少女のやっかみ
図鑑を取りに屋敷に戻るドラフォンの後姿を見送っていると、
「あなた、何様のつもり?」
と、背後から恐い声で問いかけられた。
「え?」
ロロが後ろを振り返ると、声と同じく恐い形相をして睨みつけている少女がいた。
あまり話をしたことはないものの、同じ学園でドラフォンのクラスの生徒だ。
「こっちに来てからというものの、ドラフォン様とずっと二人で話をして! 先ほどはドラフォン様の手まで握っていたじゃない」
(困ったことになったわ)
慌ててフィオナの姿を探すものの、あいにくフィオナは見当たらなかった。何か用事でもあってこの場を離れたのだろう。
他に助けてくれそうな少女はいないか見渡すものの、皆気まずそうに眼をそらしてしまう。
おそらく彼女はそれなりの貴族の令嬢なのだ。
身分の差はこの国では絶対に近い。
何か問題を起こせば、子供だけの問題で収まらず、親にまで迷惑がかかるかもしれないのだ。
ロロに噛みつくこの少女を止められる人間はいないようだ。
少女は尚も畳みかける。
「聞くと、あなた平民だっていうじゃない」
「…ええ、まあ」
「しかも孤児なんでしょ」
「はい…」
「平民で孤児なのに、ただ魔力があるだけであのルーク様のお世話になっているだなんてなんて図々しい!」
(たしかに魔力があったおかげでこうなってるわよね)
平民の魔力持ちは、魔力なしの貴族から疎まれることはよくある。この国では魔力を持つ者は身分を超えて優遇されがちだ。それを良く思わない貴族は多いのだ。
「それだけでもおこがましいのに、ドラフォン様まで手に入れようとするなんて!」
「い、いや…そんなつもりは…」
「黙りなさい!」
少女はどんどんヒートアップしていく。
おそらく、自分で言ってさらに自分の怒りを増長させている。
なんとも厄介だ。
「ドレスだって、昼間のお茶会だというのに黒だなんて!」
「いや、これはユーリに選んで…」
「まあ、ユーリ様のせいにするの!? 信じられない!」
「い、いや…」
(フィオナ、早く帰ってきて…!!)
心からそう願う。
ふとその少女がロロが付けていたバラの髪飾りに目を付けた。
「なによ、こんな飾りまでつけちゃって…生意気よ!」
「痛い…!!」
強引にロロの髪から髪飾りを取ってしまった。
「やめて! 返して! それはユーリからもらった大事な髪飾りなの!」
小柄なロロに対して少女は背が高かった。必死に取り返そうとするロロを面白がるように髪飾りを頭上に上げて避ける。
「分不相応な物なんて必要ないわ! 必要ないなら、かわりにわたしが捨ててあげるわ」
「やめて! お願い!!!」
取り返そうとするロロを振り切って、その少女はロロの髪飾りを力いっぱい傍の木の上に向けて投げてしまった。