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お前を本当の妻にする気はない? それは好都合です、私は三か月で帰国しますので!  作者: 千堂みくま


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エピローグ 嘘も偽りもなく

 帝国へ戻ってから、私はまた寝込んでしまったらしい。

 それは牢に入れられて脱水症状を起こしたせいなのだけど、エルヴィスはかなり心配して、執務の合間に何度も様子を見に来たようだった。

 テレーゼは少しうんざりした様子で、「しつこくて困りました」と言っていた。

 一週間程して完全に回復し、ドレスを着た私を見てエルヴィスは眩しそうに目を細めた。


「その色の方が、きみに似合っている」


 私の薄桃色の髪をひと房手に取り、そっとキスを落とす。

 生まれつきの色を褒めてもらって、私は自然と笑みがこぼれた。

 体力が戻ってハンスがいる診療所へ行くと、彼は杖をつきながら歩いているところだった。

 シェイラは一応ハンスの治療をしてくれていたようで、脚の状態はかなり回復していた。


「ハンス! 無事でよかった!」


「お前こそ……またこうして会えるなんて、夢みたいだよ」


 ハンスのしわだらけの目元には、涙が光っていた。

 元気になったら、皇城の農園で働きたいそうだ。

 本当はのんびりしていていいとエルヴィスは言ったのだけど、ハンスは「退屈すぎて何かしていないと無理です」と答えたのだった。

 そうして私とエルヴィスは今、教会で離婚の手続きをしている。

 私は『シェイラ』として結婚してしまったので、一度離婚しないと駄目との事だった。


「皇族法では、前の妻と別れてから半年経たないと新しい妻と結婚できないのです」


 ザイオンによると、前妻が皇族の子を身ごもっていると、あちこちに皇族の胤をばら撒く事になり、皇位継承の際に不要な争いをもたらすらしい。

 だから私がエルヴィスと正式に結婚できるのは、半年後だ。それまではティナ・アシュロムとして彼の婚約者になる。


(ザイオンはどうやって女王を説得したのかしら)


 私がアシュロムの名を名乗るには、アシュロム王家の籍にティナという姫の名を入れなければならないはずだ。

 離婚届けに『シェイラ・アシュロム』と書き、婚約の誓約書に『ティナ・アシュロム』と書きながら、ザイオンの腹黒そうな微笑みを思い出していた。


『女王は気軽に応じてくださいましたよ。これでティナ姫はエルヴィスの婚約者になれますね』


 あの笑顔で、どんな交渉を――というより脅迫をしてきたのか、想像するだけで恐ろしい。

 さらに彼は私に、とんでもない事を言ったのだ。


『エルヴィスとの間に、最低でも七人の子は産んでいただきたい。頑張ってくださいね』


「七人は多すぎじゃないかしら……」


 思わずぼそりと漏らすと、隣で廊下を歩いていたエルヴィスが「七人?」と不思議そうに言う。

 今は教会の廊下を歩いているところで、もう手続きは終わったので馬車で皇城に戻るだけだ。

 彼は私の手に指を絡めて、ぎゅっと握った。


「どこから出た数字だ?」


「ザイオンが私に言ったんです。子どもは七人は欲しいって」


 私が言うと、エルヴィスはどこか遠くを見るような目で、「ああ……」と呟いた。

 それで私は、この数字は二人にとって大事な意味があるのだろうと悟った。


(それでもやっぱり、七人はちょっと……)


「多いですよね?」


 念のため聞いてみたけど、エルヴィスはニヤッと笑ったまま何も答えない。

 ただ彼の金の瞳が喜びできらきらと光っていて、私はエルヴィスもそれを望んでいるのだと分かった。


「もう……、何年かかるか分からないですよ」


 呆れたように言うと、彼は楽しそうに笑う。

 私はエルヴィスが私にするように、眩しそうに目を細めた。


「私、あなたの金の瞳が好きです」


 私が言うと、彼は驚いた様子で足を止めた。

 意外な事を言われたという顔で、私をまじまじと見ている。嘘だと思われては心外なので、私はさらに続けた。


「結婚式の時、あなたの目がとても綺麗だと思ったんです。金色の瞳を見たのは初めてでした」


「……だからか」


 エルヴィスはぽつりと言い、私を静かに見つめた。


「だからきみは俺をまっすぐに見つめたのか。俺もきみの澄んだ瞳が好きだ。清らかで、とても美しい」


 私は徐々に近づいてくる唇を、そのまま受け止めた。

 柔らかな感触に、胸がじんわりと温かくなる。


「愛している」


 熱が籠った瞳で言われ、涙が零れそうになった。


「私も……、あなたを愛してます」


 やっと言えた、と思った。

 前に「大嫌いです」なんて嘘をついてしまって、ずっと後悔していたのだ。

 もうこの人を騙す必要はない。

 嘘も偽りもない、ありのままの私で、精いっぱいこの人を愛していこう。

 爽やかな風を感じながら、私は幸せな気持ちで彼を抱き締めた。






 ◆◆◆おわり◆◆◆



最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!

応援や★の評価をいただけますと大変励みになりますので、どうかよろしくお願いいたします。

m(_ _)m

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