プロローグ
「ねえねえ、吸血霊鬼って知ってる?」
「あーアレ? 幽霊みたいにふわふわ浮いて、ガブっと血を吸うんでしょ?」
「もー、いつまでそんなおとぎ話みたいな説明してんの~? 今じゃ別に珍しく……はあるかもだけど、そんな怖いのは一握りだよ」
「そーなの?」
「街中で素直に血を下さいって言ったり、人間と仲良くなって飲ませて貰ったり。今じゃ普通に生活してるんだから」
「うーん、でもどちらにせよ痛そうだよねぇ」
「大丈夫! ゆっくり準備すれば全然痛くないから!」
「うん? なんかやけに詳しくない?」
「……ところで話は変わるんだけどさ、私達ってもう仲良いよね?」
「もちろん! 一番の親友なんだから!」
「よかった~、私と同じ気持ちだったんだ……それでさ、お願いがあるんだけど」
「へ!? ちょ、ちょっと近!! っていうかまつげ長いし肌綺麗で……」
「大丈夫……言ったでしょ? ゆっくり準備すれば痛くないんだから……」
「っ…………ま、まさかお願いって……」
『……あなたの血、ちょ~っと分けてくれない♪』
「はわわ……」
リビングでソファーに腰を掛け、クッションを抱きしめながら食い入る様にテレビを凝視しているピンク色の頭。
見慣れた光景に小さくため息をつきながら、両手に持っていたジュースの缶を片方その頬に押し付ける。
「レイ、また吸血霊鬼モノのラブコメ見てんのか。よくもまあ飽きもせず……」
「あっ! カイト〜!」
俺の声に反応してこちらへ振り向いたレイは、頬に触れたジュースに驚きもせず、にこやかにそれを受け取った。
面白く無いので眉をひそめながら俺も手元にある缶の封を開け口に運ぶ。
「飽きないよ〜? だって何度観たって憧れちゃうもん♪」
「そうかよ」
こいつが何を好きでも文句があるわけじゃ無いが、こうも似た様なものばかり観ていたら気にもなる。
無論ラブコメに憧れるのもこいつの勝手なのだが。
「だ・か・ら!」
「ん? おわっ!?」
一瞬目を離した隙に、ソファーから立ち上がって俺目掛けて飛び掛かり、床に押し倒してきやがった。
俺より身長があるんだから少しは相手を気遣えという願いは、残念ながら過去一回も届いた事はない。
ここから毎回行われるレイの奇行に対しても。
「今日もカイトの血、ちょーだい♪」
「はぁ…………」
捕食される事が確定した生き物は、全てを諦めて天を仰ぐ事しか出来ない。
レイと共に暮らす様になって学んだ心構えのひとつだ。
「いただきまーす♪」
ガジガジと肩を噛まれながら、どうして俺の生活はこうなってしまったのだと物思いに耽っていた。




