神さま、疑われる。
ご覧下さりありがとうございます。
評価ボタン押して下さった方、ありがとうございます。
満点頂けるよう、頑張りますね……!
消える時も心臓に悪ければ、現れる時も心臓に悪い。
音も気配も、霊力の動きすらも、一切の前置きなく、突如目の前に人の姿が出現した。
まるで手品のように、パッと出てきたのだ。
ステルス機能付きの透明化するマントを使うと、周りからはこんな感じに見えるのかな?
隠密行動を取りたい時に、有効利用が出来そうだ。
方陣をメモしておいて良かった。
驚いたのは、セリアの他にもう一人、その場に現れたからだ。
しかも、女性が。
代表者を連れてくる可能性はモチロン考えていたが、まさか女性を連れて来るとは……
なにせこの世界は、男尊女卑がナチュラルに行われる。
集落の代表と言えば、男性なのが当たり前。
役割分担がキッパリ別れているため、男性の仕事の範疇における失敗の責任を、女性に押し付けないのは好感が持てるが。
イヤ、当然の事なんだけどさ。
内助の功が足りないせいだとか言って、八つ当たりをする根性がひん曲がったヤツも居るじゃない。
ソレはこの世界において、無いんだよね。
大人の男性が軒並み病に倒れていたとして、その際の代役は基本大人の女性ではなく、年長者の男の子が選ばれる。
そんな中で、セリアが連れて来たのが、女性なのだ。
驚くのも仕方がないだろう?
外見年齢は二十代中頃から後半。
背は俺よりも若干低い程度。
俺が約一七〇cmだから、女性にしては高い方かな。
偉そうに片手を腰に手を当て、ふんぞり返っている。
だが外見のせいで、怖くはない。
見た目にあまり、頓着がないようなのだ。
ダルマストーブのような、ずんぐりむっくりとしたフォルムになるまで服を重ね着していて、元の体型が分からなくなっている。
寒がりにも程があるな。
なんというか、こういうゆるキャラが居そうだよな、と思うと睨まれているのに、笑えてきてしまう。
風になびかせる引詰め髪は、雪焼けしてソバカスだらけの荒れた肌とは不釣り合いな程に、丁寧に手入れがされている。
だが、ただ単に切るのが億劫なだけでは?と勘繰りたくなる程に長い。
不衛生に見えないのが救いだな。
赤味が強めの黒髪に、緑が混ざった茶色い瞳。
……なんか、どっかで見た事がある色合いなんだよな。
見た事がある顔とは言えないのだが、なんか、微妙に脳内でヒットしそうな人物がいる気がしなくもない。
女性がセリアと俺達の間にズズいと出て、俺とカノンを鋭い目付きで交互に見る。
「どっちが、自称‘’賢者‘’?」
あぁ、敵意すら感じる振る舞いをしているのは、来訪者が賢者を名乗る不届き者かもと、警戒をしているからなのか。
セリアの恩人だからと言って手放しに集落に招き入れず、慎重に人となりを観察しようとしているんだな。
正直この世界って学校が無いのもあって、学が無い人、つまり思考を放棄している人が多い。
だから口八丁で、すぐに騙せそうな感じの人が多いんだよね。
疑念を抱く人はたまにいても、舌先三寸ですぐに丸め込める。
人を疑う事を知らない人が多いのだ。
それで問題無く暮らせるくらい、善人が多い。
なのでこういう、端から疑惑の眼差しを向けられるのが、なんだかとっても新鮮な反応に思える。
騙すつもりは毛頭ない。
ただ……楽に入村許可が降りるようにと角骸鯨の角の欠片を渡したのは、逆効果だったかも。
何も疑わず、目先の利益に飛び付いて、喜んで招き入れてくれると予想していたのに。
こういう人が居るとなると、やりにくい。
なにせ角骸鯨の角の欠片は、ソコソコ貴重品だ。
そんなモノを、子供などという行動に責任を持たない相手に簡単に渡してしまうような人物とは、一体どんなヤツか。
