緊急記者会見後半:新サービス発表
「世界で六億人の登録者、そして二千万人の有料会員を突破した『なぎなみ動画』の価値がたった三百八十億円と言ってのけた男性は、本当に企業価値を理解した上で買収提案をしたのでしょうか。
月額二千円を有料会員から頂くだけで、VividColorsには毎月四百億円の売上を得る事になります。それだけで年商は四千八百億円です。
その他広告収益を頂くビジネスモデルも打ち出しており、『月明かりの使者』のCD発売や『ゆるりクラフト生活』などのサービス提供も発表しております。
『ゆるクラ』の月額利用料はまだ公表しておりませんが、有料サービスである事は発表済みなのです。
それなのに、買収提案の金額が何故たったの三百八十億円なのか。
理解に苦しみます。
男性が仰った事はそれだけではありません。
もしもAlphadealの提案が不満なのであれば、日本から検索事業を撤退させる考えがあると脅して来たのです。
これでは提案ではなく脅迫です。
今までそうやって無理やり力でねじ伏せて買収を繰り返し、今のAlphadealがあるのかも知れませんが、私達VividColorsは屈しません。
Alphadealが日本からGoolGoalの検索事業を撤退させるのであれば、VividColorsが新しい検索事業の提供を開始しましょう!
本来であればもっと準備期間が必要なのですが、そうも言っていられない状況になってしまいました。
これはアメリカから突き付けられた宣戦布告と言っても過言ではありません。
こちらもそれ相応の態度を示さなければなりません。
VividColorsが打ち出す新しい検索サービスの名前は『アマテラス』です。
貴女の個人サイトも企業の公式サイトも、『アマテラス』に登録する事でいち早く検索結果として表示する事が出来ます。
今画面に表示されておりますコメントをクリックして頂きますと、登録の仕方を説明した動画のページへ移動します。
わざわざ検索サービスに登録しなくても、いずれは検索サービスの方からサイトを補足して検索結果として表示するのですが、『アマテラス』は見切り発車の状態です。
より多くのサイト管理者からの登録をお願いしたいと思っております。
皆様、何卒ご協力をお願い致します」
藍子が深々と頭を下げると、再びフラッシュがパシャパシャと光り、シャッターを切る音とノートパソコンのキーボードを叩く音が鳴り響く。
藍子が頭を上げ、また口を開く。
「また、『アマテラス』では高度な情報漏洩防止技術を用いたウェブメールサービスの提供も開始致します。
『なぎなみ動画』のアカウントに紐付ける事で、一括管理出来るように設計されており、『なぎなみ動画』の無料会員には三十ギガバイト、有料会員には基本プランとして百ギガバイト、追加オプションとして一テラバイトまでのオンラインストレージがご利用頂けます。
さらには、企業用アカウントには上位有料プランもご用意致しておりますので、こちらについても動画をご参照下さいませ」
配信画面では、藍子の後ろに『アマテラス』の簡単な説明動画が再生されている。
安藤家四兄弟が出演する動画であり、「世界の隅々まで照らす検索サービス」というキャッチコピーが表示されている。
世界で使われている上位言語に対応しており、検索結果に表示される広告をデフォルメされた安藤家がアニメーションで指を差してアピールする事が出来るプランの説明なども含まれており、コメント欄が大いに賑わっている。
「さて、以上が弊社から報道陣、及び視聴者様へお伝えしたい内容となります。
ここまで駆け足でお話致しましたので、ご不明な点やご質問等があると思います。
ここからは質疑応答の司会進行として、国営放送の安久利アナウンサーにお任せ致します。
安久利さん、よろしくお願い致します」
会見スペースの脇から安久利伸子アナウンサーが登場し、藍子の座る会見スペースから見て斜め右前の机の前に立つ。
「安久利と申します。
質問のある方は挙手をし、私が指名した後にお名前と所属を名乗って下さい。
なお、お顔が『なぎなみ動画』の生配信で放映される事については各社から事前にご了解を得ております」
質問者の顔を生配信に乗せる事で、無責任な質問や発言をしにくくさせる狙いがある。
「はい、そちらのグレーのジャケットの方、お願いします」
会見会場内で控えていたスタッフが指名された質問者へマイクを渡す。
「経産新聞の飯塚です。
本日は副社長のお姿がないようですが、今現在どちらにお出でなのでしょうか。
GoolGoal社長と対峙された事でお疲れが出たのかと心配致しております」
飯塚の質問を受けて、藍子が答える。
「副社長は現在、ある女性に付き添っております。
実は、社内にいた女性がAlphadealの最高経営責任者である男性に衝突されまして、転倒させられたのです。
女性は現在、寝室で静養しております」
会見場内がざわざわと騒がしくなる。
藍子の発言内容をよくよく聞くと、社内にいた女性とは副社長のお相手なのではないかという予測が立てられる。
もしもその女性が従業員なのであれば従業員と表現するであろうし、侍女ならば侍女、執事なら執事と言うはずだ。
わざわざ社内にいた女性、という表現をしたのは、副社長の妻かそれに近しいお相手であると導き出される。
「すみません、このお話については現時点であまり詳細な内容をお話する事が出来ません。
申し訳ないですが、次の質問をお願いします」
「では、そちらの黒いジャケットの方、お願いします」
亜久里アナに指名された記者が会場スタッフからマイクを受け取り、立ち上がって発言する。
「皇国経済新聞、長谷部と申します。
本来であれば、国外の男性が訪問されるとなるとある程度の歓待が行われるかと思うのですが、交渉が決裂する前は晩餐会や立食パーティーなどの予定はされていたのでしょうか?」
「いいえ、Alphadealから警備の都合上、訪問される人数や素性を明かせないと言われていましたので、何の予定も立てておりませんでした。
男性が来られる事についても正式にお聞きしておりませんでしたし、空港に着いたのに迎えが来ていないのは何故かと聞かれた時はびっくりしてしまいました。
私達は飛行機の到着する空港も時間も聞かされおらず……」
こうして、Alphadealから一切反論出来ない状況の中、VividColorsの会見は続けられていった。




