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未来からの伝言  作者: 涼
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世界線分岐の謎

■ 2019年2月5日(火)


朝10:00前に出勤して自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。2033年から送られてきたメールを見てから、毎日のように池上有希の近未来透視をしていたが、階段から転落するような出来事はなかった。今日も池上有希が「おはようございます」と出勤してきて席についたので、俺は左斜め前の池上有希の目を見てこの先どうなるんだろうと考えた。すると頭に映像が浮かんだ。池上有希が複数枚のファイルを持って階段を下りてきている。足を滑らせて階段から転落した。そこで映像が止まった。池上有希が階段から転落するのは今日ということになる。しかしそれは何時に起こるんだろうか。何のために池上有希は複数のファイルを持って階段を下りることになるんだろう。午前中からずっと池上有希をチラチラ見ているが、動く様子はない。結局午前中には何も起こらなかった。


午後の業務になってからも池上有希が動く様子はなかった。ところが15:30過ぎに日根野部長が池上有希のところに行った。そして日根野部長は「池上さん、これまでのデザイン関連の資料を上の階にある倉庫から取ってきてほしい」と言った。俺はこれだと思った。俺は日根野部長に「資料が多いので私も一緒についていきます」と言った。日根野部長は「じゃあ水嶋君もお願いする」と言ったので俺は池上有希に「一緒に取りに行こう」と言った。そして池上有希と二人で上の階にある倉庫から複数のファイルを取り出して、俺がファイルを持つことにした。池上有希は「すぐ下の階だから階段で行こう」と言ったが、俺は「この資料、結構重いからエレベーターで行こう」と言った。池上有希は「わかりました」と言ってエレベーターのボタンを押した。そしてエレベーターを使って下の階に戻って日根野部長のところへ資料を持っていった。これで池上有希の階段からの転落は防いだはずだ。俺はすぐにスマホを見て世界線の数値を見た。すると5.68になっていた。池上有希の階段からの転落を未然に防いだことで世界線の状態が少し変わったようだ。その後、この日は何事も起こらず勤務時間終了の19:00になった。俺はさっさと退社して帰宅した。


■ 2019年2月9日(土)


朝4:00に目が覚めた。今日は莉奈と高日ヶ岳にバックカントリースキーに行く予定だ。バックカントリースキーといってもゲレンデのトップから1時間ほど雪山登山をしてスキーで15分ほどで下ってこれる。初心者向けのバックカントリースキーのコースだ。方向的に莉奈の家のほうに行くので、待ち合わせは莉奈の家近くのコンビニエンスストアの前に朝6:00になっている。静かにキッチンへ行って朝食にトーストを焼いて、インスタントコーヒーをカップに入れた。そして朝食を食べ終えて部屋に戻ってスキー板とスキー靴、ザックを持って、静かに階段を下りて玄関の前に置いた。そして5:30前になったので急いで荷物を車に積み込んで莉奈の家近くまで車を走らせた。


莉奈の家近くのコンビニエンスストアに到着したのは5:55過ぎだった。既に莉奈は到着していてスキー靴と茶色いザックを持ってきていた。莉奈は「今日の荷物は重いんだけど、これ全部背負って登るの?」と言った。俺は「そうだよ。スキー板にスキー靴を取り付けてザックの両端に取り付けて登るんだよ」と言った。莉奈は「重そう」といいながら荷物を車に積んだ。そして莉奈は助手席に乗って車を高日ヶ岳へ向かって走らせた。


車内で少し莉奈と話をしていたが、高速道路に入ると莉奈は眠ってしまった。俺は好きな音楽を流しながら高速道路を走った。途中でトイレ休憩をするためにパーキングエリアに止まった。莉奈はかなり眠そうな顔をしながら車から降りてきた。そして10分ほど休憩して再び車を走らせた。今日の莉奈はかなり寝不足なのかまた助手席で眠っていた。まあ、これから雪山登山をするので寝かせておいたほうがいいと思ったので、俺はそのまま車を走らせた。そしてインターチェンジを出て高日スキー場へ向かった。高日スキー場の駐車場に到着すると莉奈を起こして登山の準備をした。


