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第一五話「黄金の鬣」

筆が乗ってきた。カクヨムの方はもうすぐ第一部が終わりますね

 三日目にして、戦線は膠着を迎えた。依然、数の上では連盟軍は優勢を保ちつつも、帝国軍ロマネンコ軍団の堅固な守備に、攻め手を欠いていたのだ。


 この時点で連盟軍は六万隻のうち一万隻近くを喪う大損害を受けており、今は崩壊した第二四、第四、第三艦隊の残余を第五艦隊へ統合することで戦力を再編しつつ、戦線を整理していた。


 一方、帝国軍ロマネンコ軍団の方も損害は皆無とは言い難く、チャスチェフスキー師団は連戦の疲弊から第二戦時点で戦力の二割近くに損害を受けていたし、パーヴェル師団も弾薬の欠乏を来たしていたために後退せざるを得なかった。自然、戦線は小康状態が続いた。 


斯くして、万全な兵力はヴァトゥーチンとロマネンコの軍勢があるのみであったが、そのヴァトゥーチンはアルス・ノヴァ要塞にも、それどころかマルコシアス星系にも居なかった。


 アレクサンドゥル・ヴァトゥーチン中将率いる黄金戦馬師団グゥルファクスィ・ディヴィージァは、全艦が黄金色に塗装され、しかも他の帝国軍艦艇に比べ、装甲や速力、バリア出力を強化する改修が施された特別な艦艇である。宇宙に於いて、このような塗装は恒星光の反射で目立つように思われるが、実際は何光時間と距離を隔ててしまえば粒ほどの大きさにもならないため、その他の艦船に比べて然程見えやすくなるという事もない。なので自分の艦や部隊にパーソナルカラーを与える指揮官は珍しくもないが、一個師団全てが黄金一色という派手さは、黄金戦馬師団を於いて他に居なかった。


 その黄金戦馬師団は、マルコシアス星系より連盟側の後方である、ナベリウス星系へ進発していた。旗艦『黒豹チョールナヤ・パンテーラ』で指揮を執るヴァトゥーチンは、マルコシアス星系に連盟軍が侵入したタイミングで本来の航路を大きく饒回し、また反重力機関による空間歪曲の検知を避ける為に、慣性による低速航行を行っていた。彼の本来の性格にしてみればこれは異常な事であったが、勝利を確信できるだけの確実性を持った戦略を伝えられれば、従わざるを得ないというのが本音である。


 会戦一〇日目にはナベリウス星系へ入り込み、同星系誕生以来から浮遊する小惑星帯アステロイドベルトに潜むことに成功した。連盟軍の主力がマルコシアスに居るとしても、ここは連盟軍の後方であるのに違いなく、存在が露見すれば反転してきた敵により、不利な防戦を強いられて敗亡の憂き目を見る事は疑いなかった。


 実のところ、ナベリウス星系へ入り込めた時点でヴァトゥーチンに課せられた任務の八割は成功したと言って良い状況であった。


 それから三日後、会戦一三日目である一一月一三日には小惑星帯アステロイドベルトから送り出した偵察機隊が、ナベリウス星系へ侵入する連盟軍艦艇の一群を見つけた時、ヴァトゥーチンは戦役全体の勝利を確信した。


 連盟軍は六個艦隊にして、七二〇万名の将兵を擁している。純人種の男性兵士が一日に必要とされるエネルギー量は三〇〇〇キロカロリーであるが、これを毎日七二〇万名分用意しなければならない。水は何とかなるとしても、一日に二一六億カロリーを賄う必要がある。各艦に物資があるにしても、それを当てに出来るのは一カ月弱であると見積もられていた。


「最後に補給を受けたのは、会戦の直前だろうな。そろそろ、補給が恋しくなってくるだろうよ…………」


 眼前に映る輸送艦隊は、敵軍をまたひと月戦わせることが出来る力を秘めている。緩衝地帯であるこのナベリウス星系が、いつの間にか安全な後方であると思い込んでいた報いを受けさせてやる。


「全艦、合戦用意。一隻たりとも、取り逃がすなよ」


 黄金戦馬グゥルファクスィの群れが小惑星帯アステロイドベルトから飛び出して素早く艦列を整える。連盟軍護衛艦隊は、ヴァトゥーチンの部隊を見つけるや、輸送艦とヴァトゥーチン軍の間に割り込むようにして戦列を形成した。しかし、圧倒的に兵力が足りていない。


