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エンドレス∞ワールド  作者: 黒猫歌留太
第一章:オープニングアウェイクニング
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第八話:目的不明の犯罪者

 NIA本部やNIA管轄の施設で形成されているフォーカス地区を抜けたセブンの運転する車は、犯罪者が出没したエンチャート地区の現場へと到着した。現場は背の高い(背が高いと言ってもNIA本部の全長には遠く及ばない)ビル群に挟まれた脇道の無い大通りで、一つのビルの屋上では工事がされているのか鉄骨がクレーン車に吊るされていた、勿論の事だが避難は完了しており工事の物音はしない。


 どうやら既にその入口には規制線が張られており二人のNIA職員が立っている。―――その格好は本部に居た職員とはまた違った服装をしていた。NIAのシンボルが左胸元に縫われた紺色のシャツを、同じく紺色のズボンの中に入れて頭には制帽をかぶっている。


 車を降りたミコトは右手で焔を持つと先を行くセブンに無言のまま付いて行き、規制線の前で止まった。


 「ご苦労様です。」


 二人のNIA職員がこれでもかと思う程に息を合わせてミコトとセブンに対して敬礼した。職員二人の腰辺りには黒々とした拳銃がベルトに取り付けられたホルスターに仕舞い込まれている。


 「着いたわ。ここからはアナタ一人でアレを逮捕してもらうことになるけど勇者様には簡単なお仕事かもね。」


 二人の敬礼に浅く敬礼したセブンはミコトが一人で捕まえることになる犯罪者を指さした。


 「う~ん・・・」


 セブンの説明に何か思うところがあるのかミコトは腕組みしながら唸り声を上げる。


 「あら、勇者様にはただの犯罪者を捕まえるのは不服かしら?」


 「そういうわけじゃないんだけど・・・なんか俺に隠してない?」


 今回の犯罪者逮捕に裏の目的がある可能性は高いだろう。何よりも創造物を所持している事を考慮しても、一般人であるミコトに逮捕させようとするのがその証拠だ。ミコトも違和感に勘づいた。


 「少ない脳ミソで良く考察してもらったのは悪いけど忘れて。あそこに立ってる人間が見えるでしょ・・・それから人質も。」


 大通りで無言のまま立ち何者かを待ち構えているような犯罪者は幼い女の子の左肩から右肩に伸ばすように手をかけて、頭の側面に拳銃の銃口を向けていた。


 「なっ⁉ホントだ。人質いたのかよ、それを早く言え!」


 「言おうとしたわ。―――アナタがつまらないこと言い出した所為よ。」


 セブンは仕事を完璧に遂行する女性だ。人質がいると前もってミコトに伝えようとしていたというのは虚言ではないだろう。


 ミコトは規制線を越えて今にも飛び出してしまいそうなほど身を震わせる。その様子を見たセブンはミコトが勝手に飛び出して行ってしまう前に人質を捕られている状況で何をすべきなのかを伝えた。


 「いい?敵は一人だけ。見た感じ拳銃を一丁持てって人質を捕られてる。下手に刺激出来ないから大勢での包囲も無理、これを踏まえた上であの犯罪者を捕まえて。・・・万が一、犯罪者が逃げてしまいそうになったら殺しても構わないから。無論あの女の子も。」


 犯罪者を殺害するというのは最後の手段という形ならば僅かに理解出来る。しかし女の子まで殺害するというのは道徳的観点から遠く離れた行為である。


 「ころ・・・・・・殺すなんてことしない。逮捕するから来たんだ、そういうのは無しだ。」


 確固たる決意を固めたミコトは規制線を持ち上げて下を潜るとゆっくりと犯罪者に近づいて行った。―――ゆっくりのっそり犯罪者へと着実に近づいたのは、自分の中で刺激しない方法がそれだったからだ。


