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第六話【最終回】

「おーい、我はここだー!一歩右、いや逆だ!一歩前、二歩前、すこし左に回転……そこだ!あああ待て待て踏むな!それ以上進んだら許さんぞ!!」

「ハイハイこの辺かな」

「ふちにふぶぃふぁふぁいってゆ」

「なんて?痛ってえ!?」

「口に指を突っ込むな痴れ者が!」

「見えないんだからしょうがないでしょ!?」


 海辺で大きな果物を叩き割るアレのようにしてどうにかジャスティナを拾ったハウディはバチィ!と電撃的に走る痛みに一瞬耐え、再び彼女を胴へとマウントした。


 視界が蘇る。


「それで、『幻影の辻斬り』ジャックは!?」

「見えなくて大変だったが縛っておいたぜ。ほら、そこに転がしてある」


 ハウディ、というより右腕が指差す方向を見ると袴に身を包み両手両足を後ろで縛られたジャックがそこに寝かされていた。相変わらず深い編笠でその表情は見えないが、どうもしゃくり上げている様子から泣いているようだった。


 その様子に王に忠誠を誓った正々堂々たる騎士ジャスティナは困り顔だ。


「さ、流石に騙し討ちからの金的攻撃は騎士道精神に反していたかもしれない……」

「大丈夫だろ。命の危機だったし、過去に例のない緊急事態だ。アンタの親玉もわかってくれるさ」

「そうかな、そうかな……」

「気にすんなって。ま、とりあえずコイツの顔を拝まないとな。ずっと気になってたんだよ、道端で人間を襲うようなヤバいやつが一体どんな顔してるのかって。さぞ醜悪な顔なんだろ……」


 ハウディはしゃがみ、倒れたジャックの編笠を取っ払ってその顔を見た。


 そして絶句した。


 そこには、首があるべき場所には、何もなかったのである。


「なんでお前も首無しなんだよ!?」

「わたしだって好きでこうなったんじゃないんですぅ!」


 胴体が盛大にズッコケたところで『幻影の辻斬り』こと首無しの浪人は初めてまともに声を上げた。


 かわいらしい女の声で。


「ん?貴様まさか女か」

「どういうことだ!?金的は結構効いてただろ!」

「男の人でなくたってあんな全力で股を蹴られたら痛いに決まってるでしょ!蹴られたことないんですか!?」

「俺は男だからより痛い方だよ!我ながらアレが自分なら死んでいると思ってるさ!」

「我はそのような隙を晒したことはないからな。知らん」

「まあジャスティナはそうかもしれないけど……」

「え、ちょっと待ってください?」


 ジャスティナとハウディが口々に言っていると混乱した様子のジャック、そう名乗っていた女が割り込んだ。


「アレ?私が斬った騎士さんは女の人でしたよね?というか首を刎ねたはずなんですけど、どうなっているんですか?」


 二分後。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

「なんで首無くした女は全員初見の反応がそれなんだよ」


 頑張ってみると案外引っこ抜けたジャスティナの首を移植されたジャックは目の前に立つ首無し賞金稼ぎを見て絶叫した。


「まあこういうわけだ。貴様に斬られたおかげで我は身体を、そこの男は首を失った。そしてこのように首をくっつけると視界その他が共有される。貴様のこの妙な術おかげで散々な目に遭ったぞ」

「え、ええ分かってはいましたがいざ目の当たりにしてみるとすっごくショッキングですね首無しの人」

「お前がやったんだけどな」


 ジャックはスポンとジャスティナの頭を引っこ抜き、再びハウディの身体に戻した。


 早くも頭移植のコツを掴んできた三人だったが、むしろ謎は増えてしまっている。


 怪訝な顔をしたジャスティナと身を乗り出すようにしたハウディはジャックに質問をぶつける。


「それで、察してはいるのだが貴様さては我々と同じ被害者だな?」

「はい……実はわたしも襲われて首を斬られた側なんです」

「そもそもなんであんなに強いんだよ。ただの村人って感じじゃねーだろ」

「すべてお話しします。私がなぜこれだけ東洋剣術に通じているのか」


 ジャックと名乗る首無し女は二人に促しつつ正座するとポツポツと語り始めた。


「わたし、本当の名前はリラ・シーキルアと言います」

「あ、偽名だったんだね」

「実はかねてから私よりスタイルの良い女性が気にくわなくて……」

「すごいな、二手目からすでに分からなくなった」

「わたしよりスタイルの良い世の女性をすべて消せばスタイルが相対的に良くなると思い、東洋の人斬りに憧れて個人鍛錬を重ねました」

「もうどこから突っ込めばいいやら」

「待て、貴様がこれ以上突っ込むと話が進まなくなる可能性が高いぞ」


 顔がないのにあきれ顔がありありと想像できるハウディをジャスティナがたしなめる。


「それでとうとう人の首を一刀両断できるところまで練習したところで、編笠を被り袴を着ていざ本番!と思い通りかかった女の人に襲い掛かりました。月に映える眩い銀髪、背の高くてスタイルもいい女性……そしたら見事返り討ちに遭い、気がつけばこの状態に。運よく首がないことを隠す編笠はなんとか見つかりましたがわたしを知る人に助けてもらおうと思い、道行く人に私の特徴を見てもらっていました。右胸のほくろを」


