21話 ドラゴニュートの峡谷
読者の皆さん2週間ぶりです。
先週は忙しくて投稿できませんでした。すみません
「マグヌスも連れて行ってください」
「え、ぇぇえええ!!」
マグヌスの驚愕の叫びが魔王城に響く。
「それはできない。ワタシはオリビア魔王国の外交官だ。そのワタシがこの国を離れるわけにはいかない」
「それは心配いりません」
「どういうことだ?」
マグヌスは首を傾け、オリビアは口元に微笑を浮かべ、優しげな表情を作りながら言う。
「あなたは本日を以って外交官を解任しますので」
「えっ、…………。だって……、そんな、じょ、冗談、だよな。あははは、嫌だなそんな冗談笑えないぞ魔王様」
「いいえ、冗談ではありませんよ」
オリビアは優しげな表情を崩さずに無情に言った。
すがるような目でオリビアを見ているマグヌスが可哀想に思えてきた夜はオリビアにその理由を尋ねる。
「えっと、オリビア」
「なんですか? ヨルさん」
「なんで、マグヌスも一緒に連れて行け。なんて言うんだ?」
「それはヨルさんに魔法剣を習得できるようにですよ。
あなたはこの一ヶ月、魔法剣が使えるようになるように魔力操作を鍛えたと聞いています。習得したくありませんか? 魔法剣」
「確かに使えるようになりたいが、無理に同行させることはないんじゃないか?」
マグヌスは夜の言葉にうんうんと頷いて見せる。
「マグヌスは戦闘力と魔力操作はわたくしたち魔族の中では右に並ぶ者はいません。
ヨルさんでしたらすぐに習得できるようになると思います。それに、実力が近い者同士だと模擬戦なども楽しめますよ」
「お、おお。それは魅力的だ。マグヌス、やっぱり一緒に来てくれないか?」
オリビアの提案に夜の意見が傾いたことで、マグヌスはガックリと項垂れる。
「ほら、ヨルさんもそう言っていることですし、マグヌスも観念してついていきなさい」
「し、しかし」
「マグヌスさん!」
納得していないマグヌスにジネヴラが元気な声で呼ぶ。
「ジネヴラもマグヌスさんともっと一緒にいろんなところに行きたいです」
「私からもお願いします。道中に剣術と魔力操作も教わりたいです。どうか一緒に来てください」
ジネヴラがウルウルさせた双眸で見つめ、それ続いて、イリーナも頭を下げる。
ジネヴラの方は断られた瞬間に泣き出しそうなほど涙をためている。
二人の必死の懇願にマグヌスも断りきれずに「うぅ…………」
と唸ってから、両目を瞑り、諦めたような表情でため息を吐く。
「わかった。これからよろしく頼む」
「あ、こっちこそよろしく。なんか、悪いな……」
「マグヌス」
と、マグヌスは夜と少し話してから馬車に乗ろうと足を掛けるところでオリビアに呼びかけられる。
「旅に必要なものはわたくしと共有している亜空間に入れておきました。後で確認しておきなさい。
それと、楽しんできなさい。貴女昔言っていたでしょう。強くなって色々なところへ行ってみたいと」
「なっ、それはワタシがまだ子供だったときに言ったことではないか。今更過去を掘り起こすな」
マグヌスは羞恥に赤面し、両手を左右にちぎれそうな速度で振る。
丁度そのタイミングで夜が握る転移石が眩く発行し、真下の地面に魔方陣が展開されると馬車は一瞬で消えた。
空気中には魔力粒子が寂しく漂っている。
「行ってしまいましたか」
オリビアは感慨深そうに言い、「ふっ」と短く息を吐く。
(今まで楽しかった分別れてしまうのは少し寂しいですね)
「さて、いつマグヌスが戻って来ても大丈夫なようにしておきましょう」
誰に言うでもなくそう呟いたオリビアは城へ戻った。
△▼△▼△
転移石で魔王城から発ち、荷台に座る女性陣――いつの間にか荷台に移動したアスも含める――は楽しそうにガールズトークをしている。
(この様子だとマグヌスもすぐに馴染めそうだな)
今現在、夜たちが乗っている馬車は麓の山道を進んでいる。
山道といっても整備されたものではなく、ところどころ凹凸や木の枝が落ちているようなけもの道だ。
ガタガタと揺れ、時折車体が跳ね上がる。
数時間前からこの状態だ。
そのことに馬車を操縦している夜は少々不愉快な面持ちでいる。
「しっかし、なんでこんな道が悪いんだ!」
凹凸が激しいけもの道に夜は語気を強くして言う。
「ドラゴニュートの峡谷には誰も立ち入ろうと思う人たちはいませんから、それはしかたないです」