 事件現場近くに設置された監視カメラがミコトの姿をジッと捉える。


「殺す勇気が無いの間違いでしょ。」


 セブンは一人で犯罪者を逮捕しに行ったミコトの背中を眺めてそう呟くと、自分の車へと足を運んだ。


 人質を捕った犯罪者にじりじりとミコトは接近して行く。ミコトと犯罪者、そして人質の女の子だけが滞在するこの空間で緊迫した空気が流れ出す。半ば勢いでここまで来てしまったミコトだが、来たからには何があろうと女の子を無傷のまま救い出さねばならない。


 「おっと、それ以上近づいたらコイツの頭吹き飛ばすぞ。」


 ミコトがある程度の距離にまで来ると犯罪者は持っていた拳銃を更に強く女の子のこめかみに押し付けて警告した。―――犯罪者の髪色は明るめの緑で、白いシャツに茶色いズボンを着ており首元が隠れるタイプの黒いインナーを着用している。


 ミコトは犯罪者の警告を素直に聞き入れてゆっくりと動かしていた足を止める。


 「とりあえず、その女の子を放せ!」


 ミコトは一筋の希望を握りしめ、怒気と正義感とが入り混じった声で単刀直入に物申した。犯罪者を逮捕するには人質に捕られている女の子の救出が必要不可欠である。


 「おいおい、放せと言われて首を縦に振る奴がいるかよ。いいか、お前が一歩でも動いたら俺は容赦なく引き金を引く。それと、右手に持ってるソレ・・・捨てろ。」


 「それは無理だ。」


 犯罪者の要求を受け入れられなかったミコトが言葉を濁さずに否定すると、犯罪者は何も言わず女の子に一瞬だけ視線を向けると小首を傾げた。口に出されなくともそれは、焔を捨てなければ女の子の頭に銃弾を撃ち込む合図なのだろう。


 他の選択肢が見当たらなかったミコトは、苦渋の決断ながら右手に持っていた焔を一歩踏み込んだだけでは届かない所にまで投げた。炎を吹き出せる焔を起点に女の子を救い出そうとしていたという事はミコトの苦悶の表情から見て取れる。


 「その子を人質に捕ってても意味なんか無い!」


 女の子を救い出す起点を破棄してしまったミコトは両手を上げて他に武器を所持していない事をアピールしながら犯罪者に人質解放を求めた。


 例え掴まれていなかったとしても身の震えで身動きがとれないであろう女の子の頬に一滴の雫が伝う。


 「テンプレートな説得だな。まぁいい、俺が今欲しいのは人質だ。お前さっき女の子を放せとか言ってたな・・・・・・そんなこと言うんだったらお前が変わりゃいいんじゃないか?」


 それまで女の子のこめかみに向けられていた銃口が今度はミコトの眉間に向けられた。


 「・・・・・・そしたらその子を開放するのか?」


 「もちろんだとも。約束は破らねぇさ・・・」


 緑髪の犯罪者は首を左に小さく振ってミコトを誘導した。もし女の子が解放されミコトを人質に捕っても、その交換は追われる身である犯罪者にとってメリットが皆無だ。しかし女の子が解放される事はミコトに限らずNIAからしても本望だろう。


 「その子を放すのが先だ!」


 「言ってくれるな、だがお前は立場をわきまえろ!物言える場所に立ってすらいねぇんだよ。了解したらお口にチャックしてサッサと来い。」


 拳銃を所持し人質まで捕った犯罪者と、片や武器も持たず無防備な状態でその犯罪者を逮捕しようとしているミコトを比較すれば犯罪者の方が有利だ。


 犯罪者の警告で止めた足を動かし再び歩き出したミコトの表情は先程にも増して浮かない。発砲しない根拠など何処にも無い現状において女の子を捕られたまま犯罪者に近づくのはリスクを伴う行為だ。―――この瞬間ミコトは何故ここに来たのかも忘れ、泣き喚くでも助けを乞うわけでもなく一滴の雫で頬を濡らす少女を無傷で解放するという強い思いだけが頭の中で駆け巡った。


