ヴァージニア・ポルツ
ジニーは現在、VividColorsでなぎなみ動画開発担当執行役員として働いている。
なぎなみ動画は今後、VividColorsの主体事業となる為、子会社は立ち上げずにVividColors本体の管轄業務として位置付けられている。
転生者ではなく、本人の実力で現在の地位を確立している、とても優秀な女性だ。
すでになぎなみ動画の運営は軌道に乗っており、今後は毎月莫大な収益をもたらす事が確定していて、その収益はVividColorsが次々に打ち出すであろう新たな事業の原資となる事が期待されている。
そんなサービスの開発責任者であるジニーは現在、なぎなみ動画の登録アカウントについて情報分析を行っている。
住んでいる国、年齢、よく見る動画の傾向、生配信をリアルタイムで視聴しているか、コメント数は、どんな広告をクリックしたか、視聴時間帯は、一日の視聴時間は、などの個人データから全体のデータまで、詳細に確認していく。
これらのデータが何に役立つかは分からないが、間違いなくいずれ役立つはずだ。
「ん? ジニー、責任者が残業するのはダメだろう。
部下達が就業時間内に仕事を終わらせるように指導する立場なんだから、自分が残業してたら意味がないだろうに」
時間は夜の八時。
副社長室に忘れ物をした伊吹が、作業をしているジニーを発見する。
VividColorsはフレックスタイム制を導入しており、伊吹が遅くから生配信を行う際に対応出来るよう遅くに出社して遅くに帰る従業員もいるが、今日はそのような予定はない。
「ボス、お疲れ様です。
キリの良いところまで終わらせたら帰ります」
ジニーはマチルダやキャリーに日本語を教えてもらっている。
読み書きについてはまだまだだが、日常会話についてはほぼ問題ないレベルになった。
「僕の為に働いてくれるのは嬉しいけど、それで倒れられたら僕は罪悪感で押し潰されてしまうだろうな」
「え? ざいあくかん??」
ジニーがわざとらしく理解していない振りをする。
そんなジニーのとぼけた素振りに苦笑いを見せ、伊吹は隣の椅子に座ってジニーが見ていたパソコンのモニターを覗く。
「あ、英語だから全く分からんな」
「これはボスの事が大好きな世界中の女性のデータです。
これがあればいずれ、世界征服出来ます」
「罪悪感は分からないのに世界征服は分かるんだな」
「罪悪感が分かったら、世界征服なんて出来ませんよ?」
「誰がトンチで答えろって言ったよ」
そんな会話をしながらも、ジニーはキーボードを打つ手を止めず、資料の作成を続ける。
「今日は終わりです。
ボス、疲れた部下を労って下さいませ」
コテンと首を傾け、伊吹の肩に預けるジニー。
「じゃあ食堂行くか?
僕はもう食べたけど、焼き肉か寿司かラーメンか、何が良い?」
大抵の料理であれば、二十四時間体制で待機している伊吹の侍女が用意してくれる。
だが、ジニーが希望したのは侍女の料理ではなかった。
「そうですねぇ、私はボスが食べたいです」
「また直球で来たな。
それにしても、先に夕食を済ませた方が良くないか?」
「それはそうですね。
では、手早く食べられるパスタを頂こうかと思います」
伊吹は控えていた侍女にお願いして、ジニーのパスタを用意してもらう。
そして食堂へ移動し、こたつのある畳の個室へ入る二人。ジニーはすっかりこたつの虜となっている。
こたつの中で、ジニーは手を伸ばして伊吹の太ももを撫でたりしてちょっかいを掛ける。
ジニーは割とスキンシップが多く、米国人特有の直球的な感情表現で伊吹に愛を伝える。
「世界中にボスの事が好きな女がいますけど、今一番近くにいるのは私です。
今は私だけを見て下さいね?」
「もちろんだよ、ジニー。愛してるよ」
「まぁ、嬉しいです。
私も心からボスを愛していますよ。ふふふっ」
ジニーが笑ったのは、伊吹が顔を真っ赤にさせているからだ。
伊吹は普段、生配信などで安藤子猫に対して歯の浮くようなセリフを囁いたりしているのに、こうして面と向かって愛していると伝える事を非常に恥ずかしがる。
今も相手が米国人であり、愛していると言わないと伝わらない文化圏の女性であると認識しているから口に出しているが、他の女性であればこんなに直球で愛しているなどなかなか言えないタイプだ。
侍女が作った茄子のミートソースパスタを堪能し、満足したジニー。
「ボス、お待たせしました。さぁ、ズッコンバッコンしに行きましょう!
今日こそは負けませんよ?」
こういう明け透けなところは直してほしいなと思う伊吹であった。