高日スキー場の受付で登山届を出してゴンドラに乗って高日スキー場のゲレンデトップまで上がっていった。ゴンドラを降りるとゲレンデトップには人で溢れかえっていた。時間は9:50なのでここから1時間ほど登山してスキーで下るとちょうど昼過ぎになるだろう。そして俺と莉奈は立入禁止のロープをまたいで高日ヶ岳の山頂を目指した。莉奈はザックが重いといいながらも最初の急登をひたすら登り続けていった。今日は雲一つない快晴で霧氷も見れる。急登が終わると東側にはアルプス山脈が望めて大嶽山なども一望できる。莉奈は景色を見ながら「あれがアルプスなんだね。いつかアルプスに行きたいな」と言った。俺はその言葉を聞いて少し悲しくなってきた。もし莉奈との未来があれば今年は一緒にアルプスに行きたい。あの山もこの山も登りたいとアルプス山脈を眺めながらそう思った。そこからしばらくはなだからな登りが続く。ときどき雪にズボズボと足がハマってしまうが、ワカンやスノーシューを出すほどでもなかった。そしてさらなる急登を少し登ると一つ目のピークがあった。向かいには高日ヶ岳の山頂が見える。ここは小高日ヶ岳と呼ばれるピークで少し休憩することにした。小高日ヶ岳のピークから少し下ると今度は高日ヶ岳への登りがはじまった。この急登を登りきった先が山頂なのだ。俺と莉奈はスローペースで急登を登っていった。莉奈はすこし息を切らしていたが、なんとか急登を登り切った。そしてその先に高日ヶ岳の山頂が見えた。


高日ヶ岳山頂は標高1710メートルで北東にはでかでかと迫力ある標高2700メートルの白岳の山容が望める。1パーティーの登山者はいたが人はほとんどいない。真っ青な空の下でこれほどの迫力ある白岳の山容が望める場所はここしかない。莉奈は「あの二つの山は何?」と聞いてきたので俺は「あれは白岳でその右側が右ヶ岳だよ」と言った。莉奈は「こうやって迫力ある雪山を眺めるのもいいよね。祐樹君はあの白岳に登ったことあるの?」と聞いてきたので俺は「あそこも登ってバックカントリースキーで下ったよ」と言った。莉奈は「へえーわたしもいつか行けるかな?」と言ったので俺は悲しい表情をしながら「きっと行けるよ」と言った。莉奈は「祐樹君、どうして最近、悲しい表情をしてるの?」と聞いてきた。俺はごまかすように「そんな表情してた?悲しいことはないんだけどね」と言った。そして俺はザックからバーナーを出してお湯を沸かした。そして二つの紙コップにインスタントコーヒーを入れてお湯を注いだ。俺と莉奈は二人でコーヒーを飲みながら迫力ある白岳の景色を眺めていた。


俺と莉奈はスキー靴をはいてザックに登山靴を片付けてスキー板を装着した。俺は「莉奈、今まで登ってきたところを今度はスキーで滑って下りていくよ」と言った。莉奈は「登ってきたところをスキーで滑っていくなんて楽しそうだね」と言った。そして俺が最初にスキーで滑っていった。急斜面を滑った後、ストックをあげて莉奈に合図を送った。すると莉奈が高日ヶ岳の山頂からスキーで滑ってきた。スキー場の雪質とは全く違うが、かなり滑りやすい。莉奈が俺のところまで滑ってくると「これ超楽しいね!」と言った。そして一旦スキー板をはずして小高日ヶ岳へ登り返してそこからまたスキー板を装着した。そのまま樹林帯の中をスキーで滑っていった。こういう樹林帯の中を滑るのもバックカントリースキーの醍醐味といえる。樹林帯を抜けると最初の急登のトップまで戻ってきた。下には高日スキー場のゲレンデトップが見える。そこに向かって俺と莉奈はスキーで滑っていった。莉奈はすごく楽しそうに斜面を滑りながら「楽しいね」と言っている。そして立入禁止のロープをまたいで高日スキー場のゲレンデトップに戻った。そこからは人が多いゲレンデをひたすらスキーで滑っていった。このスキー場のゲレンデは広くてゲレンデの下まで滑走するのに結構時間がかかった。ゲレンデの一番下まで滑り下りてからスキー板を外してレストランに入った。もう12:30になっているので昼食にちょうどいい時間なのだ。