「なんでですか?」
イリーナが理由を説明すると、ジネヴラは可愛らしく首を傾げて不思議そうな表情で訊く。
「今私たちが通っているこの山道付近には、一小隊でやっと相手にすることができるくらいの非常に危険な魔獣が多いと言われているからです。
今は魔物除けの護符をヨル様が持っているので見かけませんけれど」
手綱を握る夜の左手首には巾着袋がぶら下がっている。
「なるほど、確かに自ら危険なところに行こうと思うような人間はいないな。どこぞの誰かは除いて」
マグヌスは納得したようにこくこくと頷いて言い、不敵な笑みを浮かべて操縦席を見やる。
するとどこかつぼに入ったのか四人の少女――二人ほど外見年齢だけ――たちの楽しそうな笑い声が夜の耳に入る。
「そのどこぞの誰かってのは俺のことだろうな。まあ、話の内容は置いといて楽しそうでなによりだ」
夜は誰かに言うでもなくぼそりと呟く。
「――っ!」
夜は突然何かを察知したようにピクリと動く。
夜を中心とした半径一キロメートルの魔力の索敵圏内に何か異物が入り込んだのだ。
「どうしたのだ、ヨル。なにか気になるものでも見つけたか?」
夜の様子に逸早く気づいたアスは荷台からヨルの隣の操縦席に顕現した。
「ああ、進行方向に何か引っ掛かったんだが、それが妙だ。生き物にしては魔力の質がおかしい」
「そうか。ではドラゴニュートの峡谷はこの当たりで間違いないだろう」
そう言って微笑を浮かべていることから本当らしい。
だが、周りを見渡す限り十メートルはありそうな高い木々が見えるだけだ。
だからアスが言ったことに俄かだが、夜は不思議に思った。
「アス、本当に――」
「あっ。ジネヴラの故郷に近いです」
夜が言い終える前に、ジネヴラは夜とアスの身体の間に身を乗り出して弾んだ声音で言っている。
「――――本人がそう言っているんだし、そうなんだな……」
「なんだ? 我の言ったことが信じられなかったのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
「ふふ、冗談だ」
夜が狼狽える様子にアスは目を細め、綻んだ口元に手の甲を当てて隠している。
「それでどうやってそこへ行くんだ?」
「う~ん。ちょっと行ってくるです」
「一人で大丈夫ですか、ジネヴラちゃん」
「大丈夫です」
イリーナの心配する声を背にジネヴラは馬車から飛び降りて地面に着地すると【身体強化】で強化された脚力で地面を蹴った。
【身体強化】で勢いよく結界の前まで距離を縮めたジネヴラはそこで急ブレーキを掛けて勢いを止めた。
それに遅れて夜たちも追いつく。
「ちょっと待っててほしいです」
夜たちに、にこりと子供らしい笑みを向けると、ジネヴラの足元に魔方陣が現れて消えた。
△▼△▼△ ――ジネヴラside
結界を越えたジネヴラの目の前には、神秘的な景色が広がっている。
普通に生活していれば絶対に見ることはできないほどだ。
辺りに絶えず反響させる滝が落ちる力強い音。
陸地を左右に分けるように流れる天色の川。
左右の陸地の両端には軽く五十メートルは超えていそうなほどのV次谷が聳え立ち、果てがないように向こう側へ続いている。
見渡した先には周りと比べて飛び抜けた高さの谷が存在を主張している。
その頂上から怒涛の勢いで流れ落ちる滝は、途中で階段状の岩肌にぶつかって水流を分岐させるも勢いを緩めない。
眺める角度によって差し込む日差しを屈折させて虹を作り出している。
「わぁああ――」
ジネヴラは目に涙を浮かべて感嘆の声を漏らす。
この幻想的な風景を目にしたことで、久々に故郷へ帰ってきたと実感できたからだ。
「何者だ!!」
突然、ジネヴラの頭上から何者かの声が響く。
その声にジネヴラはびくりと身体を震わせ、頭上を仰ぎ見る。
急降下する複数の影を捉えた途端、次ぎの瞬間にはジネヴラを威圧するように地響きをさせ、目の前に着地する。
全員が背中から生やした二枚一対の大きな翼と長い尾を持っている。
さらにほとんどが二メートル以上の背丈を持っている。
龍人だ。
警戒心からか全員が濃い殺気を放っている。
その殺気に当てられたジネヴラは「……ひっ」と声を漏らし、突然目の前に現れた龍人族たちに怯えて足を竦ませていた。
「ここは我等、龍人族の絶対不可侵の領域だ! 即刻立ち去れ!