 逆らう事が許されなかったミコトは犯罪者の命令通り間近まで歩くと足を止める。


 追い詰められた状況になっても後方にいるNIAの職員は規制線の中に誰も侵入させない為に見張りを続けていた。


 「約束だ、その女の子を放せ。」


 ミコトは自分に対して敵意が存在するであろう犯罪者の顔を真っ直ぐ睨みつけて、約束の条件を守るよう念を押した。もし犯罪者が逆上すればミコトの人生はそこまでだが、そんな事を流調に考えられるほどの余裕はミコトの中には無い。この状況を客観視すればするほど、今の絶望的な状況がより鮮明になっていく。


 ミコトは必死に恐怖を握り潰している女の子を犯罪者から引き剥がそうとしたが犯罪者は女の子を掴んだままミコトから遠ざけて、拳銃の餌食を女の子からミコトへと変更する。―――拳銃の銃口とミコトの両目が互いを見つめ合い、時が止まったように硬直する。


 犯罪者とミコトの信頼できない約束が遵守される事は無かった。


 「お前を今ここで殺すってのもアリだよな?」


 犯罪者が殺害準備完了と言わんばかりに拳銃の安全()装置(バー)を親指で下げる。ミコトは拳銃の使い方を知っているわけではないが、それが死を招く動作だという事を本能的に悟った。


 「約束が違うぞ!」


 「知ってるか?正直者がバカを見るってこと。んな事より自分の身を心配したらどうだ?」


 「その子を放せ。」


 食い気味にミコトから発せられた言葉は自分の身を案じるものではなかった。己の死を目の前にしてもミコトの主張は変わらない。


 「あくまで突き通すか・・・自己犠牲ヤロー。」


 「違う!」


 犯罪者はミコトが声を荒げた理由が分からず、目を点にした。


「俺の名前はミコトだ!自己犠牲ヤローじゃない。」


 決してミコトもふざけているわけではない。


 「ハハハハハ、笑っちまうじゃねぇか。名前にケチつけるつもりは無いが関係ないんだよ、そんな事。」


 笑い始めたと思いきや犯罪者は表情を真顔に直す。どうやらミコトの純粋なボケは犯罪者の心の奥底には届かなかったようだ。


 「気に入ったぞミコト―――だからと言っちゃなんだが俺と簡単なゲームをしよう。どっちにしろ撃つけど、断れば・・・分かるよな?」


 「分からない。どうなるんだ⁉」


 本気でどの様な事が起きるのか予測できなかったミコトは心に浮かんだありのままの疑問を犯罪者にぶつけた。


 「コイツを撃ち殺すって事だ‼ったく調子狂うぜホント。」


 こればっかりは犯罪者が悪い。ミコトと出会ってからほんの数十分だが、これでミコトの非常識さをその身に染み込ませただろう。


 「とにかく!俺とゲームだ、ルールは単純。今からコイツをミコトに渡し、そんでもって俺が引き金を引く。撃つ弾は一発だけ。ミコトの体を貫通するかコイツの体を貫通するか。どちらかが生き、どちらかが死ぬ。こんだけだ、どうだ?単純だろ。」


 逃がすという選択肢は無いという事を前提に話す犯罪者の口ぶりからしてミコトの脳内でもどちらかが撃たれるという思い込みが自然に生まれた。


 「・・・なんでそんな事する⁉殺すだけだったらとっくに殺ってる。何がしたいんだよ?」


 何気ない疑問をミコトは言葉にした。


 「さあな、俺にも分んねぇよ。」


 それだけを言うと、犯罪者はミコトとの距離を開けてゲームとやらを開始する。


 ―――――――――犯罪者が左手で押し出すようにミコトを狙い澄ませて女の子を投げつけた。


 「いいか?生きるか死ぬか決めるのはお前だ、ミコト。生きるを選択した場合、小さな代償が必要になるがな。」


 何もできず大した策も浮かんでこないミコトの体にぶつかった女の子は、犯罪者から身を隠すようにしてミコトの後ろへと回った。女の子の幼い手が安心を求めてミコトのYシャツを強く握る。


 「最後に言い残す言葉は?」


 「命に大きも小さいも無い。」


ミコトはそう言葉を吐き捨てると女の子の頭に左手をポンと乗せ、自分の体で弾丸を受け止める覚悟を決めた。


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