レストランの中で俺はカツ丼セット、莉奈はロコモコセットを注文した。人が多くてレストランの席を探すのに苦労したが、ちょうど二人分の椅子が空いていたのでそこに座った。俺はカツ丼を食べながら莉奈に「ゲレンデで滑るより山に登って滑るほうが何倍もスキーが面白いでしょ?」と聞いてみた。すると莉奈は「うん!ゲレンデは人いっぱいだし、山に登って滑るほうが楽しい」と言った。莉奈にバックカントリースキーの面白さが伝わって本当に良かったと思った。世界線を分岐させることができれば、俺は莉奈をバックカントリースキーに連れて行きたいと思う。そのためにも俺は諦めてならない。あと二週間しかないが、きっとどこかで世界線が分岐するはずだと信じることにした。


そしてレストランを出て莉奈が「もうスキーは終わるの?」と言ったので俺は「ゲレンデを滑ってももう面白くないでしょ?」と言った。すると莉奈は「それもそうだね」と言った。短い雪山登山でわずか15分ほどのバックカントリースキーになったが、今日は莉奈にバックカントリースキーの魅力を知ってもらうために来たのだ。もうこれで十分だと思ったので、俺と莉奈はそのまま帰ることにした。


帰りの車の中でも莉奈は助手席でずっと眠っていた。莉奈は仕事で疲れているんだろうか、とにかく眠らせておいたほうがよさそうだと思った。そして高速道路を出たところあたりで莉奈は目を覚ました。莉奈は「もうこんなところまで戻ってきたんだ」と言った。俺は「莉奈、仕事で忙しかったりするの?」と聞いてみると莉奈は「最近、朝早く起きることがあって、寝不足だったかも」と言った。そして莉奈の家近くのコンビニエンスストアに到着した。莉奈は車の後ろから荷物を降ろして「じゃあまたね」と言って帰っていった。俺もそのまま自宅へ帰った。


俺は夕食を食べ終えた後にシャワーを浴びた。そして自分の部屋に入ってスマホで世界線の数値を確認した。すると5.96という数値になっていた。今日、莉奈と高日ヶ岳に行ったことで世界線の状態が変わったのだろうか。本来であれば女神の高原に行く予定だったようだが、もともとその予定はなかった。つまり、未来や過去を改変したことでもはや2033年の俺が辿ってきた過去とは違う世界線になっているということになる。それにしてもこのナンバー5の整数値だけはいつまでたっても変わらない。まだ何かをしないと分岐しないのだろうか。本当にナンバー5の数字は変わるのだろうか。だんだん心配になってきた。


■ 2019年2月14日(木)


朝10:00前に会社に出勤して自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。今日はバレンタインデーだが、俺は莉奈にチョコレートはあまり食べないからいらないと言っておいた。わざわざチョコレートを渡すために俺の家まで来てもらうのも申し訳ないと思ったからだ。朝から池上有希と小松結衣はシステム開発部の男性社員にチョコレートを配っていた。二人は俺にも「いつもお世話になっていますから」と言ってチョコレートを渡してくれた。俺はもともとバレンタインデーなんて興味はなかったが、せっかく貰えたものを興味がないからといって返すのも申し訳ない。しばらく業務をしていると西浦真美から『ちょっと休憩室に来てほしい』とテレパシーが送られてきた。俺は西浦真美に『すぐに行くよ』とテレパシーを送った。


俺は休憩室に入って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。そして西浦真美が「これ義理だけど受け取って」と言ってチョコレートを渡してくれた。俺が「ありがとう」と言うと西浦真美が椅子に座って話しはじめた。


「それで世界線の数値は今どうなってるの?」

「この前、莉奈とバックカントリースキーに行った時に変化して、今は5.96になってるよ」

「整数値の5は変わってないわけね。なかなか変わってくれないのね」

「もう時間があまりないんだよ。本当に世界線が分岐するのか心配になってきたよ」

「わたし思ったんだけど、世界線が分岐するということは、別の世界線に移動するんじゃなくて、新しい世界線が誕生するということになるのよね?もし、別の世界線に移動するということであれば、わたしや水嶋君が二人存在してしまうってことになるんじゃない?」