「師団全艦、突撃シュトゥールム前へ(プペリョート)!」


 怒号一閃、蹄を蹴立てる黄金の重装軍馬たちが艦砲やミサイルを乱射しつつ、最大戦速で突撃した。


 護衛艦隊は、為す術なく次々と爆砕される。体当たり同然に突っ込んでくる黄金の駆逐艦が、すれ違いざまにミサイルを叩き込み、轟沈する護衛艦。戦艦の猛射を浴び、艦体を引き裂かれるもの。また、運悪く核融合炉に被弾して火災により焼き尽くされる艦などが後を絶たず、五〇〇隻ばかりの護衛艦群は僅か三〇分のうちに消滅した。


「そうら、掛かれっ!喰い放題だぞ!手柄を立てて、卿らの家族が遊び惚けても使い足りぬほどの恩賞を与えてもらえ!」


 丸裸になった連盟軍の輸送艦隊が散々に追い散らされ、宇宙からその姿を消失するのに、そう時間は掛からなかった。


 何とか退避しようとする小型輸送艦を駆逐艦が追い回し、電磁投射砲レールガンの接射で撃沈する。鈍重さゆえに旋回もままならず、為す術なく破壊される大型輸送艦。降伏を申し出た輸送艦も、乗員を退艦させた後に積み荷ごと破壊される。


 それは、ただの虐殺であった。戦闘とさえ呼べぬ一方的な殺戮であった。ヴァトゥーチンは歯噛みした。俺は、このような弱者を撃つために軍人になったのではない、と。


「このままでは消化不良だ。もう少し奥のガープ星系には敵の補給基地があるかもしれん。それを叩いてやるのはどうか」

「失礼ながら閣下、吾々は武人ではありません。吾々は軍人であります。軍人の本分とは、与えられた責務を果たし、戦争に勝利する事です。眼前の雄敵を討つのみが戦争ではありません。それに、そこまで兵を進めれば、マルコシアスの連盟軍が反転してきた時に窮地に陥るのは吾らでしょう」


 参謀長ヴァスチェラフ・グレーミン大佐の言葉がなければ、ヴァトゥーチンは敵を求めて緩衝地帯深くへ進攻しようとしただろう。黄金戦馬師団グゥルファクスィ・ディヴィージァの役割は、補給線を寸断して連盟軍攻略部隊の後方を厄すことにある。その本分を忘れそうになるのがこのヴァトゥーチンという指揮官であったが、同時に、進言の合理性を認めれば、素直に受け入れて軌道を修正できる柔軟性も持ち合わせていた。


「全艦、吾が艦の周囲に集合して待機せよ。それと軍団司令部、アルス・ノヴァ要塞へ打電だ。『我、敵ノ臓腑ヲ噛ミ千切リタリ』とな!」


 ロマネンコ中将とパーヴェル伯が立てた作戦計画では、ここまでは概ね順調であった。



 バッハ元帥以下、総旗艦『クルセイダー』に在する宇宙艦隊総司令部は、決断を迫られていた。戦力的には、正面の敵軍の二倍近くを未だに保持していたし、食糧、エネルギーも、退却分には充分であった。しかし、受けた被害と与えた損害とを見比べた時、今のところは五体一で連盟軍の完敗状態であった。敵軍の防御陣を殆ど突破出来ていない。


 会戦四日目には攻め方を変え、砲艦の長距離砲を用いた射程外攻撃アウトレンジ戦法に切り替えてみたものの、制空権なき状況では弾着観測による精度の向上が見込めず、従って効果も出ない。無為にエネルギーを消耗するのみとして、半日のうちに中止された。五日目には要塞の物資欠乏を図るべく第五艦隊が帝国軍とアルス・ノヴァ要塞を迂回してバエル星系方面への航路を封鎖する事が提案された。しかしその作戦案は、連盟軍の戦線が大きく伸び切ってしまうこととなり、結果的に脆弱部を多く作り出すことが予想されたため、実施前に却下となった。一応、小部隊による哨戒線を構築し、帝国軍ロマネンコ軍団の注意を度々逸らす事には成功したものの、戦線自体に動きと呼べるものは殆どなかった。


「マルコシアス戦線異状なし」などという報告が定型化した時、宇宙艦隊総司令部に激震が走った。輸送艦隊が全滅したというのだ。


 一一月一三日に、後方のナベリウス星系に侵入していた帝国軍が、六個艦隊を一カ月食わせる分の食料、弾薬、エネルギーを満載した輸送艦隊を待ち伏せし、悉く沈め尽くしたというのだ。


