神さま、鬱屈する。
結論から言おう。
樹化病は原因不明の感染症では無い。
肉体が魔物に収奪された、捕食寄生の一種である。
捕食寄生と断言が出来ないんだよね。
捕食寄生は寄生者が宿主を必ず殺してしまうため、少々意味が違うのだ。
地球の定義を異世界に持ち込む事自体、ナンセンスだろうが。
この魔物もハチやハエのように、寄生者が成熟したら、確実に宿主を食い尽くしてしまう。
だが瑞基達の話によれば、途中で寄生者側が力尽きて死ぬパターンもあるようだ。
なので捕食寄生の一種、と少々ボカさせて貰った。
過去に見た植物型の魔物――魔木とは違い、元々ただの樹木としてそこら辺に生えていた木々が、瘴気の影響で魔物化したものとは違う。
どちらかと言うと、禄桜に性質が似ているのかな。
アレも魔物だし。
禄桜は寄生した樹木に近付いてきた、魔物やヒトの神経を乗っ取りつつ毒殺し、宿主の養分にする、共生タイプだったけれど。
花粉のような細かい自分の分身を振り撒いて、ターゲットの鼻から侵入して、脳神経をジャックする。
宿主である樹木の養分になりやすいよう、体内から生きたまま腐らせていくのが特徴だ。
余程宿主の近くで寄生されない限り、獲物は途中で力尽きる。
臓腑が腐って生きていられる生物は、そうそういないからね。
もしそうなったとしても、神経を乗っ取っているので、ある程度の時間なら、離れた場所にいても、宿主の元まで連れてこられる。
離れた所で放置したとしても、その腐肉を漁るために近付いて来た他の魔物を、次の獲物にすれば良い。
結構賢い魔物と言える。
不謹慎と言われるかもしれないが、禄桜は獲物の神経を完全に乗っ取ると、それはそれは、見事な美しい花を咲かせるのだ。
思わず、見蕩れてしまうレベルの華々しい見た目をしている。
そうやって惚けている隙に分身を吸い込んでしまったら、次の獲物になってしまうんだけどね。
傍から見たら、花が咲き乱れたゾンビが徘徊しているように見えるよ。
綺麗と気持ち悪いの割合を考えると、若干後者が勝つ。
腐臭も酷いし。
今回樹化病とされた寄生物の正体は 粉媒楢という魔物になる。
なかなかヒトの心理を利用した、厄介な方向に進化した魔物だ。
見た目は、完全に木なんだもの。
この極寒な上太陽が登らない大陸では、樹木はかなり貴重な資源だ。
住居や家具に使わなくて良い分、地上で暮らす人達よりも需要は減るだろうが、燃料にしたり、食糧生産には消費される。
キノコ栽培とか、オガクズを土に混ぜ込んで栄養にしたりとか。
手放しで大切にする要素が最初から備わっている。
そして瑞基達がそうだったように、生前の思い入れがモノとして見る選択肢を選ばせない。
樹木になったとしても、切り落としたり焼かれたりされる事が、ほぼ無い。
元々人間だったのだから、万が一の時が来るまでは、利用し消耗する選択肢を取らない。
つまり殺される可能性が、限りなく低い。
寄生途中でも、甲斐甲斐しく世話をしてくれるし、感染を拡大させないためと、仲間を一箇所に集めてくれる。
雄株と雌株に別れているが、一箇所に集まれば受粉は容易い。
ホント、人間がいいように使われている。
話にあった芒の先端につくモノが種子なのかと思ったが、ソレはヒトに対する、撒き餌のようなものだ。
だから主食である、米や麦に似た形を取っている。
実は別にある。
花が咲いたら、雌株に毒々しい色の実がつくらしい。
本体から切り離されるが、クローンを作っているのではないから、差し木とは違うんだよな。
イヤ、芒の先に成るモノ自体は、寄生者のクローンなのだ。
だが寄生した途端、全く別の個体になるんだよね。
接ぎ木のイメージに近いのかな。
新品種が誕生し、病害を回避しやすくなるのだ。
つまり、手っ取り早く進化する事が可能になる。
今ここに並んでいる人達と、既に廊下で鉢植えにされている 粉媒楢では、付ける実が変わるらしい。
また寄生経路が増えている。
罹患しても樹木になる割合が減ったと、先程の説明で言っていたよな。
寄生経路が増えても尚、その結果が出ているとなると、 粉媒楢の進化速度よりも、ヒトの進化の方が早かったという事なのだろうか。
オプスクリス開拓村で勢力を広げている 粉媒楢は少なくとも、寛解率が高いようだ。
キチンと生物らしく、その上魔物らしく、短期間で目に見えて進化をしている。
なのにも関わらずヒトの方が強いとなると、ココが元々 粉媒楢にとって、繁殖がしにくい環境なのだろうか。
とりあえず寄生されないために必要な事は、芒に成るクローンを口にしない。
大量の花粉を吸わない。
実った果実を食べない。
樹液を傷口に付けない。
根で擦過傷を作らない。
これくらいかな。
実やクローンを口にしない限り、寄生される可能性は低い。
だが免疫が落ちていると、その他の侵入経路でも抵抗が出来ずに、寄生されやすい土壌が出来てしまう。
その積み重ねで、気付かないうちに肉体が蝕まれていく。
地球人の血が入っていると感染しにくいのは、 粉媒楢が魔物の一種だからなのだろう。
地球人が持つ、「スキル」を使うための体内エネルギーは、霊力に変換する時に膨大な量になる。
そして霊力は、瘴気や魔力を浄化してくれる。
瑞基の様子を見るに、彼女も他の地球人と同様、精霊術は使えないのだろう。
だが意識をして霊力を扱ったり、生命エネルギーを霊力に変換する事が出来なかったとしても、本能的に侵入者を撃退するため、無意識に行っていたのかもしれない。
昔に比べて罹患者や寛解者が増えたのも、単純な地球人の血が混ざった人口が増えたからなのかな。
もしくは、王都から霊力を増やすための、日々の食事改善の方法がコチラまで伝わって来ているのか。
流石にソレは無いか。
食事事情も見させて貰って、寄生されないための日常生活の改善案も提示するべきだろう。
栄養学はまだ一般化されていないけれど、王都発祥と言えば、ソコから来た俺達が知っていたとしても、何ら不思議ではないものね。
問題は、既に 粉媒楢の寄生が完了した個体を、どうやって処分させるかだよな。
魔物を飼っているようなものだもの。
手遅れになっている者も含め、一刻も早く外に出して処分するべきだ。
だがその判断は、部外者である俺だから言える事だ。
彼女達にとっては、かつて仲間や友人だった人達なのだから。
どう、伝えるべきだろうか……
セリアの両親が既に手遅れだった場合を考えると、気が重い。
‘’粉媒楢‘’と『もと神さまの魔物手帖』に出て来る‘’粉媒桾‘’は近似種になります。
というか、粉媒楢が進化して粉媒桾になります。
なので粉媒楢の方が、ちょっと設定が大人しめです。