「なるほど、そういうことか。つまり世界線が分岐するということは、それは別の世界線に移動するんじゃなくて新しい世界線ができるということになるってことだね」

「新しい世界線が誕生するということは、その世界線の未来は存在しないんじゃないかしら。わたし達が未来を作っていかないといけないってことになるわね」

「この世界線の状態を示した数値だけど、やっぱり西浦さんの言った通り、小数点の値が上がったり下がったりしてるんだよ。ただ、どれだけ未来や過去を改変しても整数値は5のままで変わらないんだけどね」

「水嶋君が未来や過去を改変しはじめたもっと前の過去を改変させたらどうなるのかしら?それでも整数値は5のままになるのかしら」

「それは俺も考えたけど、俺が未来の改変をはじめた以前の過去を変えてしまうと、今のこの状態が大きく変化してしまう可能性があるんだよ。今までやってきたことが変わってしまうってことかな。それはあまりにもリスクがありすぎる」

「つまり水嶋君が踏切事故やスキーバスの事故を未然に回避したことも無かったことになる可能性があるってわけね」

「他にもいろいろしてきたことが全部無かったことになる可能性があるね。だからそれだけはできないんだけど、もう時間がないんだよね」

「時間がないってことはもうすぐ莉奈ちゃんが死ぬ運命になる日がやってくるってこと?」

「うん。ただ、もう改変させるべき事件や事故がない。近未来透視能力を使ってるけど特に大きなことは起きない」

「でも最後まで諦めないでね。ここまでやってきたんだから、きっとあともう少しのような気がするの」

「俺もそう願っているんだけど、この先に何か起こるんだろうかもうわからない。何をすれば正しいのかすらわからないんだよ」

「きっと何かあるはずだわ。水嶋君には最後の最後まで諦めずに頑張ってほしいの。わたしにはそれしか言えないけど、何かがまだあるような気がするの」

「西浦さん、ありがとうね。俺は最後の最後まで諦めずに頑張るつもりだよ」

「とにかく何か未来を改変させるべきことを見つけてみるのもいいかもね」

「そうだね。いろいろ見つけてみるよ。ところで本命チョコはもう渡したの?」

「本命チョコとまだ言えないかもしれないけど、一応渡したわよ」

「藤堂君、喜んでたでしょ?」

「まあそうね。かなり喜んでいるようだったわ」

「もう本命チョコでいいんじゃないの?二人は付き合ってるわけなんだしね」

「その話はいいのよ。とにかく水嶋君、頑張ってね」

「わかった。西浦さん、そう言ってくれてありがとうね」

「じゃあ、わたしはそろそろ戻るわね」

「俺も戻るね」


俺と西浦真美は休憩室を出た。俺は自分の席に戻って考えた。たしかに西浦真美の言ってた通り、世界線を分岐するということは新しい世界線を誕生させるということになる。そうなれば、その世界線の過去や未来はないはず。そしてその誕生した世界線の未来は俺達が作っていかなければいけないということになる。もし世界線が分岐して新しい世界線が誕生した場合、俺がタイムリープをするとどうなってしまうのだろう。ナンバー5の世界線にタイムリープしてしまうということなんだろうか。それとも新しい世界線では特殊能力はもう使えなくなるんだろうか。もうわからないことだらけだ。ただ、俺がしようとしていることは新しい世界線を誕生させるという大きなことなんだということはわかる。そんなことを考えながら、この日も何事も起こらず勤務時間終了の19:00になった。俺はさっさと退社して帰宅した。


■ 2019年2月17日(日)


今週末は雨が降っていたので登山に行かずに部屋でまったりしていた。昨日、莉奈が家にやってきてバレンタインデーに遅れたけどといってネックレスをプレゼントしてくれた。俺はそのネックレスを大事に机の引き出しにしまっておいた。今日も曇り空であまり天気はよくないので、家でまったりしていた。インターネットでゲームをしたりアニメを見たりしながら、ただ無駄な時間を過ごしているような感じだった。次の土曜日はいよいよ莉奈の運命となる日なのでとても登山の予定なんて入れることはできない。


昼食の時間になったのでキッチンへ行った。テーブルにはチャーハンと唐揚げ、わかめスープが置かれていた。俺はテーブルの椅子に腰かけて昼食を食べながらテレビを見ていた。特にこれといった面白い番組はなかった。昼食を終えると俺はさっさと自分の部屋に戻った。