 元々一四日からは、補給を受けることを前提に今ある全弾薬を消費し尽くす総攻撃を予定していた。しかし、輸送艦隊が全滅したことで、総攻撃の計画に暗雲が立ち込めた。何せ、次の輸送艦隊の来援は一二月を待たねばならず、一一月中は手持ちの物資だけで遣り繰りせねばならない。総攻撃をするには弾薬が足りず、持久戦をするには食糧が足りない。兵力差は会戦の初日に比べ、嵩みに嵩んだ損害比によって正面戦力だけで一・五倍程度にまで縮んでいる。ここに、要塞に駐留しているであろう予備兵力や、ナベリウス星系の伏兵まで合わせれば、もはや兵力差は対等と思われた。


 退くべきか、否か。バッハは思い悩んだ。六個艦隊を動員しておきながら、何ら成果なく退けば、責任を取る形で宇宙艦隊総司令部の任を解かれ予備役に回されるだろう。また、決戦と言える戦いもしていないのに退却することを、全艦隊が承服するかどうか…………。


「戦うべきでしょう」


 ベルナルド参謀総長が胸を張った。主戦派かつ急進論者である彼に言わせれば、この状況はむしろ戦う絶好の好機であるという。


「敵の別動隊は遠くナベリウスにおり、要塞の予備兵力もすぐには出てこれない状況にあります。ここはむしろ全面攻勢に出て、敵に一撃を与えたのちに反転し、背後を突かんとする敵別動隊を叩くのです」


 その主張は一定の現実性を持っていた。今のところ、正面兵力は敵を上回っている。包囲などを狙わず、数の利をそのまま生かしてしまえば、敵は自ずと後退するしかない。


 そこが狙い目で、今度は敵別動隊を全兵力で叩きに行けば、一個艦隊対四個艦隊強の戦いとなる。六万隻の兵力を動員して敵の二万隻余りを斃したとあれば、やや塩味のする戦果だが充分に恰好はつく。


 それは甘い、甘きに過ぎた誘惑であった。斯くして、連盟軍六個艦隊は地獄への道をひた走る事となってしまった。



「敵艦隊は明日、全面攻勢に出る模様です」


 ロマネンコ中将の旗艦『マグナット』に於いて開かれた、セルゲイ・ロマネンコ、ウラジミール・チャスチェフスキー、ゲオルギー・パーヴェルの三中将による会談では、ロマネンコは現地編成の軍団司令官であり、階級が同じであるにも拘わらず参謀のような口調でそう告げた。


「奴らは不本意な二者択一を迫られたのだ。一方は不名誉な退却、一方は名誉ある敗北をな…………。向かってくるならば、クラブの歌姫に抱いた恋心の如く、吾らはかの無謀を打ち砕いてしまうまでであろう」


 ジャムティーをすすりながら、チャスチェフスキーは鋭く論評した。笑わせるつもりがあるのだとすれば余りにつまらなく、正確性を期するにはやや抽象的で、そして唐突だったので、誰も反応が出来なかった。


「チャスチェフスキー中将。如何に俊足を誇る競走馬とて、騎手が仕損じれば駄馬との誹りを受けてしまいかねん。卿の辣腕ぶりは私も認めるところであるが、過信は禁物であるぞ」

「そうでありましたな。作戦は、これからが本番であったな…………」


 ゲオルギーが窘めると、チャスチェフスキーきざな笑みを浮かべて瞑目した。チャスチェフスキーが、気恥ずかしさを覚えた時にする仕草である。


「ともあれ、駿馬は鞭を打たねば走り出しません。パーヴェル中将、チャスチェフスキー中将。今後も、御協力の程をお願い致します」


 初老のオーガは沈毅を保ちながらも、僚友たちを気づかわしげに見やった。次いで、この有能な将帥たちが何故自分などの指揮に従っているやら、不思議でならなかった。



 一一月一五日。当初の予定、あるいは予測より遅れること一日。連盟軍は総攻撃を開始した。中央に第一〇艦隊一万二〇〇〇隻、右翼に第五艦隊一万一五〇〇隻、そして左翼に三個艦隊の残余を統合して再編成された、ヴェネット中将率いる混成第三艦隊一万隻、最後に後方を固め、反転に備える第一艦隊一万三〇〇〇隻である。総兵力四万六五〇〇隻の大兵力であり、損害の経過も一個艦隊半に相当する兵力で済んでいるなど、バルバトスの悲劇に較べれば遥かにましではあったが、それでも三個艦隊の司令部が消滅していることを思えば、国防省の涙の量は嵩を増していく一方であるだろう。また、各艦隊も壊滅した艦隊の残存兵力を引き抜く形で損害を補填・増強しているため、混成第三艦隊のみならず、他の艦隊内でも指揮系統が充分機能しているとは言い難い状況である。


