仮装大会 in 京都市動物園(本物もいるよ!)
伊吹と摩耶は交換留学生達と別れた後、平安神宮へと向かい、伊吹と摩耶の祖先へと顔を見せ、祈祷を受けた。
摩耶の平安神宮訪問は元々予定されていたので、大きな混乱もなく参拝する事が出来た。
中学校にいた報道陣が、引き続き二人の仲睦まじい様子を写真に収めていた。
「次はどこへ連れて行って下さるのですか?」
「次は日本で二番目に古い動物園へ行こうか」
二人は待たせていた人力車に乗り込み、車力から琵琶湖疏水の歴史を聞きながら移動した。
京都市動物園の正門前で写真を撮らせた後、伊吹は摩耶の手を引いて動物園の事務所へと向かった。
「ここで着替えをしてほしいんだ」
伊吹は智紗世から受け取った安藤四兄弟のコスプレ衣装を摩耶へ見せる。
「着替えが終わったら、これを付けてね」
「これは、副社長のお面では?」
「これを付けておけば、王族でも皇族でもなく、一人の人間として動物園を楽しむ事が出来ると思うんだ」
伊吹の言葉を聞き、摩耶は怪訝に思いつつも言われた通りにコスプレ衣装へ着替える事にした。
ちなみに選んだのは赤を基調とした旭の衣装だ。
伊吹は紫を基調とした治の衣装を手に取り、それぞれ別室で侍女に着替えを手伝ってもらう。
「良く似合ってるよ」
衣装を着た姿を伊吹に褒められた摩耶は、赤い顔を隠す為に副社長のドット絵のお面を付けた。
動物園園長より簡単な挨拶を受けた後、お面を付けた二人が事務所を出て、改めて動物園の中を見渡す。
園内を歩く来園者の半分以上がお面を付けて安藤四兄弟のコスプレ衣装を着ている。
「これは、何かの催しですか……?」
「ちょっと知り合いに声を掛けてね、お忍び旅行のお手伝いをしてもらっているんだ」
伊吹は摩耶を温泉旅館へ迎えに行く前日に、安藤子猫協会に京都市動物園で非公式顔寄せ大会を開いてもらうようお願いしていた。伊吹の前世世界で言うところの、突発オフ会である。
この場にいる安藤四兄弟のコスプレ衣装を着て集まった子猫達は、本物の副社長が来るとは聞かされていなかったが、本物が来たとしても騒がないのが安藤子猫協会員の矜持だ。
何より、子猫達は副社長の動向を逐一追っており、本物が混じる可能性があると勘付いている。
伊吹は摩耶の手を取って、園内の案内図を見上げる。
その姿を確認した子猫達が、護衛達の邪魔にならぬ位置へと下がり、さりげなく周囲の警戒を始める。
「まず何から見たい?」
「そうですね……、やはり日本に来たからにはタヌキが見たいですわ」
「タヌキ……?」
タヌキは日本以外では見られない珍しい動物である。日本の昔話や童話で数多く出て来るタヌキだが、摩耶は実物を見た事がなかった。
安藤四兄弟のコスプレをした智紗世の案内で、ホンドタヌキの元へ向かう。
「犬の仲間なのに木に登れるんですね」
「キツネより丸っこいね」
伊吹はじっくりとタヌキを観察した事がなかったので、思っていたよりも楽しんでいた。
次は伊吹が見たいものを、と言う摩耶に促されて、二人はパンダを見る事となった。
「パンダこそ日本の多くの動物園にいるのでは?」
「うん、まぁそうだんだけど。僕も気軽に動物園へ行ける訳ではないからねぇ」
伊吹は前世でパンダを見たのは一回のみ。小学生の頃の家族旅行以来だ。
「ソフトクリームはいかがですかー? 今やったら二巻き増量中ですよー!」
パンダへと向かう道中、翔太の色である桃色を基調としたコスプレ衣装に副社長のお面を被った色白の少女が二人へと声を掛けた。
「この声、どこかで聞き覚えがあるような……?」
「お面付けたまま食べれないからなぁー」
伊吹が足早に少女の前を通り過ぎようとすると、少女が行く手に立ち塞がった。
「五月やけど熱中症の心配があるしお茶だけでも飲みませんか!?」
「結構でーす」
「はいかしこまりましたぁ! お茶ふた丁!!」
「いやいや頼んでませんけど」
「えぇ!? 今結構ですねぇて言わはりましたやんか!」
「結構ですと言ったのはいりませんって意味なんですけど」
「せやったらはっきりいらんて言うてもらわんと! ほらもうお茶のご用意出来ましたさかいにこっちへどうぞどうぞっ!!」
少女が伊吹の背中を押して、喫茶処へと押し込んでいく。摩耶はその勢いに飲まれてしまい、その背中を見送るしか出来なかった。
摩耶が伊吹の侍女の方を窺うと、お面越しではあるが皆がため息を吐いているような、やれやれという雰囲気が感じられた。
黄色を基調としたコスプレ衣装の智紗世に促され、摩耶も喫茶処へと向かう。
外から見えないように目隠しが施してあり、すでに伊吹がお面を外してソファーに座っていた。
「ごめんね、摩耶。このワガママ娘がどうしても摩耶殿下にご挨拶したいって言うからさ」
「違うとも言えへんし何とも微妙な嫌がらせやな……」
摩耶には聞こえない程度の声量で呟きながら、白人美少女がお面を外してその素顔を見せる。
「摩耶殿下。お初にお目にかかります、私は……」
「キャーーー!!」
マチルダの顔を見るや否や、摩耶がマチルダの顔を自らの胸に押し当てるように抱き着いた。
「可愛い! 聞き覚えのある声だと思ったら真智ちゃんだったのね!!」
「ふがふがふがっ!?」
思わぬ反応を見せる摩耶を見て、まぁこれはこれで良いかと思う伊吹であった。




