君から告白したんだよね?
「私はあなたのことが好きです。結婚を前提に付き合ってください」
夜の喫茶店。突然の告白だった。
……いや、突然は言いすぎか。以前から、部下である彼女が俺に好意的な態度を示していたことには、うすうす気づいていた。
でもまさか本当にこんな展開になるなんて。ひと回りも年の離れたおっさんに、こんな若い子が。
正気か?
「……ちょっと待ってくれないか。結婚とか、今すぐには考えられないし、少し時間を……」
今まで仕事一筋で、女性と全く縁のなかったこの人生。夢でも見ているみたいで信じられなくて、すぐに「はい」とは言えなかった。
しかもいきなり結婚なんて。流石にちょっと気が早すぎないか。いつも仕事が早くて助かるけれど。
なにもこんなおっさんを相手にしなくても――
「いえ、あなたにその気がないなら、私はここで諦めます。急に変なこと言ってすみませんでした」
「えっ!?」
彼女の声は覚悟に満ちていた。俺は即座に直感する。これは駆け引きではない。
本気だ、この子。
「ま、待て待て待て。そんな、結婚するかしないか、この場ですぐ決められる話でもないだろう? やっぱりまずは、恋人として付き合いを始めてから……」
立ち上がりかけた彼女をどうにか引き留める。
とにかく必死だった。大きな魚が懐に飛び込んできたと思ったら、俺が掴む間もなくするりと離れていこうとするものだから。
年の差とか気にしてる場合じゃねえ!
「私はあなたと結婚したいんです。でもあなたがそれを求めてないなら、付き合う意味はありません。無理強いするのも嫌ですし」
なんて頑固で極端なやつなんだ!
世の中そんなゼロか百かで決められるもんじゃないだろう!
いや、今はそんなことどうでもいい。なんとかして彼女を説得しなければ。
絶対にこの機を逃してはいけないと、脳内で警報が大きく鳴り響いている。
俺の非モテ人生でこんなチャンス、もう二度と訪れることはないだろう。ここで終わるわけにはいかないんだ。
「とりあえず、落ち着いて考えてみよう。ほら、俺たちはいつも職場とか……最近はプライベートでもちょこちょこ会ってるけどさ、まだお互いをよく知ってるわけじゃないでしょ」
慌てるなよ、俺。
彼女は怪訝そうな顔で俺の話に耳を傾けている。
勝機はどこかにあるはずだ、多分。
なんで俺はこんなに追い詰められてるんだ。
「もちろん、最終的には結婚も考えるとして……お付き合いはその一段階目。そこから互いの理解を深め合って、将来どうするかを決めていくのがいいんじゃないかなと、俺は思うんだ」
俺にしては、なんかいい感じに話を持っていけてるんじゃないか?
どうだ、これで考えを改めてくれるか……!?
「……あなたは、私のことを好きだと思っているんでしょうか? もし、好きではないけど断るのも悪いからという理由なら、私は付き合いたくありません」
手強すぎるだろコイツ。
「それをはっきり言えないのは、ごめん。でも、そういう同情とかじゃないんだ。俺は君のことをもっと知りたいから、付き合いたい。それじゃ、駄目かな……?」
ここでビシッと「好きだ」と言えない自分が情けない。
でも、それでも、何故だか彼女を逃がすことだけはしたくなかった。キープとも違う。この感情は、一体なんなんだ。
必死の思いで彼女を見つめる。その表情には、わずかに揺らぎが見えた。
「……うぅん、まあ、そこまで言うなら……」
こ、この反応は……っ!
「とりあえず、あなたの言うとおり……まずは付き合ってみるのも、いいかもしれませんね」
ぃよっしゃああああ!!
俺はガッツポーズしたい衝動を抑えて、努めて冷静に振る舞った。
「ありがとう。俺も、君との関係を真剣に考えたいと思ってるから。これから、よろしくね」
右手を前に差し出すと、彼女はおずおずと俺の手をゆるく握った。
わっ、女の子の手だ。滑らかで柔らかい。
「……よろしく、お願いします」
なんだか彼女はまだ少し不服そうだったが、とにかくこれで恋人関係は無事成立した。ひとまず、一次面接に合格といったところだろう。
あとはこの手を離されないように頑張ろう。
こうして俺は、不意に訪れた千載一遇のチャンスを見事に掴み取ったのであった。めでたしめでたし。
……ところで、俺が彼女に告白された側なんだよな。
なんかおかしくない?




