久しぶりの恋心と新たな開発
■ 2018年6月23日(土)
今朝は目覚ましが4:00に鳴ったので起き上がった。今日は霊石山へ行く日なのだ。今週は人格入れ替わり現象があって少々疲れている感じがあったのだが、山に行けばそんな疲れも吹っ飛ぶだろうと思う。洗面所で顔を洗って、トーストを焼いてインスタントコーヒーを作る。リビングのカーテンを開けて外を見ているとまだ薄暗いが天気は晴れると思われる。朝食をさっさと終えて、自分の部屋に入って登山服に着替える。登山道具は昨日の夜のうちに準備をしておいたので、あとはザックと登山靴を車に積んで5:30になれば出発すればいい。まだまだ時間に余裕があったのでそれまでパソコンの電源を入れて2033年から送られてきたメールを見ていた。次はいよいよ「笹原莉奈に恋心を抱く」という内容だが、本当にこんなことが起こるのだろうか。今のところ俺は莉奈に何の感情も持っていない。それに「たくさん登山に誘うようにすること。告白しないこと」と書いてあるが、6月はもう下旬だし、たくさん登山に誘うといっても7月になってしまう。いきなり告白するようなこと思うが、一応頭に入れておいた。時計を見ると5:20を過ぎていたので、パソコンの電源を切って出発することにした。
笹原莉奈との待ち合わせ場所は、国道に出て北上したところにあるコンビニなので30分以内には着きそうだ。莉奈が送ってきてくれた地図を確認すると場所は大体わかっていた。国道に出て車を走らせていると待ち合わせ場所になっているコンビニに到着した。まだ5:50を過ぎたくらいなので莉奈は来ていない。5分ほど待っていると紺色のTシャツの中に長袖Tシャツを着て濃い茶色のショートパンツに黒のタイツ、登山靴は茶色で小さな赤いザックを背負って歩いてきた莉奈の姿が見えた。俺は車を降りて莉奈と合流した。
「おはよう。莉奈ちゃん。朝早かったけど大丈夫だった?」
「水嶋さん、おはようございます。朝早いのは大丈夫ですよ。今日もよろしくお願いします」
「よろしくね。じゃあ荷物は車の後ろに積んでね。まあ今日は楽しみにしておいてね!」
「はい、とても楽しみです」
莉奈が荷物を車の後ろに積み込んで助手席に乗ってもらって出発した。
「あの、今日はもう一人の山仲間が来るんですよね?いっしーさん(石岡秀之)でしょうか?」
「いっしーは今日仕事なんだよ。もう一人の登山仲間なんだけど、莉奈ちゃんと同じ年の男の子だよ」
「そうなんですね」
「ここから40分ほど行った駅で待ち合わせになってるんだよ。ところで荒知山で一緒にいた長瀬美歩さんだっけ?もう山に行かないの?」
「あのことがあって以来、美歩ちゃんはしばらく山に行かないって言ってました。だから、わたし、一緒に山に行く人いないんですよ」
「そっかあ・・・それは残念だけど、まあ、俺は毎週のように登山してるから莉奈ちゃんさえよかったら誘うね」
「はい。今日も誘っていただけて嬉しいです」
そんな話をしながら車を走らせていて、村瀬真也と待ち合わせしている駅前に着いた。短めでクセのある黒髪に160cmと少し小柄な背丈で大きな目に小顔、黄色のザックに青の長袖Tシャツを着て、黒いトレッキングパンツをはいた村瀬真也が待っていた。すぐに俺の車と気づいて向かってきた。俺と莉奈は車を降りた。
「村瀬君、おはよう」
「水嶋さん、おはようございます」
「こっちは今日、一緒に行く笹原莉奈ちゃんね」
そう紹介すると、莉奈と村瀬真也が顔を合わせた。
「笹原莉奈です。莉奈って呼んでくださいね。今日はよろしくお願いします」
「村瀬真也です。こちらこそよろしくお願いします。じゃあ莉奈さんって呼びます。俺のことは村瀬とか真也って呼んでくれていいですよ」
俺が「二人とも同じ年だから気を遣わず喋ればいいと思うよ」と言ったら村瀬真也が「同じ年なんですね。わかりました」と言った。村瀬真也の荷物を車の後ろへ積み込んで車を出発させた。三人になると沈黙が続いていたが、突然、村瀬真也が話し出した。
「ところで水嶋さんと莉奈さんってどこで知り合ったんですか?」
「ああ、実はね荒知山にナイトハイキング行った時なんだけど・・・」
