第一回顔寄せ大会を終えての報告会
「それでは報告をお願いします」
『はい、目立った混乱は特にない、と言いたいところなのですが、副社長からの反応を貰えた子猫達が立っていられなくなってしまったのは、今後の課題と言えるかも知れません』
旭ノ棟、大会議室。
藍子が促し、上海のホテルにいるイリヤがオンライン越しに会場内の様子について報告をしている。
「オタクはレス貰う為に生きてると言うても過言ではないからね。
へたり込むのは問題ではなく、当然であると認識した上で対応すべきだと思うわ」
大会議室にはかなりの人数の関係者が集まっているので、マチルダが未だ慣れない標準語を使いつつそう進言する。
「認識した上での対応、か。
例えば?」
伊吹がマチルダへと問い掛ける。
「会場内の床にふかふかの絨毯を敷いて、頭を打っても怪我しにくいようにするとか、あるいは副社長が生配信する際は事前に着席を促す、とか?」
「緊急地震速報かよ」
「そこは『わしゃ地震か!?』てツッコむところやで」
知らんがな、と言いそうになって思い留まる伊吹。
今はマチルダと漫才をしている場合ではない。
「グッズの売れ行きについての報告を」
伊吹に促され、琥珀が報告を始める。
「各グッズが満遍なく購入されています。
プリペイドカードも抱き枕カバーも、事前に相当数製造しておりましたので、売り切れになる事はありませんでした。
また、検討に検討を重ねて慎重に準備しましたお宝小箱販売機ですが、子猫達に大変好評でした。
現地で様子を見ておられたイリヤさんの感想をお聞かせ願えますか?」
『はい。とても楽しんで頂けたと思います。
ガチャガチャとツマミを回す音が鳴り響き、小箱を開けるたびに子猫は歓声やため息を漏らしておられました。
また、この販売機を自宅に飾りたいと話す子猫、自分の店に常設する事は出来ないかと現地スタッフに交渉し出す子猫もおられ、感触はとても良いと思います』
イリヤの報告をムスっとした表情で聞くマチルダ。
このお宝小箱販売機については一切の情報をマチルダの耳に入らないよう進められていたので、除け者扱いされて拗ねているのだ。
「全部の景品が同一確率やなんてロマンがないわ。レア物があるからこそのガチャやんかいさ。
ハズレがあるからこそアタリがある。人生楽ありゃ苦もあるさ言うやろ」
ブツブツと独り言を続けるマチルダを放置し、琥珀が発言する。
「問い合わせはこちらにも来ています。
大型電気店の隅や映画館の待ち合い、喫茶店や動物園など、幅広い分野で需要があるようです。
現在は稼働状況の確認段階である事を伝え、すぐには公共の場所での設置は出来ないと断っています。
ただ、ほとんどの問い合わせ元が、利益は全くなくて良いので設置だけさせてほしいとの事でした」
「集客効果を狙っているって事なのかな?」
伊吹の前世世界においてのカプセル販売機の設置運用について、伊吹自身がそう詳しい訳ではない。
何となく、あのカプセル販売機本体は買い取りもしくはリースで、中身の景品用カプセルは発注して自分で詰めるのかな、という認識だ。
顔寄せ大会に設置するお宝小箱販売機は全てVividColorsが管理する想定で、販売機を売ったり貸し出したりするところまで運用計画を練れていなかった。
「集客効果もあるだろうけど、販売機を置かせてもらえるくらいVividColorsの信頼を得ていますっていう企業としての宣伝にもなるからじゃない?」
燈子がそう発言する。
集客効果と宣伝効果の両方を狙っているというのは間違いないだろうと、一同の意見は一致する。
「でもまぁ、本体はそう安いもんじゃないし、店舗に買い取ってもらった上で設置してもらうのは気が引けるかな」
ケッコン指輪で決済をする為、本体には無線通信用の部品が組み込まれている。ネット環境がないと作動しないのだ。
そもそも本体を販売して利益を出すような想定をしていないし、日本全国に無数の販売機を設置出来るほど、本体も中身の景品も量産を進めている訳ではない。
「よし。お宝小箱販売機については大会が全国を一巡した後、専門の会社を立ち上げて、数年後の一般普及に向けて準備する事にしよう。
個人でも楽しめる用の小型販売機の製造とか、オンラインでの販売とかも視野に入れて検討しよう。
当面は琥珀が担当を続けてくれ」
「分かりました」
そして話題が安藤映捨徒ことマチルダが制作した公式薄い本五冊へと移る。
『控え室やお宝小箱販売機の設置されていた別会場で、薄い本を購入した子猫達が鼻血を流したり、トイレから籠って出て来なくなるなどの問題が発生しておりました』
「へぇ? そこまで昂るような内容やないと思うんやけど」
「耐性がない分、刺激が強く感じたんだろうね」
安藤家四兄弟の日常会話本。
副社長(父親)と幼い頃の四兄弟との子育て本。
四兄弟と真智との関わり本。
四兄弟と安藤子猫との内緒の恋愛本。
四兄弟の軽いBL本。
この五冊が安藤映捨徒名義で公式販売されたのだが、最初はそれほど売れ行きは良くなかった。
が、購入後に出口ゲートを抜けた後に中身を確認した子猫のYoungNatterの呟きがきっかけとなり、薄い本とは別の購入待機列でその呟きを確認した子猫が薄い本の存在を知る、という口コミで広がった形だ。
「クルクムには早くも映捨徒に感化された乃絵流達が創作活動に励んでいるみたいね」
燈子の報告にピクリと反応する多恵子だが、ここで言う乃絵流は安藤家の絵を描く絵師の事であり、安藤家の妹コスプレしている多恵子の事ではない。
「映捨徒先生の次回作、期待してますね」
伊吹のからかいを受け、マチルダは鳴らない口笛を吹いている。
『こちからの報告は以上となります。また改めて書面にて報告致します。
私は明日、データセンターの方へ向かう予定です』
「うん。イリヤ、ありがとう。
予定では一週間だったね。現地のスタッフによろしく伝えておいて」
『分かりました、また連絡致します』