西浦真美から未来を改変させるべきことを見つけようと最近の事件や事故のニュースを見ていたが、これといって大きなことが起こった記事は見つからなかった。そして、しばらくベッドに横たわりながらアニメの続きを見ていると屋根裏部屋のほうから何やら音が聞こえた。俺は不思議に思って押し入れを開けて確認してみた。すると屋根裏部屋から男性が部屋に下りてきた。その姿はまさに藤堂晃だった。俺は驚いたがこの藤堂晃の表情を見るとおそらくこの世界線の藤堂晃ではない。おそらく別の世界線からやってきたあの藤堂晃だ。藤堂晃は「こちらの世界線の水嶋さん、お久しぶりです」と言った。俺は「どうしたの?またそっちの世界線で何かあったの?」と聞いてみた。その藤堂晃は「いえいえ、僕の世界線で真美が復帰して会社の経営が安定したので、今日はご挨拶にきました」と言った。


水嶋祐樹「そうなんだ。それはよかったね。それでそっちの世界線の藤堂さんと西浦さんはどういう関係になっているの?」

藤堂晃「僕は真美と婚約しましたよ。結婚式の日程も決まりました」

水嶋祐樹「それはおめでとう。この世界線ではまだそこまで二人は発展してないんだけどね。そのためにこの世界線にやってきたの?」

藤堂晃「ええ。一応、ご報告とお礼をするために今日だけ特別にやってきました」

水嶋祐樹「そっか・・・わざわざそのためだけに来てくれたんだね」

藤堂晃「この世界線では水嶋さんと笹原さんの関係も進展していますか?」

水嶋祐樹「いや、そのことなんだけどね・・・」

藤堂晃「水嶋さん、なんだか元気ありませんね。何かありましたか?」

水嶋祐樹「うーん・・・別の世界線の藤堂さんだから言ってもいいのかな!?」

藤堂晃「よろしければ僕に話してもらえませんか?以前は僕の世界線でみなさんに助けてもらったので、今度は僕のほうがお返しをしたいです」

水嶋祐樹「実はね・・・」


俺は莉奈が近々この世界線では死んでしまう運命にあることや未来や過去を改変してきたことをこの藤堂晃に説明した。そして、その運命を変えるには世界線を分岐させないといけないということも説明した。


藤堂晃「なるほど、これはかなり難しい問題に直面していますね。水嶋さん、ちょっと白い紙と太いマジックはありませんか?」

水嶋祐樹「印刷用紙であれば、これを使ってくれればいいよ。マジックはこれを使ってくれればいいよ」

藤堂晃「ありがとうございます。まず世界線について説明しますね」


藤堂晃は白い紙に太いマジックで左から右へ線を引いた。左側に過去と書き、右側に未来と書いた。


藤堂晃「水嶋さん、まずこの一本の線が一つの世界線だと思ってください。そしてこの一本の線の中には無数の細い線が重なりあっていると思ってください。つまりこの一本の線の中には無数の線が重なりあって一本の線に見えているわけです」

水嶋祐樹「うん。それはわかった。一本の線の中には無数の細い線があるというわけだね」

藤堂晃「その無数の細い線は一本一本それぞれ状態が少し違ったミニ世界線と思ってください。細いミニ世界線が絡み合って一つの世界線ができているわけです」

水嶋祐樹「その理論はわかるよ。実はスマホに世界線の数値を見れるアプリケーションを入れてあるんだよ。これなんだけどね」

藤堂晃「同じようなアプリケーションであれば僕も持っていますよ。この世界線は5ですよね?ちなみに僕の世界線は11です」

水嶋祐樹「そうなんだ。こんなアプリケーションを今の技術でも開発できるんだ」

藤堂晃「世界線の数値を表す方法はそんなに難しい技術ではありません。僕はこのアプリケーションを使ってここにいる水嶋さん達を見つけたのです」

水嶋祐樹「そういうことだったんだ。じゃあ1や2の世界線も存在するということだね」

藤堂晃「そうですね。僕は1から世界線を見ていって水嶋さんや笹原さんが健全に生きてるこの5の世界線を見つけたのです」

水嶋祐樹「話を戻すけど、この太い線の中にある無数の細い線というのが、このアプリケーションでいうと小数点の数値のことだよね?」

藤堂晃「そういうことになります。簡単な世界線の仕組みの説明はこんな感じになります。無数の細い線、つまりミニ世界線が絡み合って世界線が構築されている仕組みになっています」