そう話はじめて荒知山での出来事を村瀬君に話した。さすがの村瀬君もその出会いにびっくりしたようだった。そこに莉奈が話に入ってきて「あの時は本当にありがとうございました」と言う。村瀬君は「まあ、あそこは迷いやすいですからね」とフォローした。俺は話題を変えようと思って霊石山の話をしはじめた。「ところで村瀬君はちゃんと一眼レフカメラを持ってきたの?」と聞いてみると「もちろん持ってきましたよ。それにしても楽しみです」と答えた。そんな話をしながら車を走らせていること1時間30分ほどして霊石山の登山口に到着した。3人とも車を降りて登山準備をはじめた。俺はそんな二人に「すごいのは七合目からだから楽しみにしておいてね」と言っておいた。3人とも登山準備が終わってゆっくりと歩き始めた。登山は常にスローペースで登っていくのが俺の登山スタイルなのだ。息を切らさずにリズミカルに歩くことによって体力を温存しておく。それは母親や登山の先輩から何度も言われてきたことなのだ。五合目まで登ってくると視界は狭いが北側の展望が広がってベンチがある。歩き始めてもう1時間ほど経った。
「ここで一旦休憩しようか」
「はい」
そういって村瀬君と莉奈はペットボトルの水を一口飲んだ。莉奈は「はー綺麗な景色」と呟いた。俺は「まあ、ここも景色いいけど七合目から一気に景色が変わるので楽しみにしておいて」と言っておいた。10分ほど休憩して俺は「じゃあ行こうか」といって再び歩きはじめた。六合目まで登ってきたのだが、ここからはしばらく急登になる。スローペースでその急登を登っていく。俺は後ろを振り向き莉奈の様子を確認したのだが、ちゃんと着いてきていて体力的には大丈夫そうだった。そして、樹林帯を抜けると空が一気に見え急登の終わりが見えた。俺は「もうすぐだからね」と声をかけて登っていった。急登が終わっていよいよ七合目まで登ってきた。そこにはテーブルランドと呼ばれる大地が広がっていた。「うわーすごい!!」と莉奈は大きな声を発した。テーブルランドの大地は解放感がって全体を見渡せる。村瀬君が「これはすごい」と言いながらカメラを取り出して撮影しまくっている。テーブルランドの大地を歩いていき八合目を目指していく。莉奈は「まるで別世界にいるみたい」とかなり気に入ったようだった。辺り一面に石灰岩が突出して莉奈の言う通り、ここはまるで別世界なのだ。俺もカメラを出して撮影しまくっていた。八合目は大地の途中にあって九合目を目指す。村瀬君も莉奈も感嘆の声をあげながら歩いていた。九合目まで登ってくると避難小屋があった。
「昼食は避難小屋で食べようと思ってたんだけど、今日は天気もいいし風もないから外で作って食べようか」
「そうですね。水嶋さん、今日は焼きそばを準備してくれているんですよね?」
「うん。みんなで焼きそばを作って食べよう」
「わかりました」
「とりあえず山頂に登って、少し北に行ったところにいい場所があるからさっさと登頂しよう」
あらかじめ、今日のお昼は焼きそばを俺が準備して持っていくと伝えておいたので、二人とも非常食だけ持ってきていたようだ。あちこちに石灰岩が突出した山容のピークへ登っていき、霊石山山頂に到着した。せっかくなので三人で記念撮影を撮ろうということになり、山頂にいた40代くらいの登山者に撮ってもらうことにした。山頂看板の前に俺が左で莉奈が真ん中、村瀬君が右にしゃがんで記念撮影を撮った。そこから北に行ったところにちょうどいい平坦な広場があって、そこにレジャーシートを敷いて、バーナーとフライパンを出して肉と野菜を最初に焼いて、中華麺を蒸しながら焼きそばを作って三人で食べた。山で食べる食事は何でも美味しく感じるのだ。俺はふと莉奈のほうを見て思った。莉奈はまだ登山歴が浅くてこんなところがあるのを知らないんだ。他にも俺はたくさん莉奈に見せてあげたい。そんな莉奈の横顔をみているとすごく満足していて輝いているように見えて、少し胸がキュンとした。この感情は俺が忘れていたもので久しぶりのように思えた。思わず俺は莉奈に話しかけた。
「莉奈ちゃん、霊石山はどう?満足してもらえたかな?」
「はい!とても素晴らしいです!水嶋さん、こんなところを知っているなんてすごいです」
「それならよかった。他にもまだまだ莉奈ちゃんが知らないところを見せてあげたいよ」
「まだまだわたしの知らない景色があるんですね。是非、見せてもらいたいです」
そこに村瀬君が話に入ってきた。
「水嶋さん、これはすごいところですよ。前から行きたかったんですが、これほどまでとは思いませんでした」
「そうでしょ。村瀬君、撮影しまくってるもんね」
村瀬君も俺と同じで秘境感やこういったカルスト地形を見るのが好きで山の好みが合うのだ。焼きそばを食べ終えるとお湯を沸かして食後にコーヒーを飲んでいた。俺はまた莉奈のほうを見た。美人というより可愛らしいのだが、今日この景色をみて喜んでいる表情を見ているとなんだか胸がドキドキしてきた。こんな景色をみながらその感情を共感できることが嬉しいし、莉奈と一緒に山に登ると楽しいって思える。荒知山で出会った時は何も感じなかったけど、今回はじめて一緒に山に登ってそう思えたのだ。