 対する帝国軍ロマネンコ軍団は中央にロマネンコ師団一万隻、左翼にチャスチェフスキ―師団七八〇〇隻、右翼のパーヴェル師団七二〇〇隻の合計二万五〇〇〇隻の兵力を、同じく横隊で展開していた。


 午前八時二〇分、連盟軍第一〇艦隊は前進を開始した。他の第五、混成第三艦隊も前進を開始し、それぞれの正面に居る敵へ衝突していく。


 第一〇艦隊は堅実なもので、戦艦を前面に押し立て、砲艦を後ろに下げる、重装歩兵の突進にも似た整然とした行軍である。それに対し、中央を固めるロマネンコ師団は、部隊左翼を担当するポヴェドノスツェフ連隊をやや前進させる形でのやや歪な左斜線陣を展開した。


「そのまま引き付けよ」


 ロマネンコの発した言葉は、それだけであった。


 何と単純な陣形であろう、これでは数に勝る第一〇艦隊が押し切れてしまうぞ、と後方からバッハ元帥は楽観した。元々、少し叩いて帝国軍を後退させるのが目的であったから、中央の敵将が下手を打つ分には構わない話であった。


 だが、バッハは重大な思い違いをしていた。両翼のチャスチェフスキー、ゲオルギー・パーヴェルらが行う派手な戦術は、彼らの圧倒的な才幹ゆえに成立するものである。それに比べ、中央に控えるロマネンコは彼らほどの鮮やかさではないが、少なくとも凡庸ではなかった。彼もまた、非凡なる者の一角であることをこれより思い知ることになる。


撃て(ファイア)!」


 第一〇艦隊が最初に狙ったのは、やはり斜線陣の突出部であるポヴェドノスツェフ連隊の陣である。突出を叩くように三方向から砲火を撃ち掛け、崩したところで小型艦艇を浸透させて全体の崩壊を誘おうというのである。


 しかし、悲劇は互いの戦線が密着し、ポヴェドノスツェフ連隊への半包囲が完成した瞬間に発生した。


「今だ、射撃開始スティリヤーチ


 突然、斜線陣の内側から数十条の赤い粒子火線が吹き伸び、進路上に在った連盟軍艦隊を打撃した。敵は突出したポヴェドノスツェフ連隊と、その右側斜め後ろに布陣するラフーレン連隊が構築した火線の網に誘い込まれたのだ。


「間断なく撃ち掛けよ」


 誘い込まれた第一〇艦隊一〇〇〇隻は、一〇分もしないうちに七〇パーセントの兵力を喪い潰走した。それだけの猛射を行えたのは、局所的なⅤ字陣形を完成させて逆に連盟軍部隊を半包囲したことで、近傍の艦が観測ビーコンの照射などで陣形内奥の砲艦部隊に敵艦の座標データを送り込み続けたことにある。これによって高効率かつ高精度の砲撃を繰り返せたのだ。


 また、突出部に対する他の二方向からの攻撃も、ポヴェドノスツェフ連隊の前線各艦が攻撃を控えてバリアに核融合炉のエネルギーを集中し防御に特化したことで砲撃を防ぎ切れていた。その際、前線艦は一切の抵抗が出来なくなるが、接近されるとしても後方の艦が反撃することで敵を寄せ付けない。しかもこれに備え、ポヴェドノスツェフ連隊は定数の一・五倍になる三〇〇〇隻という大兵力を与えられたために防御の密度が高く、敵攻撃部隊に対しても数的に決して劣るものではなかった。


 さながら、大盾を構えた重装歩兵である。分厚く堅い盾を前に、連盟軍第一〇艦隊は攻めあぐねている。


 しかも、その盾は時を折りにして有機的に活動し、敵軍を積極的に引き付けている。攻撃を諦めようとすれば戦列に隙間を見せ、希望を抱かせてるかに見え、しかしいざ突いてみれば堅壁の城塞を彷彿とさせる防勢を見せる。さならが、盾の内に貪食な獣を飼っているかに錯覚するほどだ。