「流石に我慢ならねえ突っ込ませろ!なんで!?他にもっと特徴無かったのかよ!」


「わたし、自分で言うのもなんですけど百年に一度の逸材級だと思うんですよねこの胸の無さ。それに大きなほくろもついてますし、これを見たらもしかしたら旅人の中にわたしの顔を思い出して助けてくれる人がいるかもしれないと……」

「絶対名前を言った方がいいよね!?」

「わたしもそう思いました。ですがこんな突然胸を見せつけてくる露出狂、どう考えてもヘンタイです。ですので、偽名を使うことにしたんですよ」

「それで『ジャック』か。じゃあ霧は?なんで人を襲ってたの?」

「人を襲ったのは最初の一回と騎士さん、そしてあなたの計三回だけですよ?霧は東洋剣術のひとつ『五里霧中』です。霧の中から襲い掛かる手際はばっちりでしたでしょう?」


 キョトン、とした顔……ではなく雰囲気のハウディが混乱のあまり絶句していると、代わりにジャスティナが質問を引き継いだ。


「我を襲った理由は」

「そちらがわたしを殺しに来ていたのと、以前お見かけしたときスタイルが良かったので。ハウディさんは連続して襲ってきたので流れで」

「ひどい」

「他の行方不明者はどうした?」

「信じてもらえないかもしれませんが、それはわたしじゃないです」

「うーむ……」


 完全に手詰まりとなった。ここまでの流れでなんとなくわかってはいるものの、希望を捨てきれないジャスティナはさらに一つ問う。


「では、貴様は我々の首を落として生きている理由も、身体や頭が無くなる理由も知らないと?」

「知ってたら自分の首なんかとっくにつけてますよ」

「そうだよな……ハウ、どうしよう」


 ハウディは明らかにジャスティナが意気消沈したのを感じ取った。彼女は今日で身体を取り戻せると信じていたのだから仕方ない。


 それにハウディとて、全くショックがないわけではない。ただ何となく、そう簡単には終わらない事件に巻き込まれたような予感がしてきていたので、もう現状は受け入れるしかないと覚悟が決まってきているのである。


「そりゃ旅を続けるしかないんじゃないか騎士サマよ。我々の間に信頼関係も生まれたことだし」

「貴様との信頼関係だと?」

「一緒に背中を預けて戦ったし、いまハウって呼んでくれたし。な、スティ?」


 その言葉を聞いたジャスティナの脳内にあらゆる感情が駆け巡った。それはもうあらゆる、友情とかプライドとか騎士道とか期待とか恥とか、色々だ。それらは熱となり女騎士の生首を紅潮させる。


「こ……」

「こ?」

「交代だ!胴役の交代を要求する!リラと言ったな?貴様、我に胴を貸せ!こちらからは視界をくれてやる!」

「え、一応わたしは見えなくても空間把握能力はそれなりにあるつもりなんですが」

「頼む!騎士として頭を下げさせてくれ!これ以上この男の身体がくっついていることに耐えられん!」


 頭をしっかり下げて頼むことができないため、ジャスティナは首を前後左右に振って暴れた。さながら駄々っ子のようだが、生首なので非常に不気味だ。


 一方のハウディはすでに暴れる首に慣れっこになっており、それを押さえつつ肩をすくめてみせた。


「うわぁとっかえひっかえだこの騎士サマ。節操ねえなぁ」

「とっかえひっかえ!?それはちょっと、さすがのわたしもドン引きですね……」

「貴様ァ!人聞きの悪いことを言うんじゃない!」

「だって男湯にも喜んで入っていたじゃないですか」

「えぇ」

「それは貴様がっ……!」

「しかもこのエロ騎士、真面目なふりして相当なむっつりで俺もチン」

「わー!わー!言うな!あのことを言われるくらいならお前を食い殺してやる!!!」

「うわ痛い痛い痛い噛まないで!首の可動域がありえないことになってる!!」

「これが騎士道の力だ、思い知るがいい」

「便利だなぁ騎士道って痛い痛い痛い!たぶん腕は取れちゃったらくっつかないと思うんですが!」

「仲いいですね二人とも……」


 少し欠けた満月の下、何の縁か集まった胴のない生首ひとつに首のない胴体ふたつ。


 紅一点ならぬ首一点、身体を取り戻すどころか胴だけ増えてしまった白銀の騎士ジャスティナの受難は続く……。

『首無し騎士のとっかえひっかえ珍道中』、いかがでしたでしょうか。

これ書き終わった後に気づいたんですが、ジャスティナは『首無し騎士』ではなく『騎士の生首』でしたね!

それではまたどこかで。

よかったら他の作品も読んでいただけると嬉しいです。

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