その後、バーナーとレジャーシートを片付けて、歩きはじめた。霊石山の稜線を歩きながら景色を眺めていると時々村瀬君と莉奈は感嘆の声をあげていた。俺はそんな莉奈の表情をチラチラと見ながら考えていた。俺は莉奈をどうしたいんだろう。なんだか莉奈を見ると胸がドキドキする。この感覚はまるで高校3年生の時、片桐杏奈を見て感じていたものに似ている。というか同じなのかもしれない。カルスト地形が見えなくなるところまで下ってきたら、あとはひたすら下っていくだけになった。下っている間も俺の頭の中は莉奈のことばかり考えていた。そしてついに登山口まで戻ってきた。駐車した場所で荷物を車に積み込むと助手席に莉奈が乗って、後部座席に村瀬君が乗った。二人ともかなり今日の登山に満足しているようだった。
帰りの車の中ではさすがに疲れたのか沈黙が続いていた。助手席にいる莉奈をチラッと見てみると眠っていた。その寝顔をみていると可愛いと感じた。その時、俺は莉奈に恋をしてしまったと気がついたのだ。6つも年下の女の子に恋心を抱くなんて思いもしなかったが、この感覚はまさに片桐杏奈に片思いをしていた時と同じなのだ。村瀬君の最寄り駅に着いた。荷物を降ろして三人で「お疲れ様でした」と言って村瀬君は帰って行った。助手席に乗っている莉奈はもう起きて黙っている。俺は思わず話しかけた。
「莉奈ちゃん、また電話したり山に誘ってもいいかな?」
「はい!全然いいですよ。夜7時以降なら電話に出れると思います」
「莉奈ちゃんにね、山のこととかいろいろ話たいことたくさんあるんだよ」
「そうなんですね。わたしも水嶋さんの山のお話聞きたいです」
「じゃあ、時々、電話したり、毎週山に行ってるから、誘える時には莉奈ちゃんを誘うようにするね」
「はい。よろしくお願いします」
「嫌ってほど誘いまくるかもしれないけどいいかな?」
「そんなに誘ってくれるんですか?よろしくお願いします」
そんな話をしているとあっという間に莉奈の家近くのコンビニに到着した。莉奈は「今日は本当にありがとうございました。すごく良かったです」と言って荷物を車から降ろした。そして車を発進させても手をふってくれていた。それにしても莉奈に会うのはこれで三回目になるのだが、一緒に山に行っただけで恋心を抱いてしまうことになるとは思わなかった。俺がこんな感情になれたのは2006年8月25日の夢かタイムリープをして片桐杏奈に告白して、忘れていた感情を思い出したからだということがわかる。2033年のから送られてきたメールに書いていたことがまたもや当たったのだ。
■ 2018年6月25日(月)
週明けはどうも憂鬱な気分になることが多い。これから一週間、また仕事をしないといけないのだ。今朝は雨が本降りになっていた。雨の日の出勤はかなり面倒に思いながら、傘をさしながら駅に向かって歩いていった。電車の中で週間天気を見ていると土曜日は曇り時々雨となっていてテンションが下がっていた。10:00前に出勤して、月曜日の恒例行事である朝礼がはじまった。社長の長い話がはじまり毎回のことながら上の空で話を聞いていた。それにしても社長は毎週のようによく話すことがあるなあと思っていた。社長の話が終わって、西浦真美が「今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼は終わった。
自分の席に座ってパソコンの電源を入れると日根野部長に呼び出された。月曜日の朝から何の話だろうと思いながら日根野部長の席へ向かった。
「水嶋君、新しいシステム開発をお願いしたい。また君がリーダーとして開発メンバーを引っ張っていってほしい」
「わかりました。それでシステム開発の内容はどういったものでしょうか?」
「ウェブサーバー自動構築システムだ。今はウェブサーバーを手動で設定して構築しているのを自動で構築するシステムを開発してほしい。仕様書は既にこの書類にまとめてあるので目を通しておいてほしい」
「了解しました。仕様書を見て設計書を作ってから開発していきます。それで開発メンバーはどうなっているんでしょうか?」
「デザイナーは池上さんで、プログラマーは水嶋君と児島君の二人でやってもらいたい」
「開発メンバーは三人ということでしょうか?」
「そういうことになるね。三人で頑張ってほしい。あと前回のメール管理システムの時のような障害を起こさないように注意してほしい」
