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【コミカライズ5月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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『トウフ』不可思議

 私がトウフに苦戦していると、オーリが何かを差し出した。


「リンスィール。こいつを使ってみな」


「む? なんだね。それは……?」


「こりゃあ『トウフ(すく)い』ってんだ! レンに頼まれて、俺っちがこさえたもんさ。他のテーブルにも置いてある」


 トウフ掬いは、ハリガネで作られた大ぶりの(さじ)である。

 構造は単純なので、オーリほどの職人ならば、さほど苦労なく作れるだろう。

 試しに使ってみると……おおっ!

 あれほど砕けやすかったトウフが、いともたやすく掬えてしまった!

 トウフ掬いの名に恥じぬ性能だ。素晴らしい。


「な、なんと……。こんな便利な道具があるなら、すぐに出してくれればいいのに!」


 私が口をとがらせると、オーリは苦笑しながら言った。


「すまねえな。こいつがなかったらどうなるのか、ちぃと見てみたかったのさ」


「む。まあ、確かに……いきなりこれで掬ったとしても、この感動はなかったろうね。そら」


 私がトウフ掬いを手渡すと、オーリも自分の皿にトウフを取った。


「では……いざっ!」


 取り皿に口を寄せて(すす)ると、口内にヒュッポンとトウフが飛び込む。

 瞬間、私は目を見開く。

 もちろん、柔らかいのは十分にわかっていた……。

 けれど予想外だったのは、その『(ねつ)』である!

 いくら熱々の汁で煮込まれてるとは言え、熱いにもほどがあるっ!


「ハフハフ……。ホ、ホーヒ、(オ、オーリ、)ハフイハ、ホイツハ(熱いな、こいつは)


「ホッホッ……。ハワ(ああ、)ヒィ、ヒィンスィール(リ、リンスィール、)アフフヒフヘ(熱すぎるぜ)!」


 トウフは熱を塊に変えたような、苛烈(かれつ)な熱さを持っていた。煮えたトウフほど熱い食材を、私は知らぬ。

 私とオーリはハフホフと、口の中でトウフを転がす。

 火傷しそうなほど熱々で、ツルンとした舌触り。

 歯に当たるたび、トウフは少しずつ砕けて形を変える。

 やがて粉々になったトウフをゴクリと飲み込み、私はホッと息をつく。


「う、うむっ。もっとこう、はっきり味があるものと思っていたが……?」


 私はその見た目から、『巨大なチーズを切り出した味』を予想していた。 

 しかしトウフの実態は、もっとずっと優しい……。

 カッテージチーズより柔らかくて、ゼリーよりも遥かに崩れやすい。

 サッパリしていてきめ細かくて、それでいてわずかにクリーミー。


 『食べ応え』の観点で言えば、(はかな)いとか、(おぼろ)げとすら表現していいだろう。

 しかし、味がないわけではないのだ!

 淡白な旨味と、まろやかな後味、植物の香り。それらが飲み込んだ後も確実に舌に残り続けて、キムチとミソの濃い味を受け止めて、どこまでも穏やかに、それでいて静かに自己を主張する……。

 純然(じゅんぜん)たる、とでも言えば良いのだろうか?


 オーリが、取り皿の汁をズズっと啜った。


「そのまま飲むと喉が渇くようなスープだが、煮込んだトウフと一緒に食うことで、塩気や辛さをちょうどよく、しかも長く舌に残すな……」


「うん、()()()()()がすこぶる良いね! 『汁を味わう』という点で言えば、これはある意味でラメンのメン以上にスープを引き立てる食材かもな」


「さて、こいつが何でできてるかだが……」


 私とオーリは、一拍置いた後で同時に言った。


「「豆だ」」


 オーリが頷き、次いで首をひねる。


「……そう。豆だよ。植物だ! それは間違いねえ。けど、どうやって作ったのか皆目見当がつかねえ」


 私も新たにトウフを掬い、ワリバシで切りながら言った。


「触れたら崩れる柔らかさなのに、熱にとろける様子が一切ない……。それが本当に不思議なのだよ」


 オーリが、新たなトウフを掬いながら言う。


「トウフって響きで思い出したが、おめえんとこの女王様の誕生日に食った、アンニンドウフとよく似てるな?」


「おお! そうだな。ただ、食感はヴァナロの茶碗蒸しに近いぞ。滑らかなカスタードクリームを、そのまま四角くしたみたいな舌ざわりだ」


「熱で溶けないってことは、ゼラチンじゃねえよな?」


「ババロア、ムース……いや、もっときめ細かい。どちらかと言えば、ヨーグルトか」


 そんな談義を重ねながら、私とオーリはキムチ鍋の食材をつまんでいく。

 フロアの真ん中にはエールの大樽が置いてあり、皆が思い思いにジョッキで汲んでは飲み干している。

 私とオーリのエールも、すでにジョッキ四杯目だ。


 野営ならば普通のことだが、室内で煮えた鍋を前にして食事するのは、なんとも不思議な光景だ。

 コンロの熱と立ち上る湯気にまみれて、酔ったオーリの顔がテラテラと赤く光っている。

 きっと、私の顔も、同じように光っているだろう。

 みっともないのに、なんだかとてもいい気分である。


「さて、そろそろラメンを入れていいかもな」


 私が言うと、オーリが叫ぶ。


「おーい、レン! スープの味がかなり濃いぞ。このままインスタント・ラメンを入れたら、味がしょっぱくなり過ぎねえか?」


 少し席の離れたレンが、椅子を傾けこっちを向いて返事した。


「ん? ああ、そりゃ大丈夫だよ。その麺には、味がついてねえから」


「味がついてない……?」


 レンは一瞬キョトンとした後で、平然と頷いた。


「おう。取り出して、色を見てみなよ。白いだろ?」


 オーリが袋からメンを出す。見てみると、確かに以前目にしたものより、色が薄い。

 私は言う。


「なるほど。以前のインスタント・ラメンは麺そのものに味がついていたが、このインスタント・ラメンは、メンとスープが別々なのだな。先ほどの銀の小袋が、味の役目か。よし、メンを入れよう……オーリ?」


 オーリは、真剣な表情で白いメンを見つめている。


「おい、オーリ、何をしてる! 早くしないと、スープが煮詰まるぞ!」


 私が慌てて声をかけると、オーリはハッとしてメンを鍋に放り込んだ。


「うっ!? ……す、すまねえ、ちぃっと考え事しちまってな」

あけましておめでとうございます!

12月の初めに人差し指の先の骨にヒビが入ってしまいまして、装着具のおかげでキーボードが叩けず、困ってました

今回のお話もほぼほぼスマホで入力したのですが、いつもと勝手が違って倍以上に時間かかりました

2月半ばには回復する見込みですが、本当に注意一秒怪我一生ですね……


異世界ラーメン屋台のコミカライズ一巻、もうすぐ発売予定です。

今年も『ラメン』をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
明けましておめでとうございます。 安静にして下さい。
お大事にしてくださいね。いつも楽しく拝見しています。楽しい作品をありがとうございます。
謹賀新年! 豆腐って正直味噌醤油以上に「どうしてそうなった」っていう食べ物よね。 何考えてあんな手間かけたんだ。こんにゃくみたいに手間かけないと食えないならまだしも……。 まぁ美味しいからええんやが…
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