第1話 告白
放課後17時を過ぎたところ俺は武者震いする足を一つ一つ前へ進め、屋上へ向かっていた。
今日俺は惚れに惚れた女に
告白する。
相手は同じクラスのお淑やか系ギャル。相反しているように聞こえるが、これ以上ない表し方だ。
喋り方や仕草は完全に大人びてるが、
感性は最高のJK。
くるくるとしたロングの茶髪で、爪もツヤツヤ、笑い方も俺の嫌いなキャピキャピ系の甲高い声じゃなく、
うるさすぎなくて、なんというかクセになる。
あと、スカートも限界まで短い。
惚れた経緯は…なんて思いだしてる暇はない。俺は先に屋上へ行って、彼女を待つ。今日こそ、想いを伝える。
今日の昼休み、彼女が1人でいる時、それとなく時間と場所を伝えて、話があるから来て欲しいと話した。
「ん?おっけー」
彼女からの軽い返事が返ってきて、特に勘繰られずに誘うところまでは上手く行った。
手を振りながら去っていった彼女に、今日もまた
惚れ直した。
彼女は勘は鈍そうだが、しかし誰もいない屋上でわざわざ話される内容なんて、数分考えたら、告白だということも候補にはすぐ上がってしまうだろう。
だがそれでいい。
上手くいくだろうかと、そんな悩みは数分前まで、嫌というほど考えたが、
出した答えは、やってみなきゃわからないということだ。
俺はこの日、愛を叫ぶんだ。
そうしてたどり着いた屋上の扉のノブに、
震える手を置いた。
落ち着け。
まだ彼女はいないはず、まだ待ちの時間だ。とりあえず扉を開けよう。そうして大きく深呼吸し、
そして、一瞬の落ち着きが訪れたことを感じ、すかさず扉を勢いよく開けた。
バァン!
緊張を振り切るために強く開いた扉。の先に、
そこには天使がいた。
いや、天使のような尊く清らかな美少女がそこにいたとかではなく、本当に天使だ。
翼があって、輪っかもある。白い服で、浮いている。
それともう1人、クラスメイトの女子が立っていた。
それ以外は普通の屋上。おかしい。
なんだこの状況。
目の前にいるどちらも、俺が待つはずだった彼女ではない。
この時間の屋上には誰もいないはずだ。何日も確かめた。
ここを利用する部活はない。この寒い時期にわざわざ屋外でたむろしてる生徒もここ数日見たことはない。
どういうことだ?演劇部か?ミュージカル部か?
それとも彼女たちも告白じゃないのか?
謎の天使に関してはいきなり触れるのも怖いから、ひとまず手前にいるクラスメイトの女子に話しかけてみよう。
彼女とはクラスがほぼ一年間一緒だったのに初めて話すから少し緊張するが、まあ、つべこべ言ってられない。
「えっと、中野さんだよね?ここでなにしてるの?演劇部の練習とか?」
彼女の名前は中野…さんだ。おとなしめの子で、だが、オタクとかの系統とも言えないが、いや趣味とかは知らないけど。
えっとまあクラスに1人はいる感じの普通の子という印象だ。
「渡会くん、えっとね…」
彼女が俺の名前を言って、お互い初めての会話が成立しようとしたその瞬間、天使がこう言った。
「ジョブを選択してください」
ん?ジョブ?仕事ってことか?おいおいまだ高校在学中だぞ。アルバイトも未経験だ。資格もない。
今すぐつける職なんてどこにあるってんだよ。
そもそもつかなきゃいけないのかよ。
そんな疑問が浮かぶ間に、俺の目の前にゲームみたいな画面が現れた。RPGなんかでよく見るやつだ。
適当に触ってみると、そこには、戦士、僧侶、魔法使いという三つの選択肢がある。
俺は困惑しながも、好奇心にかられて試しに戦士を押してみる。すると、大剣、ハンマー、槍とか色んな武器が書かれている。
「役職と武器を選べってことか?」そう聞いてみる。
「ジョブを選択してください」
ん?それしか言わないのかよ。案内人として失格だな。
というか、なんで俺はこれを受け入れている?俺は何をさせられてるんだ?もうすぐ彼女がくる頃では?
他の女子もいるってなったら、ややこしいことになる。
彼女になんて説明すればいいんだ。
「これ、役職を宣言しないと、1分に一回くらい言われるよ。」
困惑する俺を見兼ねたのか、クラスメイトの中野さんが発言した。
なんだそれ、もう聞きたいこともわからないことも多すぎるが、さっさと済ませて、天使にも、中野さんにもどこかへ行ってもらおう。
適当に戦士か?試しに、戦士の武器の欄の、1番上に書いてある大剣を押してみると、
必要なスキル
体力、筋力、持久力、忍耐力
などと書かれている。
なんだこれ、スキル?これがないと使えないのか?
当然、帰宅部の身としては、これらのスキルは持ち合わせていないぞ。
いや、持ち合わせてなくていいのかもしれないけど、後でめんどくさくなっても困るから、やめておく。
戦士の欄を閉じ、魔法使いの欄を見てみる。
そこには、炎、水、風と、武器ではない名前が並んでた。
試しに炎を押してみると、
必要なスキル
学力
とだけ書かれている。
これだけか?うーん学力か。成績はクラスで中の下ってとこだが、昔から勉強は人より得意だったぜ?現に、偏差値60台の高校に通ってるしな。
このスキルなら持ってるって言っていいんじゃないか?
それに加えて、これがなんの遊びだか知らないが、魔法使いってのはなんだか面白そうじゃないか。
「じゃあ魔法使いの炎で」
そう答えた瞬間まもなく、天使が喋り始めた。
「了承」
「あなたたちは冒険者チーム1となります。」
「転送後、あなたたちは、まず冒険者として任務を達成しながら生活をしてください。」
「冒険者ランクをDに上げることで、もう一度私に会うことができます。」
「説明は以上となります。」
天使がそう言ったあと、しばし沈黙が流れる。
説明が妙に少なく感じるな。
転送?どこへ?
冒険者?なんのための冒険をするんだ?
魔王でもいるのか?
生活?って、そんな長期のゲームなのか?
天使が言ったことに片っ端から疑問を持っていると、また喋り出した。
「それでは幸運を祈ります。」
天使がそう言うと、天使に後光が差す。
「「転送」」
その瞬間俺の視界は真っ白になり、意識を失う。
気づいたときには、俺は見たこともないどこかにいた。
屋上ではない。
辺りは暗かった。夕暮れは終わり、空気は深夜に近かった。
誰もいない。夢か?夢じゃない。意識は鮮明で、完全に現実世界にいることが感覚でわかる。
いやちょっと待てよ。
ここに約束した彼女は来ない。
こんなところには呼んでいない。俺が呼んだのは屋上だ。ここは屋上じゃない。なんで俺はここにいる?
伝えた時間は深夜ではない。
約束時間は17時30分と伝えた。彼女の部活が17時に終わるからそこから余裕を持って行ける時間を配慮して選んだつもりだ。
17時台はいくらこの時期でもこんな暗くはならない。
彼女の顔もよく見えないような時間に約束なんてしない。
なんでこんなに時間が経った?
そして目が覚めてからまもなく、
俺は、理解して正面から受け入れるというより、察するしかなかった。
何も伝えることもできずに、
告白は失敗したという事実を。




