんね」

「いいの。お客様がくるんだから、綺麗にするのが普通でしょう?」


 確かに、言われてみればそうだ。

 もし、弥生がさくらを家に招くとなったら綺麗に掃除するだろう。


「さくらちゃん、意識たかくてすごいね」

「そんなことないよ、普通だよ」


 さくらにクッションを渡されて、弥生は腰を下ろした。

 そこで部屋をノックされ、さくらの母がトレーを持ってやってきた。


「弥生ちゃんが持ってきてくれたケーキと紅茶を淹れたの。どうぞゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」

「お母さん、ありがとう」


 そっとドアを閉めて、さくらの母は一階へと降りて行った。


「さくらちゃん、前に甘い卵焼きが好きだって言ってたでしょう? だから、ケーキにしたんだ。アレルギーとかなかったよね?」

「覚えててくれたんだ、嬉しい……! うん、特にアレルギーはないからだいじょうぶだよ」

「そっか、よかった。さくらちゃんとのやり取り、私けっこう覚えてるよ。今まで友達のなった子と全然タイプ違うし、さくらちゃんの話は聞いてるだけで賢くなれそうだから」

「ふふ、なにそれ! 私、そんなに賢くないよ」

「本を読んでる人はみんな頭いいイメージがあるの」

「……その、ありがとう。弥生ちゃんは褒め上手だから、いつも本気にしちゃう」


 さくらは気恥ずかしいのか、珍しく歯切れが悪い。本気で褒めているのだからそのまま受け取ってくれていいのにと思うが、それを言うのも野暮だろう。弥生は口をつぐんだ。


「……せっかくの紅茶が冷えちゃうね。いただきます」

「そうだね。いただきます」


 駅前のケーキ屋さんは甘党の母が気に入っているお店なので、弥生もよく食べている。味は保証できるのでここのお店を選んだ。特にイチゴのショートケーキがスポンジがふわふわで、クリームもほどよい甘さでイチゴの酸味がケーキの甘さを引き立てて美味なのだ。


「おいしい! スポンジとクリームの相性がばっちりだね」


 さくらのお気に召したようで何よりである。さくらの母が淹れてくれた紅茶は香り高くまろやかなくちどけに満足する。


「この紅茶おいしいね! 飲みやすいしクセになりそう」

「それならよかった。私もお母さんも気に入ってるの」

「そうなんだ、どうりでおいしいわけだね」



 ティータイムを終えたふたりは、今日の目的であるミストのお試し会を始めた。


「私のおすすめはこれだよ。今使ってるやつ。香りが気に入ってるんだ」


 さくらは紙に向かってワンプッシュして香りを試させてくれた。いつもさくらから香るいいにおいはこれだと気づいた。


「いつもさくらちゃんが学校に付けてきてるやつ?」

「そう、正解!ほかにもあるから試してみる?」

「うん、お願い」


 さくらは何個かヘアミストを持っているのでひとつずつ香りを楽しませてくれたのだが、弥生はいつもさくらが付けているものが一番好みだった。


「たくさ香りを楽しませてくれてありがとう。でも、私はさくらちゃんがいつも付けているやつが一番好きかな」

「ほんとう? 嬉しい。新しいの買ってあるから、よかったら持って帰って?」


 さくらはかごの中から新品を出して弥生に渡そうとするが、やんわりと断る。


「そんな、もらえないよ。自分のおこづかいで買うからだいじょうぶだよ」

「いいの、この前私の買いものに付き合ってもらったお礼ね」

「それこそ受け取れないよ! 私も楽しかったし、さくらちゃんは気をつかいすぎだよ」

「でも……」

「ほんとうに、気持ちだけでも嬉しいから。お金貯めたら買うね」

「弥生ちゃんがそういうのなら……」


 さくらは渋々といった様子でヘアミストを元の場所に戻した。千円以上するものをおいそれといただくわけにはいかない。いくら仲良しの友達といえど、線引きは必要だ。

 話題を変えようと、弥生は「そうだ!」と声を上げた。


「私、アルバイトすることにしたんだ」


 弥生の言葉にさくらは息をのんだ。そこまで驚くことだろうか。


「まだどこにするか決めてないんだけどね。でも、アルバイトすればお金が貯まるでしょ? そうすれば、さくらちゃんと遠出だってできるもんね」

「私と遊ぶため……?」

「それもあるけど、社会経験を積んでおきたくて。さくらちゃんはアルバイトするの?」

「私もする!」


 意気込むさくらは弥生の意見を聞いて振り回されていないだろうか。さくらはこと弥生のことになると少々熱が入るので心配だ。


「さくらちゃん、別に私に合わせなくてもいいんだよ?」

「ううん、私も社会経験はしておくべきだと思うし、弥生ちゃんとたくさんおでかけしたいの」


 いじらしいことを言うさくらに弥生は胸がきゅんとした。


「さくらちゃんのそういうところ、可愛くて大好きだよ」


 弥生の言葉にさくらはかつてないほど赤面し、俯いてしまった。長い髪で顔は隠れているが、耳は赤くなっているので照れた顔を見せたくないのだろう。


「さくらちゃん、可愛いね」


 その言葉にさくらはばっと顔を上げた。


「弥生ちゃんの方がずっと可愛いよ。大好き」

「えへへ、私も大好きだよ」



 それからさくらおすすめの本を数冊借りて、弥生はさくらの家を出た。

 さくらは「駅まで送るね」と言って、ご丁寧に客人の世話を焼いてくれたのだ。

 駅に着くのはあっという間で、楽しい時間というものはすぐに過ぎてしまうものだ。


「また月曜日ね」

「うん、また月曜日会おうね」


 弥生はさくらに手を振って、改札口を通った。

 それから一時間もしないうちに家に着いた弥生は、一応無事に帰宅できたことを連絡しておいた。

 すると、さくらから返信がすぐに返ってきて、弥生はふふと微笑んだ。



 弥生は家に近くにある例の駅前のケーキ屋さんでアルバイトが決まった。

 それをさくらに報告すると、さくらも本屋でのアルバイトが決まったらしく、お互い頑張ろうねと激励を送った。

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