水嶋祐樹「それは俺もそう思っていたから世界線の理論ははわかったよ」

藤堂晃「そして、笹原さんの運命というのはこういうことになります」


藤堂晃は太い線の右側の未来と書かれたすぐ左側に小さく縦線を引いて、その下に”笹原さんの運命”と書いた。


藤堂晃「水嶋さん、つまりどれだけ未来や過去を改変しても細い線、ミニ世界線の行先はこの笹原さんの運命に繋がっているわけです」

水嶋祐樹「なるほどね。俺はそれを完全に分岐させたいと思ってるんだけどね」

藤堂晃「水嶋さんがしたいことはこういうことですよね?」


藤堂晃は線の真ん中の辺りから右斜め下に線を引いて右の線を引いた。つまり一本の線から分岐の線を引いた。


藤堂晃「これは世界線の完全分岐になりますが、このようにして笹原さんの運命を変えようとしているわけですよね?」

水嶋祐樹「そういうことなんだよ。でも藤堂さんの説明を聞いていると俺が未来や過去を改変し続けたのは無意味だったように思うんだけどね」

藤堂晃「そんなことはないと思いますが、この世界線を完全分岐させるためには矛盾が生じる出来事を起こすか、笹原さんの運命を変えてしまうしかないですね」

水嶋祐樹「たとえば、藤堂君のいる11の世界線では俺と莉奈は死んだわけだけど、タイムリープして助けに行ったら世界線は分岐すると言ってたよね?」

藤堂晃「それは矛盾が生じてしまいますから完全に世界線が分岐してしまいますね。僕は水嶋さんから特殊能力の力を引き継いだわけです。その僕がタイムリープをしてお二人を助けたとしましょう。すると特殊能力を持った僕ともともと特殊能力を持っていた水嶋さんが生きているという矛盾が生じます。笹原さんの特殊能力を奪った蒼井さんにも矛盾が生じます。そういう矛盾が生じると世界線は完全に分岐してしまいます」

水嶋祐樹「でも俺は踏切事故やスキーバスの事故を未然に防いで人の命を助けたんだけど世界線は変わらなかったのはどうして?」

藤堂晃「その人達が生きてても死んでも世界線にはそこまで影響がなかったということになります。ミニ世界線は変わりますが大きな変化はなかったということになりますね」

水嶋祐樹「俺がやってたことは無駄なことだったのか・・・」

藤堂晃「そうとは言い切れません。そこでもう一つ、世界線を完全に分岐させる方法として、笹原さんの運命を変えてしまうということになります」

水嶋祐樹「莉奈の運命を変えてしまうというのはどういうこと?」

藤堂晃「笹原さんの運命が死ぬことであるなら、それは結果になります。結果には必ず原因があるはずなんです。全ての結果は原因が作り出しているわけです。その原因を解決させれば、笹原さんの運命は変わって世界線は完全に分岐することになります」

水嶋祐樹「じゃあ、その原因が何かわかれば良かったわけか・・・最初から原因を見つけるべきだったかもしれない」

藤堂晃「笹原さんの運命という結果には複数の原因があると考えられます。ですので、水嶋さんが未来や過去を改変させてきたことは決して無駄ではなかったということになります。ただ、まだその原因が残っているということになります」

水嶋祐樹「複数の原因か。でも何が原因になってるんだろう。何かまだやり残したことってあったかな・・・」

藤堂晃「水嶋さんは自分の身の回りに起こる未来や過去を改変してきたと思いますが、笹原さんの身の回りに起こる未来や過去の改変はしていないのではないでしょうか?」

水嶋祐樹「たしかに、今までは俺の身の回りに起こったことの改変をしてきたけど、莉奈の身の回りのことは何も改変してこなかった」

藤堂晃「おそらくですが、笹原さんの身の回りに何かが起こっているのかもしれません。それももしかすると運命的な結果になっていて、その結果を作りだしている原因があるかもしれません。それを見つけ出して解決させると笹原さんの運命は変わる可能性がありますね」

