第08話 再会
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目を覚ますと、まだ夜明け前だった。
ベットのから天井を見つめる。私の世界は、ここだけ。
ノア様には一度会っただけ。
目を閉じると、瞼の裏にあの人の姿が浮かぶ。
暗闇の森に、浮かび上がるような銀色の髪をしたその人は、紫色の瞳をしていた。
名前も聞いた。
名前も名乗った。
ただ、それだけ。なのに、いてもたってもいられず、私はまた学校を休んだ。
学校へ向かう時間よりも早く、ローブをまとって森へ向かう。
スカートのすそが、朝露に濡れた。
道は途中で二手にわかれていた。
左の道を進む。
川沿いの道は涼しくて、どんどん歩けた。
しばらくすると、森の先にぽっかりと空き地があらわれた。
空が広い。カモミールの白い小さな花が一面を覆っている。
ほかにも白や黄色の百合がたくさん咲いている。
少しだけ摘んでいこう。
ひょっとしたら、またあの人に会えるかもしれないし。
そんな保障はどこにもないんだけど。
この先の湖まで行ってみることにする。
ちょっとだけ、のつもりが、かごいっぱい百合を摘んでしまった。
気づくと、空には雲が出てどんよりとしている。
日が陰っている。湿った風が髪を揺らした。
「……帰らなきゃ」
雨が来る。
まずい。
「リリー?」
「……ノア様?」
「どうしたのこんなところで」
鬱蒼と茂った森の間から、突然、姿を現したのはノア様。
信じられない!
ウソみたい!
また会えるなんて……。
彼はかごを指さして「百合を摘むためにこんなところまで?」と微笑んだ。
「はい。本当はもう少し遠くまで行くつもりだったんですけど」
「遠くって」
「この先の湖まで」
「何しに?」
予定なんてない。
あなたに会えればと、ぼんやり思っていただけ。
「また逢えたらって思ってた」
「……私に? 嬉しいよ」
この人の微笑みはまるで魔法だ。何も言えなくなる。
サァ……と雨が、風に乗って降り始めた。
「大変だ、リリー、こっちへ」
「えっ、あっ、はい!」
ぎゅっと手を握られ走り出す。
あたし、今、手をつないでもらってる……。
たどり着いた先は、彼の城だった。
だいぶ古い城らしく、壁はところどころ崩れていた。
ギィィーと、鉄の扉を開けて駆け込む。
大広間の先の階段が左右に二つ。
二人とも髪も服もびしょびしょに濡れてしまっている。
「ごめんね」
「えっ」
白い肌に、アメジストのイヤリング。
同じ色の瞳がすぐそばにある。
「さらってきちゃった」
あたしは。
目をそらせずに、立ち尽くした。
かごから、一輪、百合の花が落ちた。
音もたてずに。