それは価値を理解していない愚か者、もしくは角骸鯨を屠れる程の実力者の、どちらかに絞られる。
‘’賢者‘’を自称するくらいだ。
前者は無い。
つまり強大な力を持った危険人物が村を訪ねてきたのだぞ、と言っているようなものである。
‘’賢者‘’の真偽が不確かな以上、自ら危険人物だと名乗る頭がイカれた野郎が来たと警戒するのは、至極当然の流れなのだ。
角骸鯨は繁殖時期になると、オス一匹に対してメスが三〜一〇程度のハーレム状態な群れで行動をする。
妊娠するとそのメスは群れから離れ、一人安全な土地を探して歩き回る。
出産する場所を探す道中、額から生える立派な角を使って、獲物を串刺しにしておく。
沢山獲れれば問題なし。
そうじゃない場合がほとんどなのだが。
その数少ない串刺しにした獲物をエサにして、他の魔物が釣られて近付いて来るのを待つ。
百舌鳥の速贄みたいなものかな。
近付いて来た魔物を食らいながら、大人しく出産の時を待つ。
いよいよ出産間近となると、近寄ってきた魔物を狩ることが難しくなる。
腹の中の子が大きくて、動けなくなるからね。
その時に、角骸鯨の角は折れる。
狩りが出来ないのだ。
速贄を刺しておく理由が、そもそも無くなる。
角の維持はなかなかにエネルギーを消耗するようだからね。
時期が来ると、根元からポッキリとキレイに折れる。
刺さっていた速贄を食べた後は、蓄えた分厚い脂肪を消耗するのみ。
子が生まれると、大抵のメスはその生涯を終える。
そして子の養分となる。
自然と折れた角骸鯨の角は、断面が非常に滑らかだ。
一本丸々、強度もあるためキレイにその場に残される。
切り離され魔力の供給が無くなり、二、三日もすれば、形状を維持出来なくなり、次第に風化する。
なので自然に還る途中の角以外は、一本丸ごと採取されるのが常識となる。
角の欠片は、加工をした後か、生きている角骸鯨を相手にしなければ手に入れようがない。
硬いから加工するのも、なかなか大変だからね。
貴重な素材だもの。
見付けたら、なるべく多く持ち帰りたいと思うのが、人の性だ。
だいたい一本あたりの角骸鯨の角の重さは、一〇kg程かな。
女性でも根性を出せば持てる重さだよね。
わざわざ苦労して砕いて半分に折って片手に五kgずつ抱えて持って帰るよりも、一本両手で抱えて持ち歩いた方が良いでしょ。
砕く時に、量が減るもの。
少しでも多く手元に残したいじゃない。
魔力の供給が無くなれば風化する特性があるため、角骸鯨の角は早めに聖水に漬け込み、浸透している魔力を霊力に置き換える必要がある。
置き換えさえ完了すれば、ヒトの生息域は霊力が多いので、分解される心配が要らなくなる。
俺がセリアに渡したのは、その置換作業をする前の欠片だ。
薬一人前が作れる程度の量の欠片を指定して、四次元ポシェットから取り出した。
鑑定眼で視はしたけれど、慣れているカノンから、処理の仕方を聞きながら作業をした方が建設的だと思ったのだ。
普通のやり方ではなく、数をこなしている職人特有の処置の仕方があるかもしれないじゃない。
三日三晩、定期的に聖水を交換しながら漬け込まなくても、霊力の塊をブチ込めば良いみたいな、時短テクニックがあるかもじゃないか。
だから後回しにした。
……してしまった。
そのせいで、セリアに渡した欠片が、獲り立てホヤホヤだと、見る人が見れば分かってしまう。
きっとこの女性は、分かる人だろう。
そんな細かいことを気にするヤツなんて居ないだろうと、タカをくくってた。
ウッカリはなるべくしないようにと思って、気を付けていたのに。
手を抜いてしまった時に限って、こういう事って往々にして起こるよね。
なんてこったい。