水嶋祐樹「そういうことか。じゃあ莉奈の身の回りで何か事件や事故があったか聞いてみることにするよ」

藤堂晃「水嶋さんは今まで未来や過去を改変されてきたわけですから、あともう少しかもしれません。諦めずに頑張ってみてください」

水嶋祐樹「わかった。藤堂さん、ありがとうね。なんかだんだんわかってきたよ」

藤堂晃「笹原さんの運命が変わるといいですね。僕も別の世界線にいますが世界線が分岐するように祈っていますよ」

水嶋祐樹「うん。俺も絶対に莉奈の運命を変えてやろうと思ったよ。最後の最後まで絶対に諦めない!」

藤堂晃「では、僕はそろそろ元の世界線に戻りますね。みなさんによろしく言っておいてください」

水嶋祐樹「わかった。伝えておくよ」

藤堂晃「また屋根裏部屋をお借りしますね。失礼します」


別の世界線からやってきた藤堂晃は屋根裏部屋にあがっていった。今回、別の世界線からやってきた藤堂晃から聞いた話は大きなヒントになった。これから矛盾を生じさせるような出来事を起こすことはできない。やはり莉奈の運命を変えるしかないのだ。その結果には必ず原因がある。その原因を探し出すしかない。もうかなり未来や過去を改変させてきたので、あともう少しだと西浦真美も言ってくれていた。とにかく莉奈に身の回りで起こったことを聞いてみるしかないかと思った。


夕食の時間になったのでキッチンへ行って夕食をさっさと食べて、シャワーを浴びた。そして自分の部屋に入って俺は莉奈に電話をした。


「もしもし祐樹君、どうかしたの?」

「もしもし莉奈、突然ごめんね。変なことを聞くけど、最近、莉奈の身の回りで事件や事故が起こったりしなかった?」

「わたしの身の回りで事件や事故って、どうしてそんなこと聞くの?」

「いや、もし何か起こったのであれば助けに行きたいなって思ってるんだけどね」

「よくわかんないけど、先週に事故ならあったよ」

「それってどんな事故?」

「うちの保育園に通ってる園児がバイクにはねられちゃったの」

「それっていつ、どこで起こったのか詳しく聞かせてくれないかな?」

「えっとね、あれは先週の13日だったから水曜日だね。うちの保育園から10分ほど住宅街を歩いたところだったんだけど、右折してきた黒いバイクに園児がはねられちゃったの。その園児は今も重症で入院してるよ」

「その事故は何時頃に起こったの?」

「その日は確か母親が16:30頃に迎えにきたのよ。うちって本当は17:00までなんだけど、それまでに母親が迎えにきたから早めに帰ることになったの。それから10分後くらいだから16:40頃だと思うよ」

「その事故が起こった詳しい場所はわかる?」

「わかるよ。あの時は保育園でも騒ぎになって園長先生が現場に向かったから。事故が起こった場所の住所なら後で送るね」

「それでそのバイクにはねられた園児って男の子?女の子?」

「女の子だよ。桜田実憂って園児なんだけどね」

「2月13日の水曜日に莉奈の保育園から10分くらい住宅街を歩いたところで、16:40頃にその園児はバイクにはねられて重症で入院するわけだね?」

「そうだよ。まさか祐樹君、タイムリープして助けにいくつもりなの?」

「うん。できれば助けたいと思う」

「どうして助けに行きたいって思うの?」

「それがその園児の運命を変えることになるような気がするんだよ。そしてある運命も変わる気がする」

「運命が変わるってどういうこと?」

「今は詳しく言えないけど、とにかく住所を後で送ってね」

「わかった。祐樹君、前もスキーに行った帰りにいつか話すって言ってたことあったよね?それに関係することなの?」

「そうだよ。いつか莉奈に全てを話すよ。それまで待っててほしい」

「そっか・・・わかった。じゃあ話してくれるのを待ってるね」

「じゃあ住所を早速送ってね」

「電話切ったらすぐ送るね」

「よろしくお願いするね。じゃあそろそろ電話切るね」

「うん。祐樹君、おやすみなさい」


莉奈と電話を切った後、数分して莉奈から事故が起こった場所の住所が送られてきた。会社から大体1時間ちょっとのところか。16:40頃に事故が起こるとしたら2月13日にタイムリープして、15:00には早退して、事故が起こる現場に行くしかない。そしてその園児を助けるのだ。そう思った俺はタイムリープの準備をすることにした。ところがこれがとんでもない出来事であったと知ることになるのだ。

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