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下町へ 1

間が空いてしまい、申し訳ございません!

ここまでの簡単なあらすじです。


生まれてすぐに母と死別したローラは、伯母が嫁いだ男爵家に引き取られた。使用人として働かされ、さらに望まぬ縁談を強制される羽目になり、家を逃げ出す。

人攫いから少年を救った縁でダンフォード侯爵家を頼ったところ、クセが強いが有能な執事・フレディのとりなしでなんとかメイドとして採用された。

人嫌いで有名な侯爵シリル・ダンフォードとようやく会えたと思ったら、実は彼は魔女の呪い――夜になると姿が変わる呪い――に苛まれていた。

助けてもらった恩返しに、呪いを解く鍵を探し始めたローラだが……?


2024/12/25、夏チヨ子先生のコミカライズ単行本第1巻が発売になりました!


 おかみの店が開くのは日が落ちてからだ。いったん部屋に下がったローラは、日が傾いてきた窓の外を眺めながら考え込んでいた。


(フレディさんが言った「おめかし」って、ようは私だって分からないようにしろってことだよね?)


 伯父やホイストン卿本人が、下町まで探しに来るとは思えない。

 しかし、もしおかみの店に行ったことを知られて「匿った」などと言いがかりをつけられたら、皆に迷惑がかかってしまう。それを防ぐには、パッと見てローラだと見破られなければいいはずだ。

 ローラが持っている私服は2枚。

 そのうち紺色のワンピースを着てみたが、私服姿が珍しいとはいえ、これはメイド服を着ていないだけのローラである。


(いやでも、これ以上なにをどうしたら?!)


 伯母の身支度を手伝うことはあったが、他人にするのと自分でやるのははまた別の技量が必要だ。

 さてどうすれば、と頭を抱えているところにノックが響いた。


「ローラ、支度はできた?」

「あっ、フレディさん」


 部屋を訪れたフレディは、普段の執事用のかっちりとした服装から、ラフな平民の服に着替えていた。

 シリルに劣らずフレディも容姿がいい。シャツにチノパンという庶民のスタンダードな服でも多少目を引いてしまうが、慣れた感じに着崩しており、これなら下町でも浮かないだろう。