「了解しました。では、私が午前中に仕様書を確認して、午後から三人で会議したいのですが、二時間ほど会議室使用の許可をいただけるでしょうか?」
「わかった。午後に会議室の空き時間を確認してこちらで申請しておく」
「それと納期はいつまででしょうか?」
「二週間で開発してほしいんだが、難しいようだったら少しくらいであれば納期は伸ばしてもいいので頑張ってほしい」
「了解しました。では、よろしくお願いします」
俺は仕様書を渡されて自分の席に戻った。仕様書を読んでいるとそこまで難しいシステムではない感じがした。日根野部長の言ってた通り、この仕様だと二週間もあれば完成するだろう。ところがこの仕様書は表面上では簡単であったが、実はとんでもない作業量になってしまうことになるとはこの時予想できてなかった。日根野部長が今日の14:00~16:00まで会議室をおさえたと言ってきた。俺はすぐに開発メンバーである児島信二と池上有希に14:00から会議に参加するように言った。
昼食を終えて14:00になったので、開発メンバーの三人で会議室へ入った。俺は午前中に読んでおいた仕様書をコピーしておいて二人に手渡して、詳しい内容をこと細かく説明していった。今回の開発はウェブサーバー自動構築システムでドメイン名などの必要な情報を入力してボタンを押すと自動的にウェブサーバーに反映されるというものという説明をした。
「池上さんは仕様書にあるワイヤーを見ながらインターフェイスのデザインをお願いしたいけど、どのくらいで出来そう?」
「一週間もあればできると思います」
「児島君はフロント部分のプログラムの設計書を作成してほしい。このシステムだと明日には出来そうだよね?」
「はい。明日には出来そうです」
「じゃあ俺は明日、サーバー側のシステムプログラムの設計書を作成するので、出来上がったらお互いに設計書の見落としチェックをして明後日からプログラミングに着手していこう」
「わかりました」
「他に何か見落とし等、気になることはないかな?」
俺も含めて三人とも仕様書を見ながら沈黙していた。そして児島信二が口を開いた。
「水嶋さん、これってウェブサーバーだけなんですよね?新しいドメイン名の場合、ネームサーバーはどうなるのでしょうか?」
「そういえばそうだね。新しいドメイン名だったり、サブドメインだった場合、ネームサーバーは反映されないので、そこは手動でやるしかなさそう」
「でも、この仕様書の内容だとネームサーバーも反映させないと自動化になってないと思うんですがどうなんでしょうか?」
「うーん、たしかにネームサーバーも反映させないと自動化にならないよね。その部分に関しては日根野部長に聞いてみるよ」
「あと、ウェブサーバーのリロードに失敗した場合の処理も必要になりますよね?」
「それはシステムプログラムの設計書に入れておくよ」
「わかりました」
「他に気になる部分とかないかな?」
「とりあえず大丈夫です」
「デザインのほうも大丈夫です」
「じゃあ、それぞれ着手していって」
「はい」
これで開発メンバーの会議が終わった。俺はすぐに日根野部長のところへ行き、児島信二が指摘したネームサーバーの反映について聞いてみた。すると「もちろん、ネームサーバーも反映してもらわないと自動化にならない」と言われた。俺は「了解しました」と言って自分の席に戻ったのだが、ネームサーバーの反映まで自動化させるのはかなり難しそうだと思った。ウェブサーバーは反映するサーバーそのものなので、プログラムを動かすことができるのだが、ネームサーバーは別のサーバーなのでプログラムを動かすことができないのだ。それにネームサーバーの反映に失敗すると全てのドメインが止まってしまうというリスクもある。この日はずっとネームサーバーをどうやって反映させるか、そのことで頭がいっぱいになっていた。
■ 2018年6月26日(火)
今朝も雨の中10:00前に出勤した。昨日から考えていたネームサーバーの反映についてはまだロジックが思いつかない。一つだけ方法はあるのだが、特殊なプログラムを打たないといけないのと、かなり時間がかかってしまうのとセキュリティ的にもリスクが高い。自分の席に座ってシステムプログラムの設計書を作りはじめた。児島信二も同じようにフロント部分の設計書を作っているようだ。昼休みになって、外食先のランチを食べながら、ネームサーバーの反映について考えてみたが、やはり時間はかかるが特殊なプログラムを打つしか方法はないのだ。児島信二は技術的にシステムプログラムを組むのは難しいので俺がやるしかない。これはしばらくの間、残業続きになりそうだと思った。午後になって、ウェブサーバーの自動反映の設計書はできた。あとはネームサーバーの自動反映の設計書を作りはじめた。児島信二が「設計書ができました」と言ったが、俺は「児島君、俺のほうはまだなのでちょっと待ってね」と言いながらネームサーバーの自動反映の設計書を作っていった。16:00過ぎにネームサーバーの設計書を完成させた。
