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【都内連続暴力事件:映像記録②、③】

 冷蔵庫の中を見てみると、まず目に入ったのは、例のエナドリが容量の半分を占めている事だった。

 なるほど、ここは確かに俺の家らしい。素晴らしい備蓄だ。

 その他にも、まだ新しい野菜やチーズにバターといった食材で冷蔵庫は一杯だった。俺は自炊するタイプだったのか……? いや、推定彼女の夏木さんが、料理好きという可能性もあるか。

 ……なんか変な感じだな、自分の私生活を想像するっていうのは。しかもリア充ときた。う、うーん……やっぱり何かの間違いじゃないかな? 自分が交際している様子がまったくイメージできないんだが。


 益体もない考えを冷蔵庫を閉めるのと同時に切り替え、エナドリを飲みながらキッチンの戸棚を漁っていくと、缶詰やら即席麺やらが幾つか見つかった。

 わかりやすいように、ダイニングのカウンターの上に並べていく。ぱっと見た感じ、冷蔵庫の分も合わせたら数日は持ちそうだ。


「これなら、しばらくは安全に引き籠もってられるか。あとの問題は、水と、電気と、ガスか……」


 空になったペットボトルを水道で濯ぎながら呟く。

 外の混乱が続けば、ライフラインもそのうち止まって、この水も自由に使えなくなるだろう。最悪、タカミネさんの忠告通り、東京から避難する事も本気で考えないといけないな。

 そんな事を考えていると、春雛さんがリビングに戻ってきた。


「ただいま戻りました」

「どうだった?」

「ばっちりです! 寝室と、お仕事部屋? のようなものが有りましたが、どちらからご案内しますか?」

「仕事部屋? そんなものあったんだ」

「はい。そちらからにしますか?」

「あー、いや……その前に、寝室に案内してもらっていい?」


 いい加減、素肌にウィンドブレイカーという奇抜な格好をなんとかしたい。寝室ならシャツの一枚くらいあるだろう。


「わかりました、こちらです」


 春雛さんの後について行くと、ベッドのある部屋に通された。


「ごめん、春雛さん。ちょっと廊下で待っててくれる……? すぐ済むから」

「? はい、わかりました」


 流石に女子中学生の前で生着替えを披露するわけにもいかないので、申し訳ないが部屋の外で待っててもらう。


 ドアを閉めて一人になったので、さっそくクローゼットを物色する。


「ん……?」


 クローゼットを開けた瞬間、りんごの香りが鼻先をくすぐってきた。柔軟剤かな? 良い匂いだ。

 匂いを楽しみながらクローゼットの中にあるチェストを漁り、綺麗に畳まれたシャツを取り出す。

 ……几帳面だな、俺。……いや、そうか彼女か!?

 家に入った時からなんか違和感あると思ったら、全部彼女が甲斐甲斐しく世話を焼いてたんだな!? くそっ、想像以上に良い彼女じゃねえか、リア充してやがる! こうなると、記憶を無くしたのがなおさら悔やまれるな、さっさと思い出さないと……!

 まだ見ぬ彼女とイチャイチャしてる自分の姿に嫉妬しながらシャツに着替えて、さっさと部屋を出る。


「おまたせ、春雛さん。さあ、次行こう、次! 何か思い出せそうな物がないか探さないと!」

「は、はい……! ……なんだか元気になったようで、よかったです」


 俄然やる気が出てきた俺は、暖かい目をした春雛さんに案内されて、仕事部屋へと向かった。

 次の部屋には、パソコンデスクが置かれていた。キーボードは七色に光ってないが、イスがゲーミングチェアだ。仕事部屋じゃなくて、趣味部屋だろうか? 戸棚を見ると、ゲームソフトや漫画とかが並んでいる。なぜか、部屋の隅に折りたたみ式の簡易ベッドも置かれていた。普段はこっちを主に使ってたのかな……?


 ゲーミングチェアに座り、パソコンの電源をオンにする。

 幸いパスワードを設定してないようで、問題なくホーム画面に入れた。ネット回線もちゃんと繋がっている。

 なにか自分に関する情報を拾えないかと、適当にホーム画面にあるフォルダを探ってみるが、こっちは全部パスワードが掛かっていて開けなかった。変な所でセキュリティがしっかりしてるな。


「どうですか?」

「ダメだ、フォルダは全滅だ……。仕方ない、切り替えて感染者の事について調べてみよう」

「はい」


 検索エンジンを開いて、東京に関するニュースを探してみると、感染症に関するネット記事が幾つか出てきた。『謎の集団暴力事件!』だとか、『都内で人を凶暴化させる感染症の発生』といった適当な見出しの記事を開いてざっと読んでいくが、既に知っているような情報ばかりで、役に立ちそうな事は書かれていなかった。


「うーん、目新しい情報はないな……。そうだ、病院で春雛さんが俺に見せてくれた動画って、ネットにアップされてたやつなんだよね?」

「はい、そうです」

「だったら調べるのはニュースサイトじゃなくて、交流サイトの方だな……」


 SNSを開くと、『東京 ゾンビ事件』でトレンドの1位になっていた。また、えらく直接的だ。

 調べてみると、動画が幾つも投稿されていた。その中から適当に選んで再生してみる。


―――――――――

 最初のモノは、どうやら昨日の朝の電車内で撮られたものらしい。

 車内にはそこそこの乗客がおり、悲鳴や怒号で騒然としている。そんな中、カメラは一点を撮り続けていた。

 目が充血した小太りの中年サラリーマンを、周りの乗客が数人がかりで抑えている。

 男は真っ赤に充血した両目で、目の前で倒れているシャツの襟首を真っ赤に染めた乗客に向かって、歯をガチガチと鳴らしていた。

―――――――――


「これは、一番最初に投稿された感染者の映像ですね。これと類似した事件が続発したことで、ここから一気に感染者の存在が周知されていきました」


 横から春雛さんが補足してくれた。


「この噛まれた人はこの後どうなったの? やっぱり感染した?」

「え……? あ、はい。噛まれて出血しているので、おそらくは」

「そっか……」


 相槌を打ちながら、少し考えこむ。

 一つの引っ掛かりを覚えながら、次の動画を再生する。


―――――――――

 次の動画は、説明文によると、噛まれた被害者を遠巻きに録画したものらしい。

 どこかの学校の校庭で、仰向けに倒れて痙攣を起こしている子供に、救急隊員が処置をしている。


 子供をストレッチャーに載せて運び出そうとした瞬間、子供の体が突然弾かれたように跳ねて、地面に落ちた。救急隊員が急いで駆け寄ろうとしたが、それよりも早く子供が操り人形みたいな挙動で飛び起きた。

 かと思うと、甲高い絶叫を上げながら学校の外へと向かって一目散に走り出し、何処かへと姿を消してしまった。

―――――――――


「こんな小さな子まで……」

「……」


 春雛さんが悲しそうな顔をしながら、ぽつりと呟いた。

 それを余所に、俺の中では一つの疑問が形を持って浮かび上がっていた。

 マウスを指で軽く叩き、画面を見つめたまま春雛さんに問う。


「なあ、春雛さん。感染者の行動に、優先順位ってあると思う?」

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