「フレディさんはばっちりですね。私、着替えは終わりましたけど、その……」

「あぁうん、そんなことだろうと思った。まあ、座って」

「?」


 疑問を挟む隙もなく椅子に座らせられる。なんだろうと思っている間に、フレディは鞄から化粧道具を取り出しローラに施し始めた。


「な、なんでフレディさん、そんなもの持っているんですか?」

「仕事上、必要でね」

「執事ですよね?――ふむっ」

「はいはい、黙って。口紅も軽く塗るよー」


 侯爵家の執事を勤めるには化粧のテクニックも必要なのだろうか。ともあれ、疑問符を頭上に浮かべつつ驚いている間にローラの化粧は終わった。

 手際よく髪もまとめられ、ぽすりとなにかが被せられる。


「これ……」


 顔にかかる細いきらきらを摘まんでみる。金髪のウィッグだ。


「人の印象っていうものはね、少し顔の雰囲気を変えて髪の色を違くするだけで、かなり変わるんだよ」

「なるほど……?」

「ほら、自分で見てごらんよ」


 姿の変わったシリルと調査のために外出する際に、同伴するフレディも軽く変装することがあるそうで、そんな時用なのだという。

 促されて鏡の前に立ったローラは、そこに映る自分を見て目を丸くした。


「え、これ、私ですか!? 本当に?」

「いやあ、思ったよりも変わったね!」


 顔が丸見えにならないよう前髪は長めで、肩までのきれいなストレートボブ。明るすぎない金の色は、言われなければウィッグだと分からない自然さだ。

 その下の顔も、ちょっと化粧をしただけのはずなのにまるで別人のようでローラは驚く。

 これでは訳ありなメイドではなく、普通のお嬢さんのようだ。

 今フレディと並んだら兄妹……は言い過ぎだが、従姉妹くらいには見えるかもしれない。


「……びっくりしました」


 自分の頬を指先で押したりしながら目を丸くして鏡を覗き込むローラに、フレディも満足そうだ。


「うん、これならパッと見てローラだって分からないだろうね。……ん?」


 自分の仕事に満足そうにしていたが、しっかりと振り返ったローラを見てフレディはなにかに気づいたようだ。


「どうかしましたか」

「今一瞬、誰かに似ている気がしたんだけど……誰だろ?」

「よく行くお店の店員さんとか、お客さんとかじゃないですかね」

「そういうのとは違う。うーん、見たことがあるような、ないような……」

「まあ、平凡な顔ですし」


 フレディはしきりに首を傾げるが、これといって顔に特徴のないローラである。似た人は沢山いるだろう。


「だめだ、思い出せない。ま、いっか!」


 フレディも額をぺち、と叩いて考え込むのをお終いにした。


「じゃ、そろそろ向かおうか」

「はい。あ、侯爵様はどう……」


 言いかけて、部屋の外に足音――人のではなく、犬の足音が聞こえた。


「ああ、シリル。今夜はこっちだったか」


(えっ、あ……そ、そうだった!)


 いつかの夜に見たのと同じあの大きな犬が、つんと鼻先を上げてやってきていた。はっと思って外を見ると、すっかり日が沈んでいる。

 改めて犬を見ると、毛の色がシリルの髪と同じ銀色だ。先日の夜は気づかなかったが、色味はもともとの本人のものが残るのかもしれない。


(本当に姿が変わるんだ……)


 それにしても、毛並みも立ち姿もやはり美しい。一瞬見蕩れて、ついでに駆け寄って撫で回したくなったが、中身はシリルだということを思い出して踏みとどまる。


(いけない、いけない。お坊ちゃんもワンちゃんも、気軽に撫でたり抱いたりしちゃ駄目!)


 自分に言い聞かせるローラの前で、フレディがシリルに話しかける。


「子どもに変身していたら留守番だったけど、犬なら一緒に行けるな。でも、店には入れないと思うぞ。それでもいいか?」


 フンフンとフレディの袖を咥える犬……シリルは、なにか言いたげだ。


「分かってるって。見張りは任せた」


 その言葉にパッと袖を離したが、今度はフレディの後ろにいたローラをまじまじと見上げてくる。気になるようだが近づいては来ず、なんだか戸惑っているようだ。


(えっと、どうしたのかな?)


 よく分からない行動にローラも困っていると、フレディが吹き出した。


「あはは! 知らない人がいると思った? ローラだよ。かつらと化粧でだいぶ変わるねえ」

「わ、私です、侯爵様!」


 ウィッグを取ってみせると、少し驚いたように犬の目が大きくなった。

 まっすぐ合った瞳は人だったときと同じ紫だ。お互い、確かめるような視線が交わって――。


「……ワンちゃん可愛い、かっこいい。ぎゅってしたい……」

「……」


 思わず口に出てしまった。シリルはふい、と顔を背けてそのまま部屋から出てしまう。


「あ、シリル、待てって」

「わっ、ごめんなさい、つい本音が! ああっ、置いていかれる!」


 慌ててウィッグを被り直すと、フレディとともにローラもシリルの後を追いかけた。





挿絵(By みてみん)

コミックス①がライドコミックスから発売になりました!

詳しくは2024/12/24付け作者マイページ/活動報告で!


同じく今月配信のノベル第3巻『運命の恋人は期限付き 薔薇の秘密と舞踏会の巻』

11月発売のコミカライズ『レンズ越し、たった一度の恋をする~失踪令嬢とカメラマン~』と合わせてよろしくお願いします!

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コミカライズ連載中!
作画:夏チヨ子先生
呪われ侯爵様①書影 呪われ②書影
コミックス1~2発売中!

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