「児島君、お待たせ。じゃあお互いの設計書のチェックをはじめようか」
「わかりました」
俺はウェブサーバーとネームサーバーの自動反映の設計書を児島信二に渡して、児島信二からはフロント側の設計書を渡された。さすが児島信二は細かいところによく気がついている。フロント側の設計には何の問題もなさそうだ。児島信二にサーバー側の知識があればいいのだが、サーバー管理に携われることなんてなかなかないだろう。俺は「児島君、フロント側の設計は完璧だと思う」と言ったら、児島信二が不思議そうに話しかけてきた。
「水嶋さん、ウェブサーバー側の設計書のリロードチェックってありますけど、こんなことできるんでしょうか?」
「ウェブサーバーの設定ファイルのチェックができるんだよ。そのチェックした結果の文字列を判断して、エラーだった場合はリロードせずに失敗しましたとフロント側に表示させてほしい」
「そんなことができるんですね。わかりました。それとネームサーバー側の設計書なんですが、ロジックはわかりました。でも、これどうやって実現させるんですか?今のウェブプログラム言語ではサーバーログインはできたとしても設定ファイルを持っていくことなんてできないですよね?」
「だから別の言語でウェブプログラムを組むしかないんだよ。設定ファイルを書き出して、それをネームサーバーにアップロードした後、ログインして反映させるようにする」
「なるほど。水嶋さんはその言語プログラムは打てるんですか?」
「俺も数年前に打った言語だから、思い出しながら打たないといけないんだけどね」
「時間的にそれは大丈夫なんでしょうか?かなり大変なプログラムになりそうですけど、水嶋さんが一人で打つんですよね?」
「俺しかできないからそうなるね。でも仕方ないよ。しばらく残業続きになると思う」
「水嶋さん、無理して体調崩したりしないようにしてくださいね」
「うん、ありがとう」
ウェブサーバーとネームサーバーの自動反映をさせるということは、サーバー管理者である水谷主任に設計書を見せてプログラム設置の許可が必要になる。俺は二つの設計書を印刷して、水谷主任のところへ向かった。設計書類を水谷主任に渡して、目を通してもらった。水谷主任は少し難しい顔をしながら設計書を見ていた。そして話しかけてきた。
「水嶋さん、ウェブサーバー側の自動反映の設計は特に問題ないんだけど、ネームサーバー側の自動反映の設計は何のプログラム言語で実装するつもり?」
「カピですね。これしかネームサーバーにアクセスする方法がありません。ですので、水谷さんには本番のウェブサーバーにカピをインストールしていただきたいんです。あとウェブサーバーからネームサーバーにログインさせるプログラム用のアカウントを一つ作っていただきたいです」
「カピのインストールもネームサーバーにアカウントを作るのも別にいいんだけど、水嶋君、このプログラムをまさか一人で組むつもり?」
「私しかできないので、一人で組むしかないんです。カピが打てる人なんてうちの会社にはいませんので・・・」
「ネームサーバー側はかなり大変なプログラムになると思うけど大丈夫?」
「それでもやるしかないんです」
「わかった。じゃあプログラムが出来たら設置申請書を提出してくれれば許可するので」
「ありがとうございます」
これで水谷主任から設置許可はとれそうなので明日からプログラムに着手することになるのだが、これから何日、残業すればいいのかわからない。
19:00になって勤務終了時間になったのでさっさと退社した。家に帰って夕食を終えてシャワーを浴びた後、しばらく連絡できそうにないので、笹原莉奈に電話をかけた。そしていろんな山の話をしたり7月の土日の予定を聞いて、空いてる日には沢登りや登山に誘っておいた。7月のほとんどの土日の予定は空いてるみたいだった。ちなみに7月は沢登りがメインになっている。
しかし、今回のウェブサーバー自動構築システムの開発で6月が終われないという不思議な現象が起こるのだが、この時はまだそんなことになるとは知る由もなかった。