それが聞けぬのならば戦闘部隊隊長であるこの『煉獄』のムスプルヘイムが相手をしてやる!」
「――ひっ……。じ、ジネヴラは……」
赤い龍鱗が特徴のムスプルヘイムは、目の前の少女を見据える。
足を竦ませて目に涙を溜めて震えるジネヴラに戦意がこれっぽっちも感じられない。
それによく見ると耳の近くに角が生えている。
「うん? 誰かと思って威圧していたが同種だったみてえだな。お譲ちゃん、すまなかったな。
おい、てめえらー! こいつは敵じゃねえ。仲間だ」
ムスプルヘイムがなるべく優しい声音で言いながら、ジネヴラの頭を一撫でする。
最後ににこりと笑いかけた後、後方に控える仲間たちに、野太い良く通る声で害が無いことを伝えた。
それを聞いた皆は、殺気を解いて「そうだったかー」や「てっきり人間たちが攻めて来たかと思ったぜぇ」と口々の安堵の表情を浮かべて言っている。
その中で男たちの間をかき分けて進む女がいる。
その女はジネヴラを視界に納めると、肩がぶつかるのも気にもせずに人ごみから強引に最前列まで突っ切った。
百八十センチ代のすらりとした長身に引き締まった体躯。それに吊り合うように自己主張している大きな胸。
ジネヴラと同じプラチナブロンド色の髪をベリーショートにし、エメラルドグリーン色の双眸。
全体的にジネヴラが成長すればこんな感じになるだろうといったような容姿だ。
その女がジネヴラの眼前に直立する。
ジネヴラは「うん?」と未だに涙目のまま長身の女を見上げる。
目が合った途端、
「――っジネヴラ!」
若干、涙声が混じった震えた声を発するとひしりとジネヴラに抱きついた。
「ああ゛、ジネヴラ無事でよがっだ! よく帰って来た!」
「お姉ちゃんっ――!」
姉と呼ばれた女は、抱擁する腕に更に力を込める。今度こそ絶対に離さないという意思が伝わるほどに。
二人の龍人の姉妹は再会を大粒の涙を流して喜んだ。
それを後方で見守っていたムスプルヘイムの部隊の隊員たちも、「よく帰ってきた」と号泣する者も少なくなかった。
△▼△▼△
「遅いな」
夜がポツリと呟き、アスが微笑を浮かべてそれにこたえるように言う。
後ろの二人は待ちくたびれて互いの肩にもたれかかって眠っている。
「彼此三十分以上は経っている。そろそろ来てもいいくらいだ」
「そう焦るでない、ヨル。久々の再開に歓喜しているのであろう。もう少し気長に待つがいい」
「……そうだな」
「退屈そうな顔をするでない。その端正な顔立ちが歪んでしまうぞ」
アスはそう言うと、人差し指で夜の眉間をぐりぐりと押す。
少々くすぐったいとも言えない違和感があるが気にするほどではない。
夜が何も言わずにされるがままでいると、アスはぐりぐりと押す力をさらに強める。
アスの表情が、だんだんイタズラをしている子供のようになる。
ぐにぐにと眉間の皮膚を上下に押され、夜は「うーん」と苦しげに唸ってアスの方へ向く。
「わざわざアスからこんなことしてくるってことは、アスも退屈だと思ってきているんじゃないのか?」
「ふむ、そうだな。では少し話そうか」
アスが少し考え込むしぐさをすると、思いついたように顔を上げる。
夜もそれに頷いて同意を示す。
「龍人族ってどんな種族なんだ?」
「そ奴らは最強の種族と呼ばれている」
「最強、か」
夜は戦闘中のような真剣な表情でぽつりと復唱する。
左手は腰に差す刀の柄に手を掛けて爪でコツコツと叩く。
その様子が戦ってみたいと言っているようなものだ。
「人間以上の体格を持っている上、それに見合う身体能力がある。
今の夜だと……まあ、【身体強化】で魔力を限界まで循環させていい勝負になる。といったところだ」
「そんなに強いのか」
「ああ、ヨルとは育った環境が違うからな。だがそれは身体能力に限った話だ」
「まだあるのか!?」
夜は驚愕し、いつもより大きな声が出る。
「他にもまだあるぞ。【龍魔法】とか――っと、どうやら結界が開いたようだ」
アスが言葉を続けようとしたところで、正面の結界が馬車一台分だけ解かれた。
そこからジネヴラがひょこっと顔を出し、
「ヨルさん。入ってくるです」
と可愛らしく手招きしている。
「じゃあ、行くか」
夜は馬車の手綱を握り直し、結界の内側へ足を踏み入れた。
読んでくださりありがとうございます。
誤字、脱字や気になるところがございましたら気軽にご指摘ください。
近いうちにプロローグの改稿と登場人物紹介を書こうと思います。
読んで頂けるとうれしいです。