 危うい兵の動かし方に見えるが、その実、二重三重、十重二十重の予備となる策を弄して行う舞踏曲ワルツであった。


 損害ペースの上でも戦局は良好に推移しており、しかも、敵の攻撃を続けさせるという一点を重視していたこの時のロマネンコ軍団の方針を、ロマネンコ自身が実践していた。


「単純だが、用兵の利に適っている。あれこそが正統派なのだ」


 チャスチェフスキーはロマネンコの手腕を、そう論評する。


「戦いとは、失点ミスが付き物なのだ。対等の兵力で勝利を得るならば、鮮やかな奇略より、敵に較べ失点ミスをより少なく、そして傷を浅くすることだろう。多くの凡人は、そこを履き違えるが故に、英雄となり損なうのだ」


 最後の一言は余計にしても、発言の大意は道理の通る事であったので、チャスチェフスキーの副官ラーザエフ中佐は何も言わなかった。ラーザエフはこの上官の余計な軽口に付き合うためだけに、彼の配下になったと言って良い。


 チャスチェフスキーも、ゲオルギーも、老教師たるロマネンコに倣う生徒かの如く、堅実かつ徹底的な守備によって防衛線を固めている。そうさせたのは彼らの機略の泉が濁ったからではなく、単に、減少した兵力と諸々の状況が彼らに積極的行動を慎ませたのだ。


 手法はある程度異なれど、火力戦による陣地防御と、敵を引き付けて離さぬ遊動が合致し、数に勝る敵に時間的出血を強いていた。


 しかし、そんな守備にも綻びが生じ始めた。連盟軍宇宙艦隊司令長官バッハ元帥は、兵力に勝るならば遠距離から波状攻撃を仕掛けるべきだと考えた。常に休息、準備、攻撃のサイクルで戦闘を続け、敵に疲弊を強いるべきだ、と。疲弊しきったところを反転して離脱し、敵別動隊を邀撃すれば良い、という作戦である。


 作戦は果たして、翌日一一月一六日から実行され始めた。各艦隊は、分艦隊ごとに前進して一定時間砲撃し続けたのちに離脱し、戦列後衛に下がって、エネルギーの充填と再編、将兵の体力回復に努め、中衛は攻撃陣形の調整、然る後に前衛へ前進し、撃ち尽くせば後衛へ下がる。


 効果はじわじわと顕れ、堅壁を誇ったロマネンコの大盾ですら、予期しない穴が目立つようになっていたし、チャスチェフスキー師団に至っては前線兵力の三〇パーセント近くが何がしかの損害を受けているほどのきわどい状況である。その状態で戦線が維持できているのは、分隊(五隻)単位まで緻密に状況を把握し、不眠不休で防御指揮と兵力再編を同時並行し続けたチャスチェフスキーの能力ありきである。


 この時、比較的ましな状況だったのはパーヴェル師団である。彼が相手取る混成第三艦隊は、サイクル攻撃に際しても指揮系統の整備不足で攻撃に精彩を欠き、その防御にチャスチェフスキーほどの苦心を必要としなかった。


「閣下、攻勢に出るべきではないでしょうか?奴らは全戦線でサイクル攻撃をしています、つまり防御は手薄なのです。今衝けば、ドミノ倒しのように戦線が崩れ去ること相違ございません。味方が苦戦している今、動けるのは吾らだけですぞ」


 配下のディミトリ・カラシニコフ少将が進言する。守備に長けたカラシニコフから見ても、今の状況は攻撃するのに有利であるというのだ。攻めを理解してこそ、守りは成立するというのが彼の奉ずる信念であり、またその信念は樫木より硬く鋼鉄より重い。その進言の持つ価値は、参謀たちのそれより勝るとゲオルギーは考えていた。


 だが、その上で彼はニェートの答えを返した。


「吾らの兵力は既に七〇〇〇隻を切っている。これ以上損じれば、爾後に差し支えよう」


 通信スクリーン上の若き廷臣が憮然とした表情を浮かべた。そこには微妙に疑念の成分が含まれており、それは上官の性格に今の状況が似合っていないことに対するものだった。


 敏感に臣下の疑問を感じ取ると、若き美麗なる主君は赤銅色の髪を白手で掻き上げた。


「案ずるな、カラシニコフ。私は味方を見殺しにするつもりは無い。楽をして勝つ方法があるのだ。今は、その時を待つのみだ…………」


ヴァトゥーチンの元ネタはもう”アイツ”です

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