(1)アルフレッド男爵、始動。
「た、大変だぁ~、お館様が、お館様がやられた〜っ!!」
領内に出る魔物の数を減らすべく、配下の者達と狩りに出ていた領主ジェイドが重傷を負い、館に担ぎ込まれてきた。
「〜〜っッ!?」
「あ、あなた〜っ!?しっかりして〜っ!?」
「お、お父様っ!? いやぁ~っっ!!」
「……ひっ!? だ、旦那様っ……」
「リナっ!早く薬草と治療道具を持ってきてっ!!」
「……っ!? は、はいっ!!」
バタバタバタバタ……
「ち、父上っ、もう大丈夫ですっ! すぐに治療致します。もう少しの辛抱です! お気を確かにっ!!」
アルフレッドの問いかけに、薄っすらと目を開けたジェイドは、かなり苦しそうだ。
「……はぁはぁっ……くそっ、赤毛斬牙熊が出るなんて……はぁはぁっ……」
「赤毛斬牙熊?」
「……っく……ああ、斬牙熊の突然変異種だ。ヤツはとてつもなく強い……はぁはぁ……矢でも剣でも槍でも……一切、傷を負わせる事が出来なかった……グッ……その上、あの牙はこちらの盾も鎧も一撃でズタズタにしちま……まさにバケモノだ⋯⋯」
館内がシーンとなった……。
「……はぁはぁっ……あ、アルフレッド」
「は、はいっ!」
「……はぁはぁっ……あのバケモノには近づくな……それから、この傷だ……私は今後、きっともう今までの様には動けないだろう。だから、アルフレッドよ、これからはアルフレッドが領主として私の代わりに領地の事を頼む……」
「……ッ!? そ、そんなっ!!」
「……はぁはぁっ……なぁに、アルフレッドなら大丈夫だ。きっと上手くやれるさ。だから、やりたい様にやりなさい……はぁはぁ……あとは頼んだぞ……はぁはぁ……」
ジェイドは、辛そうにしながらも手を伸ばして、アルフレッドの頭を優しくなでた。
こうして、心の準備も何もなく、アルフレッド・リンドロットは成人したばかりの弱冠15歳にして、突然領主に就任する事になった。
はぁ……突然領主と言われてもなぁ……
とりあえず、早急に出来る事として赤毛斬牙熊が出た辺りは当面立ち入り禁止にし、村の人達には近寄らないように徹底した。また、見回りを強化して、見つけた際には急いで声かけをして逃げるよう指示を出した。
国王宛に、状況の説明と男爵家当主交代と引き継ぎの書状を送った。
正式には、引き継ぎ了承の連絡が来るか、王城に呼び出されて叙任式を行ってから当主交代となるが、まあ間違いなく引き継ぎは了承されるだろう。
叙任式にしても、こんな辺境の外れにある小さな領地の事で、わざわざ王城まで呼び出すほど暇ではないだろうから、多分使者による書状のやり取りで終わるはずだ。
……改めて状況を整理してみた。
ここ、リンドロット男爵領は四方を山に囲まれた人口100人にも満たない小さなリンドロット村ひとつだけの領地だ。
さらに周囲を高い山々に囲まれているせいで太陽が遮られ、1日の日照時間は僅かに5時間程度しかない。
その為、土地は常にジメジメとしていてカビや苔がすぐに生えるような場所だ。
作物もまともに育たない上に、悪い事に魔物はそこいら中を闊歩している。
こんな状況では、当然領地は貧しい。
食べ物は、僅かな作物と山から採れる山菜や木の実や果物、狩りで採れる獲物がほとんどだ。
毎年、どうやってその年の冬を乗り越えるかに頭を悩ませヒヤヒヤしながら生活している様な有様だ。
領地を囲む木製の柵もボロボロで頼りない。建物も脆弱だ……
領地の中で1番大きい領主の館であるわが家でさえもとても小さな建物で、そこに家族4人とメイド1人の5人で暮らしている。
父、ジェイド・リンドロット40歳。
リンドロット男爵領元当主。
母、マーガレット・リンドロット33歳。
リンドロット領と同じく、この国フラムフォルド王国西部の辺境にあるフォレスター子爵家の三女。
妹、ミーシア・リンドロット8歳。
次男、三男が続けて幼い頃に流行病で亡くなってしまい、ようやく生まれた女の子。家族揃って可愛がっており、家族のマスコット的存在。領内でもリンドロットの天使として有名。
リナ 16歳。
リンドロット領の村娘。リンドロット家にメイドとして住込みで働いているアルフレッドの幼馴染。ストロベリーブロンドの髪をツインテールにしているのがチャームポイント。あどけない顔に似合わない大きな胸がぽよんぽよんと揺れるのを見るのが、アルフレッドの密かな楽しみになっている。
……いや、胸の事は今言わなくても良いよねッ!!
そりゃあ、楽しみですけどっ!!
健全な15歳の男子だったら、誰だってぽよんぽよん見るよねっ!見るでしょっ!!
…………オホン。
現状、わが家でもこの5人で食べていくのが精一杯という状況だ。
村の中で狩りのできる者は老若男女合わせて約30人。人口の割に動ける人数が多く感じるが、実際は若者達が冒険者になると言ってこの村を出て行ってしまう事が多く、高齢化が進んでいて大物狩りなどはあまり期待出来そうにない。
だからと言って、産業になる様な物も特に見当たらない。
何より、交易をするにしても隣のリーゲル子爵領の端にある小さな村、フルール村まで行くのに、山あいを抜けて3日がかりだ。
さらにそこからリーゲル領の領都グランリゲルまで行くのに徒歩でまた3日かかる。
そこまでの道のりには、魔獣や盗賊も出る。
そりゃあ出るよねってほど、普通に出る。
でも、そこまで行かないと商業ギルドもないし、まともな商いができる場所もない。
さらに他の村や町に行くにしても、ここを通らなければ抜けられる道が他にはない。
「…………はぁ、詰んでるよな……これは……」
「……ふぅ〜……しょうがないか。これはちょっと、遠慮している場合じゃないよね」
アルフレッドには、前世の日本人だった時の記憶があった。読み漁ったラノベの知識があった。
悪目立ちしてしまうと、下手をするとこの国に捕まり一生奴隷として飼殺しにされる可能性がある為に、ずっと大人しくしていたのだが、そうも言ってられない状況になってしまった。
「よし。そうと決まればさっそく動かないとね」
そう言って部屋を出た。




