表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/9

プロローグ


「ステラ嬢!貴様との婚約は破棄させてもらう!」


目の前には、宝石の付いたフリルベストに華やかなベストとジャケットを着た男性…王子様服を着た貴族とドレス姿の女性がいた。

彼女は可愛らしく、潤んだ大きな瞳は保護欲を駆り立てる。男性は正義に燃えた瞳で私を睨んだ。

…いや、誰?私はこの人達を知らない。ステラ嬢、それが私の名前?何故か私は見ず知らずの他人に婚約破棄をされている。


「聖女、ユイを妬み数々の嫌がらせをした罪…知らないとは言わせないぞ!」


そこで私はピンときた。ははーん、これは流行りの断罪物だな。ラノベで親の顔より見た。

私は前世を思い出す。そうだ、私は社畜の女でラノベだけが生き甲斐の女だった。仕事を徹夜でこなし、エナジードリンクを何本も飲み…意識を手放したことを思い出す。恐らく私は過労死したのだろう。

しかし、今問題なのは、私はこの原作を知らないと言うことだ。

ステラ、と言う悪役令嬢も聖女ユイが出てくる作品も知らない。まぁ、悪役令嬢は国外追放されるか、最悪処刑だ。これはどちらかのパターンだろうか。


「ステラ嬢を聖女への無礼の罪で国外追放する!」


良かった、国外追放の方だった。とりあえず、私のこの後は分かった。私はドレスの端を持ち上げ、優雅にお辞儀をする。


「かしこまりました。婚約破棄を受け入れます。では、私はこれで失礼いたします」


私の言葉にパーティー会場がざわめく。


「婚約破棄されても動じないとは…さすがは氷の令嬢…」


私の二つ名って氷の令嬢なんだ。そんなことを頭の端で考えつつ、そそくさと華やかなパーティー会場を後にする。


「な、何故あいつは婚約破棄されても狼狽えないんだ…?今までなら喚いていたはず…」


元婚約者の男性が呟いた。名前も知らない人だし、特に何も思わない。今の私に記憶はなく、前世の頃の私の人格になってるし。何故、婚約破棄の時に前世を思い出したのかは謎だが。そもそも、婚約者がいるのに他の女性に浮気する男などこちらから願い下げである。前の私は嫉妬に狂い、聖女をいじめていたみたいだが。

私は隣国の王子やずっと密かに私に想いを寄せていた幼馴染に呼び止められるーーなんてことも無く、パーティー会場を出て前に停まった馬車に乗り込む。


「お嬢様…。婚約破棄の件、さぞ心を痛めたと思います…。しかし、旦那様と奥様が何とおっしゃられるか…」


メイドさんが眉を下げて私に言う。よく見ると彼女の顔色は悪く、微かに肩が震えている。前の私は、使用人にどんな仕打ちをしてきたのだろう。しかし、今の私に使用人に八つ当たりする気は無い。


「大丈夫よ。何と言われても受け入れるわ」


「お嬢様…」


メイドさんが茶色の目を丸くする。私の変化に驚いている様だ。まぁ、人格変わってるし。馬車が屋敷にたどり着く。私が馬車を降りると、男女が歩み寄って来た。


「ステラ!婚約破棄をされたって…一体、何があったの!?」


ドレスを着た美しい女性が私に言った。この人達が今の私のパパとママか。しかしママは美人だし、パパも美形だ。まだ鏡を見てないけど、これは私も相当な美少女なのでは…!?そんなことを考えながら平たい胸を期待に膨らませつつ、私は冷静を装って答えた。


「ごめんなさい。私、ショックで記憶が無いの…。国外追放されてしまったし、心機一転、これからは自分を改めるわ」


私は用意していた言葉をスラスラと口にする。やばい、私女優になれるかも。婚約破棄されたショックで記憶が無いことにすれば、誤魔化せるし、改心したことを伝えれば、今までと違う振る舞いをしても違和感をそこまで持たれることは無いだろう。


「ステラ…貴方本当に…?」


女性は目を見開き、メイドさんは目を潤ませる。


「お嬢様…ショックのあまり記憶が混乱なされるなんて…」


男性が私に厳しく言った。


「ステラ…お前には酷な話だが、家の為には結婚をしてもらうしか無い。それは、分かるな?」


私は頷いた。このまま国外で気ままなスローライフーーなんてことは現実的には出来ないのだ。今の私は令嬢だし。


「ステラ、お前には婚約破棄された、という汚名がある。まともな縁談はこの先、期待出来ないだろう」


男性の言葉が重くのしかかる。


「だが、大国の王からの縁談がある。小国の貴族からはとても断れない。相手は…あのエリオス様だ」


「エリオス様…!?」


メイドさんが悲鳴の様な声をあげる。え、誰なの。そんな反応をされる程やばい人なの。もう嫌な予感しかしない。


「エリオス様と言えば…戦の王、と呼ばれる程のお方…けれどその気性は荒く、隣国や小国に片っ端から戦をふっかけて勝利し、国土を広げるお方…そんな方の元にステラを嫁がせるなんて…」


女性が声を震わせる。想像以上にやばい人だった。メイドさんが言った。


「そ、それに嫁がせた女性を怒りに触れれば、殺したという噂も聞いたことがあります…!」


え、これ処刑台に向かうのと変わらなくない?


「ああ、私も娘をそんなところに嫁がせたくは無い。しかし、この縁談は大国との良好な関係を結ぶ為のものなのだ。断れば…争いになる」


私が断れば、国際問題になってしまう。この国にそんな大国と争える程の武力は無い。どの道、もうこの国に私の居場所は無い。


「分かりました。嫁ぎに行きます」


私が頷くと、メイドさんは口を手で覆う。


「お嬢様…自らこの国の為に…?国外追放されたはずなのに…」


メイドさんからすれば私は身売りの様な立場に映っているんだろう。同情的な目で見られている。


「私…お嬢様について行きます!」


メイドさんが決意に満ちた目で言った。


「え、貴方が…!?どうして…」


先程まで怯えていたはずだ。急な変わりように私は戸惑う。


「今のお嬢様を一人にしておくわけには行きません。お嬢様は記憶が無いのですよね?私はリエンと申します」


リエンはそう言って私に笑いかける。


「お嬢様のことをそばでお支えします。荷物持ちもお任せください!」


私はその優しさに心打たれる。


「分かったわ。私のことはステラ、と呼んでちょうだい。よろしく、リエン」


私が微笑むとリエンは嬉しそうに頷いた。


「はい!ステラ様!」


こうして私はやべぇ噂のあるやべぇ王の元にリエンを連れて嫁ぎに行くことになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